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聖女の魔力と豊穣の秋

魔力の解放 1

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 辺境伯が、私に向かい細い杖を向ける。

 フィオルド様は私を守るようにして、私の体をきつく抱きしめたまま離すことはなかった。


「……すでに、私の施した封印にほころびがあるようですね。リリアンナ様、君の体に――二つの力を感じます。円環を満たす、セントマリアの大いなる力。女神の力と溶け合い、混じり合い、これは――」


 私の足下に、光り輝く大きな魔方陣が描かれていく。

 見たこともない文字が浮かび上がり、複雑な模様を作り上げる。


「杯よりこぼれ門に至り、眠れし力よ。今再びその眠りから目覚め、聖杯を満たせ。円環は綻び、門は開かれる。満ちろ、満ちろ、目覚めよ――おはよう、リリアンナ」


 体中が、あつい。

 私は目を見開いて、フィオルド様の腕を掴む。

 辺境伯の声を、私は知っている。

 ――おやすみ、リリアンナ。

 記憶の底に刻まれたその声が、今度は目覚めろと私を呼んでいる。

 私を縛り付けている金の円環が、朽ちて砂のように崩れて消えていく。


「……あつい」

「リリィ、大丈夫か……?」


 不安げに、フィオルド様が私を覗き込んでいる。

 フィオルド様と目があった瞬間、頭の中で何かが弾けた。


「――――っ、ぅ、ああ……」

「リリィ……!」

「古き神々は混沌の大地に海をつくり、山を作り、川を作った。一人の女神がその地に降り立ち、己の骨で翼あるセントマリアを造った。マリアテレシアとセントマリアより産まれし我らは、皆、神の子である――二つの魔力が交わりし時、再び、この地に女神が降臨するだろう」


 どこか熱に浮かされたような声で、陛下が言った。


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