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セフィール家での休暇と想起の夏
久々のお世話 2
しおりを挟む私はドロレスに連れられて、部屋から出て少し歩いた先にある浴室へと向かった。
私は立っているだけだけれど、侍女たちが私の服をてきぱきと脱がして、脱衣所から浴室へと連れて行き、泡がモコモコしている浴槽へと浸けた。
ふわふわした泡立つスポンジで、足や腕を丁寧に洗ってくれる。
たくさんの手に優しく体を触ってもらいながら、私は目を閉じた。
ドロレスは私の髪を洗っている。久々の感覚に、身を委ねる。
女性の手は、フィオルド様のそれとはまるで違う。
気持ちが良いけれど、フィオルド様に触っていただいた時みたいに、どきどきはしない。
「……それにしても、お嬢様。殿下と良い関係になることができて、良かったですね」
「うん」
「学園で殿下のお世話になったんですよね、お礼をしないといけませんね」
ドロレスの声が、子守唄のように耳に響く。
泡に香油が混ぜてあるのか、花の甘く芳しい、良い香りがする。
「本当は、ドロレスも一緒に、学園寮に来て良かったそうなのよ。みんな、そうしているって。でも、私はずっと知らなくて、ひとりきりだったから、フィオルド様が……数日、私のお世話をしてくれたの」
「侍女を手配してくれたのですか? お嬢様、私たち以外の侍女を……! 浮気ですよ、お嬢様」
「そ、そうじゃなくて……フィオルド様のまわりには、女性がひとりもいないから、侍女もいなくて。だから、フィオルド様が私のお世話をしてくれて。お風呂に入れたり、お着替えを、手伝ってくださったり」
「……殿下が、直々に?」
「ん。私、一人でできるって言ったのだけれど、心配してくださって」
「殿下が、お風呂やお着替えを……お嬢様の……そんな状況で、間違いが起こらないはずもなく……」
「間違いって……?」
「いえ、こちらの話です。そんな薄い本があつくなるようなことがあったのですね、お嬢様。お嬢様、殿下とは愛を確かめあったのですよね?」
「……ええと、うん。好きだって、言ってくれたの。だから、そうだと思う」
「でも、殿下は潔癖だと評判ですよね。適切な距離を保ちそうでもありますよね。ここは私たち侍女の腕の見せ所かと思っていたのですが」
「腕の?」
「押し倒さずにはいられないぐらいに魅力に溢れたお嬢様に仕上げて、お風呂が終わった後に殿下の部屋に押し込んで、二人きりにしてみようかと思っていたんですよ。思いを遂げていただくのも、私たち有能な侍女の仕事かと思いまして。色々準備をしました」
私は薄く目を開いて、私の髪についた泡を落としているドロレスを見上げた。
「……よくわからないけれど、フィオルド様、すごく我慢、しているように見えたから」
「まぁ、我慢はしていたんでしょうけれど、ずっと」
「だから、私……最後までして欲しいって、お願いしたの。そうしたら、その、たくさん、愛して下さったわ」
「お嬢様、今、私の心にクリティカルヒットが。すでに瀕死なのですが。もう死んでも良い」
「ドロレス、死なないで……っ」
ドロレスはびしょびしょの手でメイド服の胸の部分を押さえて、浴室に蹲った。
びしょ濡れになるドロレスを気にせずに、他の侍女の方々が「それなら余計に、綺麗にしませんと」「美しくかつ可愛らしく妖艶なお嬢様を、殿下に見せて差し上げないと」などといって、私の体を磨き上げてくれた。
「セフィール家では、すでに色々経験済みとはいえ、殿下の自制心も普段の十倍ぐらいは高まるかもしれません。奥様と旦那様が、孫の顔が見たいとそれとなく圧力を私たちにかけてきたので、やはりここは私たちの腕の見せ所。お嬢様、頑張りますよ」
「よくわからないけれど、わかったわ……!」
浴室の床からのっそり起き上がったドロレスが、両手を握りしめて言った。
私もよくわからないけれど頑張らなければと、気合を入れた。
フィオルド様には、セフィール家で快適に過ごしていただきたいものね。私も、努力しなければ。
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