137 / 200
聖女の魔力と豊穣の秋
変わり始める私の世界 1
しおりを挟むいつもぎりぎりまで眠って、朝ご飯も食べずにのろのろと支度をして、「行きたくない……」などと言いながら、部屋を出ていく私だけれど、久々にきちんと起きて、ドロレスが準備してくれた紅茶と果物を少し食べた。
制服に着替えると、ドロレスが髪を丁寧に梳かしてくれる。
すごく快適。
一人でいた時も、いつまでも寝ていられるという意味では快適だったけれど、そんな快適さなんて私の錯覚だったかのように、ドロレスが一緒にいてくれると安心するし、生活が整った。
逆にドロレスがいないと整わない私の生活は、どう考えても私が駄目だからなのよね。
身につまされる。
ドロレスに見送ってもらって学園寮から外に出ようとすると、ちょうどエントランスにアニスさんがいた。
「……おはようございます、アニスさん……!」
私はアニスさんの元へいくと、挨拶をした。
自分から、挨拶をしてしまったわ。すごく、前進している、私。
昨日私の部屋に、アニスさんは侍女のエヴァさんがお迎えに来てくれるまで結構長く滞在していた。
アニスさんの話では、どうやらアザレア公爵夫人はリアンお母様のことを、ロイスお父様を誑かした悪女だと言っているらしい。魔性の毒花、魅了の魔女。ロイスお父様だけでなく、実兄のバルツス皇帝陛下や、他の男性たちにも色目をつかっていたと。
そして、皇女という立場を利用して、アザレア公爵夫人からロイスお父様を奪い取った――そう、アニスさんは教えられてきたのだという。
お父様やお母様から聞いた話とはまるで違うけれど、でも、私も直接見たわけではないから、どれが真実なのかはわからない。
私の両親が嘘をついている可能性もあるのだし。
皇帝陛下に私のお母様が襲われたという話だけは、本当だと思うけれど、それは他の人たちから見たらお母様が皇帝陛下に色目を使っているように見えたのかもしれないし。
ともかく、それは昔のこと。
私たちには関係がないから、今までのことは忘れて仲直りをすることで私たちは落ち着いた。
ドロレスには甘いと言われたけれど、私はそれで良いと思う。
仲が悪いより、仲が良い方が良いし。私がアニスさんの立場だったら、私だってアニスさんと同じようにしていたかもしれないのだし。
それに、私は今、とっても幸せだから。他のことなんて、結構どうでもよくて。アニスさんの不幸を望むよりは、私と仲良くしてくれると、嬉しいなって思ってしまうのよね。
「リリアンナ、おはよう。アニスさんじゃなくて、アニスで良いって言ったでしょう。私たちの立場は同じなのだから、遠慮は必要ないわ」
「嬉しい、ですけれど……私にはまだ、敷居が高くて……」
「まぁ、良いわ。昨日は遅くまで、悪かったわね。よく眠れた?」
「はい……! お気遣い、ありがとうございます」
「……今までは、私があなたのことを悪く言っていたから、身分の低いものたちも、三大公爵家のあなたを侮って、同じように陰口を言っていたわ。それは許されないこと。私のせいで、そんな不敬がまかり通ってしまっていたの」
エントランスには、学園に向かう女生徒たちの姿がちらほらある。
朝からするような話じゃない気がするのだけれど、アニスさんはいつも通り高らかに、堂々と私に話をしている。
「アニスさん、もう、良いですから……もう、大丈夫なので……」
「私はわざと、皆に聞こえるように言っているのよ、リリアンナ。私はあなたを誤解していた。全て私が悪かったの。けれどまだあなたを誤解している人たちが大勢いるかもしれない。もし、何かあったら私に言って。レランディア公爵家の名にかけて、不敬な輩を許しはしないわ」
「……アニスさん……ありがとうございます」
「今まであなたを罵っていた私が、何を言っているのやらって思われるかもしれないけれど。間違いは認めて、罪を償う。それが正しいあり方よね。殿下には、謝罪に行くつもりよ。どんな罰でも受けるわ」
「……罰、なんて。ただ、誤解があっただけで、私の態度も、よくなかったので……」
「そういうわけにはいかないわ。これは私の、けじめの問題。時間をとらせて悪かったわね、リリアンナ。……殿下が、あなたを待っているわ」
「フィオルド様が……?」
「ええ。お迎えに来てくれているそうよ。じゃあ、また、教室で会いましょう」
「あ、アニスさんも、一緒に……」
「わ、わ、私は良いわよ、昨日、色々聞いてしまったから……殿下の顔は、しばらくまともに見れそうにないもの」
「アニスさん……私、何か、余計なことを……」
仲良くしようとしてくれているアニスさんに、失礼なことを言ってしまったのかしら。
フィオルド様のこと、悪く言ったつもりはないのだけれど。
10
あなたにおすすめの小説
一級魔法使いになれなかったので特級厨師になりました
しおしお
恋愛
魔法学院次席卒業のシャーリー・ドットは、
「一級魔法使いになれなかった」という理由だけで婚約破棄された。
――だが本当の理由は、ただの“うっかり”。
試験会場を間違え、隣の建物で行われていた
特級厨師試験に合格してしまったのだ。
気づけばシャーリーは、王宮からスカウトされるほどの
“超一流料理人”となり、国王の胃袋をがっちり掴む存在に。
一方、学院首席で一級魔法使いとなった
ナターシャ・キンスキーは、大活躍しているはずなのに――
「なんで料理で一番になってるのよ!?
あの女、魔法より料理の方が強くない!?」
すれ違い、逃げ回り、勘違いし続けるナターシャと、
天然すぎて誤解が絶えないシャーリー。
そんな二人が、魔王軍の襲撃、国家危機、王宮騒動を通じて、
少しずつ距離を縮めていく。
魔法で国を守る最強魔術師。
料理で国を救う特級厨師。
――これは、“敵でもライバルでもない二人”が、
ようやく互いを認め、本当の友情を築いていく物語。
すれ違いコメディ×料理魔法×ダブルヒロイン友情譚!
笑って、癒されて、最後は心が温かくなる王宮ラノベ、開幕です。
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。
【R18】純粋無垢なプリンセスは、婚礼した冷徹と噂される美麗国王に三日三晩の初夜で蕩かされるほど溺愛される
奏音 美都
恋愛
数々の困難を乗り越えて、ようやく誓約の儀を交わしたグレートブルタン国のプリンセスであるルチアとシュタート王国、国王のクロード。
けれど、それぞれの執務に追われ、誓約の儀から二ヶ月経っても夫婦の時間を過ごせずにいた。
そんなある日、ルチアの元にクロードから別邸への招待状が届けられる。そこで三日三晩の甘い蕩かされるような初夜を過ごしながら、クロードの過去を知ることになる。
2人の出会いを描いた作品はこちら
「純粋無垢なプリンセスを野盗から助け出したのは、冷徹と噂される美麗国王でした」https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/443443630
2人の誓約の儀を描いた作品はこちら
「純粋無垢なプリンセスは、冷徹と噂される美麗国王と誓約の儀を結ぶ」
https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/183445041
最愛の番に殺された獣王妃
望月 或
恋愛
目の前には、最愛の人の憎しみと怒りに満ちた黄金色の瞳。
彼のすぐ後ろには、私の姿をした聖女が怯えた表情で口元に両手を当てこちらを見ている。
手で隠しているけれど、その唇が堪え切れず嘲笑っている事を私は知っている。
聖女の姿となった私の左胸を貫いた彼の愛剣が、ゆっくりと引き抜かれる。
哀しみと失意と諦めの中、私の身体は床に崩れ落ちて――
突然彼から放たれた、狂気と絶望が入り混じった慟哭を聞きながら、私の思考は止まり、意識は閉ざされ永遠の眠りについた――はずだったのだけれど……?
「憐れなアンタに“選択”を与える。このままあの世に逝くか、別の“誰か”になって新たな人生を歩むか」
謎の人物の言葉に、私が選択したのは――
極上イケメン先生が秘密の溺愛教育に熱心です
朝陽七彩
恋愛
私は。
「夕鶴、こっちにおいで」
現役の高校生だけど。
「ずっと夕鶴とこうしていたい」
担任の先生と。
「夕鶴を誰にも渡したくない」
付き合っています。
♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡
神城夕鶴(かみしろ ゆづる)
軽音楽部の絶対的エース
飛鷹隼理(ひだか しゅんり)
アイドル的存在の超イケメン先生
♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡
彼の名前は飛鷹隼理くん。
隼理くんは。
「夕鶴にこうしていいのは俺だけ」
そう言って……。
「そんなにも可愛い声を出されたら……俺、止められないよ」
そして隼理くんは……。
……‼
しゅっ……隼理くん……っ。
そんなことをされたら……。
隼理くんと過ごす日々はドキドキとわくわくの連続。
……だけど……。
え……。
誰……?
誰なの……?
その人はいったい誰なの、隼理くん。
ドキドキとわくわくの連続だった私に突如現れた隼理くんへの疑惑。
その疑惑は次第に大きくなり、私の心の中を不安でいっぱいにさせる。
でも。
でも訊けない。
隼理くんに直接訊くことなんて。
私にはできない。
私は。
私は、これから先、一体どうすればいいの……?
娼館で元夫と再会しました
無味無臭(不定期更新)
恋愛
公爵家に嫁いですぐ、寡黙な夫と厳格な義父母との関係に悩みホームシックにもなった私は、ついに耐えきれず離縁状を机に置いて嫁ぎ先から逃げ出した。
しかし実家に帰っても、そこに私の居場所はない。
連れ戻されてしまうと危惧した私は、自らの体を売って生計を立てることにした。
「シーク様…」
どうして貴方がここに?
元夫と娼館で再会してしまうなんて、なんという不運なの!
【完結】異世界に転移しましたら、四人の夫に溺愛されることになりました(笑)
かのん
恋愛
気が付けば、喧騒など全く聞こえない、鳥のさえずりが穏やかに聞こえる森にいました。
わぁ、こんな静かなところ初めて~なんて、のんびりしていたら、目の前に麗しの美形達が現れて・・・
これは、女性が少ない世界に転移した二十九歳独身女性が、あれよあれよという間に精霊の愛し子として囲われ、いつのまにか四人の男性と結婚し、あれよあれよという間に溺愛される物語。
あっさりめのお話です。それでもよろしければどうぞ!
本日だけ、二話更新。毎日朝10時に更新します。
完結しておりますので、安心してお読みください。
【完結】20年後の真実
ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
公爵令息のマリウスがが婚約者タチアナに婚約破棄を言い渡した。
マリウスは子爵令嬢のゾフィーとの恋に溺れ、婚約者を蔑ろにしていた。
それから20年。
マリウスはゾフィーと結婚し、タチアナは伯爵夫人となっていた。
そして、娘の恋愛を機にマリウスは婚約破棄騒動の真実を知る。
おじさんが昔を思い出しながらもだもだするだけのお話です。
全4話書き上げ済み。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる