173 / 200
聖女の魔力と豊穣の秋
魔力の解放 1
しおりを挟む辺境伯が、私に向かい細い杖を向ける。
フィオルド様は私を守るようにして、私の体をきつく抱きしめたまま離すことはなかった。
「……すでに、私の施した封印にほころびがあるようですね。リリアンナ様、君の体に――二つの力を感じます。円環を満たす、セントマリアの大いなる力。女神の力と溶け合い、混じり合い、これは――」
私の足下に、光り輝く大きな魔方陣が描かれていく。
見たこともない文字が浮かび上がり、複雑な模様を作り上げる。
「杯よりこぼれ門に至り、眠れし力よ。今再びその眠りから目覚め、聖杯を満たせ。円環は綻び、門は開かれる。満ちろ、満ちろ、目覚めよ――おはよう、リリアンナ」
体中が、あつい。
私は目を見開いて、フィオルド様の腕を掴む。
辺境伯の声を、私は知っている。
――おやすみ、リリアンナ。
記憶の底に刻まれたその声が、今度は目覚めろと私を呼んでいる。
私を縛り付けている金の円環が、朽ちて砂のように崩れて消えていく。
「……あつい」
「リリィ、大丈夫か……?」
不安げに、フィオルド様が私を覗き込んでいる。
フィオルド様と目があった瞬間、頭の中で何かが弾けた。
「――――っ、ぅ、ああ……」
「リリィ……!」
「古き神々は混沌の大地に海をつくり、山を作り、川を作った。一人の女神がその地に降り立ち、己の骨で翼あるセントマリアを造った。マリアテレシアとセントマリアより産まれし我らは、皆、神の子である――二つの魔力が交わりし時、再び、この地に女神が降臨するだろう」
どこか熱に浮かされたような声で、陛下が言った。
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
2,037
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる