リリアンナ・セフィールと不機嫌な皇子様

束原ミヤコ

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聖女の魔力と豊穣の秋

私の知らないこの国のこと 1

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 フィオルド様と私は、シリウス様とアニスさんと共に聖堂へと向かった。

 三の城から一度中庭を抜けて更に奥に進んだ場所にある大きな聖堂は、屋根の上にセントマリア家を象徴する大きな翼を持った尾の長い鳥の彫刻が飾られている。

 開かれた扉の奥に、礼拝堂が見える。

 大きなステンドグラスの前には、翼あるセントマリア様とマリアテレシア様の白い石像。

 大きな翼を広げて剣を掲げた雄々しい姿をしたセントマリア様と、それから、頭から白い布をかぶっていて口元しか見ることができないけれど、口元に優しげな微笑みを浮かべたマリアテレシア様の姿。


「ドロレス……!」


 フィオルド様に手を引かれて礼拝堂の奥へと進んでいくと、見知った女性が私に大きく両手を振ってくれた。

 いつものメイド服を着たドロレスだった。

 その隣には、ドロレスにはあんまり似ていない、魔導師風の服を着た若々しい男性の姿。

 そして、陛下と、アミティ様がいらっしゃる。

 ドロレスと兄妹に見えてしまうほどの若々しい風貌の男性が、きっとヴェルダナ辺境伯なのだろう。

 色の抜けたような白い髪と金色の瞳をした男性は、ドロレスを嗜めるようにしてその頭を手にしている細長い杖で軽く小突いた。


「お嬢様、お嬢様! 私のお嬢様! とうとう聖女だということを知ったのですね、お嬢様。それでも泣かずに逃げずにこの場所に来てくださるなんて、ドロレスのお嬢様はとても成長しましたね……!」

「ドロレス、静かになさい。それにお前のお嬢様ではないだろう。全く、困った娘だ」


 ヴェルダナ辺境伯は、顔に見合わず渋めの低い声で言った。

 私たちは辺境伯の前で足を止める。

 ステンドグラスを背にした辺境伯は、別の世界からの使者のようにも思えた。


「リリアンナ様、久しぶりですね。久しぶりといっても、君が産まれたばかりの時に一度あったきりだが。随分大きくなられました。それは十六年もたてば大きくもなりますね」

「はじめまして、ヴェルダナ辺境伯様。ドロレスにはいつもお世話になっています」


 私はお辞儀をした。

 アニスさんも私の横で辺境伯に挨拶をした。

 辺境伯は私たちの顔を見渡すと、フィオルド様に視線を向ける。


「こちらこそ、リリアンナ様。――およその事情は全て皇帝陛下からお聞きしました。リアン様やロイス様からも以前聞いてはいましたが、双方の事情を聞くとなると、また印象が変わるもの。陛下のお気持ちも、理解できる部分はあります」

「魔物や……それから、魔族の脅威、について……?」

「リリアンナ様は、おそらくは、知らないことが多いのでしょう。ロイス公爵やリアン様の方針で、リリアンナ様にはこの国の抱えている事情については伏せていることも多い。……殿下も、リリアンナ様を気づかい、全てを話してはいない。リリアンナ様には知る権利があると私は考えます」

「……お嬢様を怖がらせるような言い方をしないでください、お父様」


 ドロレスが辺境伯を睨んだ。




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