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聖誕祭と希望の冬
宝石の檻 1
しおりを挟む私たちが居た場所は、お城の地下だったようだ。
私の姿をしたレイフィアさんは、体の姿も衣服ですら模倣できるらしく、ドレスや髪飾りまで私が身に纏っていたものと全く同じに見える。
レイフィアさんは私を閉じ込めた宝石を、私が身につけていた首飾りへと変化させて、自分の首につけている。
「あなたの聖女の力は、これで私のもの。あなたの立場も、フィオルド様の愛も、全て私のもの。私は優秀な王妃になる。そして聖女の役目も立派に果たしてみせる。あなたのように、怯えたりせずにね」
薄暗い部屋から出て、明るい日差しが降り注ぐ長い回廊を歩きながらレイフィアさんが言う。
吹き抜けになっている回廊の並ぶ柱に区切られた四角い景色には、冬に咲く白い薔薇の姿がある。
宝石の中から、私は世界を見ている。レイフィアさんの声も、まるで普通に会話をしているかのように、良く聞こえた。
「皇国の民にとってもその方が幸せでしょう。ろくに魔力を使えないあなたなんかより、私の方がよほど聖女として、フィオルド様のお役にたつことができるもの」
自信に満ちあふれた私の声が聞こえる。
私にはとても、言えない言葉だった。
自分が誰かの役に立つなんてとても思うことができない。聖女でいることだって――怖いと思うのに。
(私の選択一つで、……誰かが傷ついてしまうかもしれない。……私は、……間違えてしまうかもしれないもの)
聖女とはただこの国に在るだけで、魔物を鎮め、魔族に対する抑止力になるのだという。
けれど例えば何かがあって、命の選択を迫られたとしたら。
私の命を差し出すことで、――例えば、フィオルド様を救うことができるとしたら。
私は自分の立場を忘れて、それを選んでしまうような気がする。
大切な誰かより、顔も知らない多くの人々を選ぶことは――きっと私にはできない。
だから、怖い。
自信なんて、まるでない。
今までの私なら怯えて逃げ出していた。何も見ないふりをして聞こえていないふりをして、耳を塞いで目を閉じていた。
それでも、怖いけれど、自信なんてこれっぽっちも持てないけれど、逃げたくないと思う。
それは、フィオルド様を愛しているから。
フィオルド様が良い王になるための、お手伝いがしたいから。
どこまでも自分本位で我が儘だけれど、私の理由なんて、それぐらいしかない。
「そうね、最初に魔族の国ネクタリスを聖女の私が消してあげましょう。あの国は危険よ。技術も、魔法も、皇国よりもよほど発展している。あちらが攻めてくる前に、滅ぼすべきだわ」
(そんなことをしたら……争いが、起ってしまう……)
私は震える体を叱咤して、もう一度宝石の壁を握った拳で叩いた。
両手の痛みが増すばかりで、やはり壁はびくともしない。
レイフィアさんは軽やかな足取りで大広間に向かっているようだった。
どうしよう。どうしたら、良いの。
フィオルド様に、レイフィアさんを会わせたくない。
私がずっとここから出ることができなくて、レイフィアさんが私として皆に受け入れられたら――私の大切な人たちが、魔族との争いの中で命を落とすことになってしまうかもしれない。
(……私として、生きることは、幸せなの? 自分を失ってまで、愛されたいと願うの……?)
私は消えて、私がうまれて、レイフィアさんという存在はどこにもいなくなる。
それでも良いと思うぐらいに、レイフィアさんはフィオルド様の愛が欲しいのだろうか。
分からない。
考えたこともなかった。
それは私がフィオルド様に愛されているからなのかもしれない。愛されていることを知ってっている。もしかしたら私は、――傲慢なのかもしれない。
(ここから、出ないと……なんとかして、ここから……)
使い慣れていない魔力を、手のひらから宝石の壁に向けて注ぐ。
目映い光が手のひらから溢れたけれど、それだけだった。
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