リリアンナ・セフィールと不機嫌な皇子様

束原ミヤコ

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聖女の魔力と豊穣の秋

所有の証が半端ない 1

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 とりあえず、アニスさんとは仲直りできたみたいだ。

 元々親しいわけでもなく、喧嘩をしていたわけでもないので、仲直りという表現はおかしいのかもしれないけれど。

 アニスさんが集まった女生徒たちを、「見せ物ではないのよ」と言って下がらせてくれた。
 それから「それでは」ときびきびと挨拶をして部屋に戻ろうとするのを、ドロレスがその腕をがしっと掴んだ。


「まさか、もしや、これで終わりと思っているのではありませんよね? 私のお嬢様を貶めておいて、これで終わりなどと……頑張っているお嬢様の尊さときたら花丸百点満点といったところでしたけれど、謝っただけで、罪が消えるとでも? ええ? 消えるとでも?」

「ドロレス、ドロレス、もう大丈夫だから、怒らないで……!」


 アニスさんの腕を掴んでその顔に顔がくっつくぐらいの至近距離でアニスさんを睨むドロレスの服を、私は引っ張った。

 ドロレスが本気で怒っているところ、はじめて見た気がする。

 いつもにこにこしている印象の強いドロレスだけれど、迫力のある美人であり、私たちよりもずっと大人の女性なので、怒っていますという態度を全面に出すとかなり怖い。

 アニスさんも少しばかり涙目になっている。

 私もそうだけれど、アニスさんも身分が高いので、面と向かって叱られるという経験に乏しいのかもしれない。


「じ、侍女の分際で、不敬よ……! 確かに私が悪かったのは認めるけれど、あなたには関係がないわ。これは私とリリアンナの問題じゃない」

「お嬢様の問題は、私の問題。たとえ、軽々しくごめんね? って言われただけで絆される甘っちょろいお嬢様がアニス様を許したとしても、お嬢様のために生きお嬢様のために死ぬと決めているお嬢様の強火担ドロレスは許しません。あなたの、罪を、数えなさい。一つ一つを思い出させてあげましょう」

「ドロレス、その……死んでは駄目よ……」


 ドロレスの決意はありがたいけれど、ドロレスが死んでしまったら嫌だ。

 私はドロレスの服を引っ張りながら、泣きそうになるのをなんとか我慢した。


「死にませんとも! お嬢様と殿下の御子をこの腕に抱き、その後、孫やひ孫に至るまで私がお世話をするのですから、死にませんとも……!」

「どれだけ生きるつもりなのよ……! 離しなさいよ、ちょっと、離してってば!」

「アニス様、お話がありますので、お部屋までどうぞ。主に教育的指導というお話があります」

「リリアンナ、なんとか言って。この侍女をどうにかなさい!」

「……お話をするのは、良いことだと思います……その、断じるよりは、お話の方が……」

「断じるって何……? いえ、確かに、私が悪かったのは認めるし、リリアンナに皆の前であんな……屈辱を与えてしまったことは、あるまじき行いだと恥じてはいるけれど……!」


 ドロレスがずるずるとアニスさんを引きずっていく。

 私はその後ろを、何もできずについていった。

 ドロレスは怒っているけれど、多分酷いことはしないと思うの。変わったところはあるけれど、ドロレスが優しいことは私が一番よく知っているのだし。


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