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セフィール家での休暇と想起の夏
はじめましてをもう一度 2
しおりを挟む私が一歩、踏み出せていれば。
一歩踏み出して、追いかけて、フィオルド様の手をとっていれば。
私たちはきっと、手を繋いで、庭園を歩くことができていたのかもしれない。
先程の私たちのように。
紫陽花や、睡蓮や、アイリスや、君子蘭や、庭を彩る珍しい花について、私はフィオルド様にお話をして。
フィオルド様は熱心に、それを聞いてくださって。
これからも、仲良くしようと微笑みあって、お別れを言うことができたかもしれないのに。
「……もう一度、やりなおそうか、リリィ」
フィオルド様は私の涙を拭うと、そっと私から体を離して、乱れた髪を撫でてくださる。
「もう一度?」
「そう。もう一度。はじめから。……私は、もう逃げない。……だから、お前も」
フィオルド様の言葉に、私は頷いた。
何度か瞬きをして、涙でぼやけた視界の焦点を結ぶ。
フィオルド様が、濡れたように光る紫陽花の中で、微笑んで私に手を伸ばしてくださっている。
「……私は、フィオルド・セントマリア。お前の婚約者だ、リリィ」
「……は、はじめまして。私は、リリアンナ・セフィールと申します。……どうか、よろしくお願いします」
差し出された手に、私の手をそっと重ねる。
フィオルド様は私の手を優しく握ってくださった。
「私は、……お前を大切にしたいと思っている。私の婚約者になってくれた、お前に、永遠に変わらぬ愛を誓う」
「……っ、……はい……っ、フィオルド様、私も、フィオルド様のことを、愛しています……」
手を引かれて、もう一度腕の中に抱き込まれる。
何度か「リリィ」と名前を呼ばれると、体じゅうが切なくて、胸の奥が苦しくて、でもあたたかくて。
感情と共に、魔力があふれて、こぼれていく。
私たちを取り囲む紫陽花が、その枝を伸ばして私たちを鳥籠のように囲んでいった。
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