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セフィール家での休暇と想起の夏
あらぬ誤解は一瞬で 1
しおりを挟むドロレスや侍女の皆様に徹底的に磨かれて、胸や裾や袖にたっぷりレースとリボンがあしらわれた、それはもうひらひらで可愛らしいネグリジェに着替えた私は、肩からショールを羽織ってフィオルド様のお部屋へと向かった。
「ご、ご迷惑じゃないかしら……もう、眠っているかもしれないのに」
「好きな女子が部屋に来てくれて迷惑だと思う男なんてこの世の中に存在していません。もし迷惑だというような男がいたら、磔刑に処します。少なくとも私の所属している組合では、存在し得ない概念なので、問題ありません、お嬢様」
「ドロレスは、どういった組合に所属しているの……? 侍女の、互助会とか?」
「似たようなものですね」
ドロレスが言うと、他の侍女の皆さんもこくこくと頷いた。
時折ドロレスが口にする、組合――というものを、私はよく知らない。
ドロレスが口にする不思議な単語は、組合で使われている隠語のようなものらしい。
以前はドロレスだけが組合に所属していたのだけれど、いつの間にか他の侍女の皆さんも所属するようになったようだ。
私だけ、のけもののようで寂しい。
「……ドロレス」
「ちょっと寂しそうな顔をしないでくださいよ、お嬢様。侍女の互助会にお嬢様が入ってどうするんですか。正式には侍女の互助会ではありませんが、お嬢様の可愛らしさを話し合い確認しあい、昇華するような、そんな組織ですので、ご安心を」
「うん……」
「ドロレスはどんな組織に所属していても、お嬢様が大好きですよ」
「わ、私も、ドロレスが大好きよ……! フィオルド様も、好きだけれど、ドロレスのことは、特別に好きよ」
「可愛いなぁもう……!」
私に手を伸ばそうとしてくるドロレスを、他の侍女の方々がみんなで羽交い締めにした。
口々に「ドロレスさん、せっかくお嬢様を愛らしくしたのに、乱れてしまいます」「渾身の力を込めて髪を整えたのですから……!」と注意されて、ドロレスは残念そうに嘆息した。
「廊下でお嬢様を撫で回している場合じゃありませんでしたね、そういえば。殿下とお嬢様が添い遂げるのを見届けるのが本日の目標でした。お嬢様、頑張りますよ」
「うん、私、頑張るわね……!」
私は気合を入れるために両手を握りしめた。
私が頑張ることでフィオルド様が喜んでくださるのなら、こんなに嬉しいことはないもの。
ネグリジェは可愛いけれど、着ている私が可愛いかどうかは別として。
でも、みんなが心を込めて私を綺麗にしてくれたので、きっと大丈夫だと思う。
ふわふわの髪には、黒いリボンが巻かれている。
体には香油を塗ってもらったので、白い肌は艶やかで良い香りがする。
少なくとも、魔導学園にいた時よりは、見られる姿になっているはずだ。
「そのいきです、お嬢様!」
ドロレスや侍女の皆さんが励ましてくれるので、私は「うん」と頷いた。
それだけなのに、「お嬢様が生命力に満ちている」と喜んでもらえるので、今までの私はどれほど無気力だったのかしらと思って、私は心の中で反省した。
確かに、怠惰で面倒くさがりで、無気力で、逃げてばかりいた自覚はあるけれど。
今はもう、呼吸をするだけで苦しい、というようなことはない。
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