リリアンナ・セフィールと不機嫌な皇子様

束原ミヤコ

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聖女の魔力と豊穣の秋

変わり始める私の世界 1

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 いつもぎりぎりまで眠って、朝ご飯も食べずにのろのろと支度をして、「行きたくない……」などと言いながら、部屋を出ていく私だけれど、久々にきちんと起きて、ドロレスが準備してくれた紅茶と果物を少し食べた。

 制服に着替えると、ドロレスが髪を丁寧に梳かしてくれる。

 すごく快適。
 一人でいた時も、いつまでも寝ていられるという意味では快適だったけれど、そんな快適さなんて私の錯覚だったかのように、ドロレスが一緒にいてくれると安心するし、生活が整った。

 逆にドロレスがいないと整わない私の生活は、どう考えても私が駄目だからなのよね。

 身につまされる。
 ドロレスに見送ってもらって学園寮から外に出ようとすると、ちょうどエントランスにアニスさんがいた。


「……おはようございます、アニスさん……!」


 私はアニスさんの元へいくと、挨拶をした。

 自分から、挨拶をしてしまったわ。すごく、前進している、私。


 昨日私の部屋に、アニスさんは侍女のエヴァさんがお迎えに来てくれるまで結構長く滞在していた。

 アニスさんの話では、どうやらアザレア公爵夫人はリアンお母様のことを、ロイスお父様を誑かした悪女だと言っているらしい。魔性の毒花、魅了の魔女。ロイスお父様だけでなく、実兄のバルツス皇帝陛下や、他の男性たちにも色目をつかっていたと。

 そして、皇女という立場を利用して、アザレア公爵夫人からロイスお父様を奪い取った――そう、アニスさんは教えられてきたのだという。

 お父様やお母様から聞いた話とはまるで違うけれど、でも、私も直接見たわけではないから、どれが真実なのかはわからない。

 私の両親が嘘をついている可能性もあるのだし。
 皇帝陛下に私のお母様が襲われたという話だけは、本当だと思うけれど、それは他の人たちから見たらお母様が皇帝陛下に色目を使っているように見えたのかもしれないし。

 ともかく、それは昔のこと。
 私たちには関係がないから、今までのことは忘れて仲直りをすることで私たちは落ち着いた。
 ドロレスには甘いと言われたけれど、私はそれで良いと思う。

 仲が悪いより、仲が良い方が良いし。私がアニスさんの立場だったら、私だってアニスさんと同じようにしていたかもしれないのだし。

 それに、私は今、とっても幸せだから。他のことなんて、結構どうでもよくて。アニスさんの不幸を望むよりは、私と仲良くしてくれると、嬉しいなって思ってしまうのよね。


「リリアンナ、おはよう。アニスさんじゃなくて、アニスで良いって言ったでしょう。私たちの立場は同じなのだから、遠慮は必要ないわ」

「嬉しい、ですけれど……私にはまだ、敷居が高くて……」

「まぁ、良いわ。昨日は遅くまで、悪かったわね。よく眠れた?」

「はい……! お気遣い、ありがとうございます」

「……今までは、私があなたのことを悪く言っていたから、身分の低いものたちも、三大公爵家のあなたを侮って、同じように陰口を言っていたわ。それは許されないこと。私のせいで、そんな不敬がまかり通ってしまっていたの」


 エントランスには、学園に向かう女生徒たちの姿がちらほらある。
 朝からするような話じゃない気がするのだけれど、アニスさんはいつも通り高らかに、堂々と私に話をしている。


「アニスさん、もう、良いですから……もう、大丈夫なので……」

「私はわざと、皆に聞こえるように言っているのよ、リリアンナ。私はあなたを誤解していた。全て私が悪かったの。けれどまだあなたを誤解している人たちが大勢いるかもしれない。もし、何かあったら私に言って。レランディア公爵家の名にかけて、不敬な輩を許しはしないわ」

「……アニスさん……ありがとうございます」

「今まであなたを罵っていた私が、何を言っているのやらって思われるかもしれないけれど。間違いは認めて、罪を償う。それが正しいあり方よね。殿下には、謝罪に行くつもりよ。どんな罰でも受けるわ」

「……罰、なんて。ただ、誤解があっただけで、私の態度も、よくなかったので……」

「そういうわけにはいかないわ。これは私の、けじめの問題。時間をとらせて悪かったわね、リリアンナ。……殿下が、あなたを待っているわ」

「フィオルド様が……?」

「ええ。お迎えに来てくれているそうよ。じゃあ、また、教室で会いましょう」

「あ、アニスさんも、一緒に……」

「わ、わ、私は良いわよ、昨日、色々聞いてしまったから……殿下の顔は、しばらくまともに見れそうにないもの」

「アニスさん……私、何か、余計なことを……」


 仲良くしようとしてくれているアニスさんに、失礼なことを言ってしまったのかしら。

 フィオルド様のこと、悪く言ったつもりはないのだけれど。



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