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聖女の魔力と豊穣の秋

植物園での昼休み 1

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 校舎から少し歩いたところに、植物園と呼ばれている建物がある。
 様々な薬草や、皇国の植物をあつめて育てているそこは、数代前の学園長の趣味で作られた建物らしい。

 セントマリア魔導学園の学園長というのは、優秀な元宮廷魔導士の方が選ばれることもあれば、皇家のどなたかが志願してその地位に就くこともある。

 後者の場合は、どちらかというと道楽の意味が強いらしい。


 植物園を建てた学園長も、数代前の王弟だったという話だ。薬草や草木を収集する癖があって、趣味が高じて立派な植物園を建設するに至った――というわけである。

 あらゆる草木を集めてある植物園は、温度を一定にするために外壁に魔法の力を帯びたクリスタルが使用されていて、三角錐の形をした壁から外が綺麗に透けて見える。

 青空も、校舎も、昼下りにお散歩をする生徒の姿も中からはっきりと見えるのに、外から中は見ることができない。

 外から中を覗き込むと見ることができるのは、シャボン玉のように不可思議に揺らめく外壁と、そこにぼんやりと映り込む自分の姿ぐらいだ。

 植物園の中はまるで森のようになっていて、入り口から左右に様々な花や、うっそうと茂った木々、それから蝶々やら、鳥の姿などもあり、どういう造りなのかは良く分からないけれど、小川などもある。

 小道を進んでいくと、三角錐のちょうど中央に円形の休憩所があって、長椅子やテーブルがいくつか置かれている。

 休憩所の長椅子に座ると、まるで深い森の中で空を見上げているような景色を見ることができる。

 食堂の特別室で軽食をすませた私とフィオルド様は、植物園に来ていた。

 他の生徒たちの姿がないのは、植物園が休憩時間を過ごす場所としては、あまり人気がないからという理由もある。

 私がフィオルド様と仲良くなることができる前、一人きりになりたくて時々来ていたこともあったぐらいに、この場所にはあまり人が来ない。

 人為的につくられた安全な森の中にいるみたいで私は好きだけれど、他の生徒たちにとっては魅力的じゃないみたいだ。

 その理由は、「わざわざ昼休憩の時間に、大自然の中には行きませんよ。あそこは無駄に広いですから。それよりも、サロンでゆっくりお茶を飲んだり、本を読んだりする方が休まるというものです」と、昼休憩を共にしたフォルトナ様が教えてくれた。


「外観からして広いのだろうなと思っていたが、案の定かなり中も広いのだな、ここは。三年も学園で生活しているのに、はじめて中に入った」


 木々や蝶や、咲き乱れる花を眺めながら、感心したようにフィオルド様が言う。

 密閉された建物の中だけれど、息苦しさはあまり感じない。

 外壁が透けて外が見えるから、中に入っても外にいるのとさほど大差がないからかもしれないし、涼しい風が頬を撫でるからかもしれない。

 夏が近いせいか、外気温は少し高い。植物園の中の方が、涼しいぐらいだ。

 いたるところから青々と葉を伸ばし、花を咲かせている草木の生命力が充満しているような植物園の中は、花の香と、新緑の爽やかな香りに満ちている。

 中央の休憩所に辿り着くまで、少し距離があった。


「随分、歩かせてしまったな。疲れてはいないだろうか。リリィはここに来たことは?」

 開けた場所に置かれた長椅子に座って、フィオルド様は空を見上げたあとに、私に言った。

「何度か、あります。ここには、あんまり人がこないから。……植物は好きだし、一人で過ごすには、ちょうど良い場所で」

「……一人きりで、ここに?」

「ええと、……はい」


 改めて尋ねられると、ちょっと恥ずかしい。

 私はここに逃げ込んでいた。
 フィオルド様と顔を合わせるのも嫌だったし、お友達もいないし、独りぼっちだったし。

 情けないわよね、私。
 今も情けなさについては、そんなに変わっていないのだけれど。


「……寂しかっただろう、リリィ。……私のせいだな。二度と、同じ思いはさせたりしない」

「あ、あの……ありがとうございます……でも、ここ、お花や、蝶々や、小鳥もいて、そんなに寂しくはなくて、……むしろ、気が休まるから、その、……隠れ家みたいで、少し楽しかったんです」


 寂しくなかったと言えば嘘になるけれど、一人きりになることができてほっとしたというのも、本当だ。

 一人きりになれたのを良いことに、広い長椅子の上に横になって、丸まってお昼寝をしたりもしていた。

 そして、そのまま寝過ごしそうになったことも何度かある。


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