元男爵令嬢、鉱山へ行く?

能登原あめ

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4 ベルのむかしばなし

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 生まれた時にはすでに八人の兄と姉がいた。
 歩けるようになると、忙しい両親に代わって私の面倒を……あまり見てくれなかったけど、ちょこちょこ彼らの後をついて回るようになった。

 野原を駆け回る時も、山で木の実を拾ったり、魚を釣ったりする時も。
 たいてい邪険にされて、渋々姉二人が世話をしてくれた。
 そうは言っても、姉同士は歳が近くて仲が良く、どうしてもポツンとすることが多かったし、男兄弟は腕白すぎてついていけなかった。
 人数がいると、家族の中でも複雑な人間関係が生まれると気づいてうまく立ち回ることを覚えたけれど。

 みんな子どもだから、理不尽なことが多かった。
 かくれんぼして、山の中に置いて行かれるとか。
 ある日も、隠れているうちに私のことを忘れたのか、邪魔だから置いていかれたのか、一人ぼっちになっていた。
 ちょうど、五歳の頃のこと。
 心細くて泣きそうになっていた私の前に、一匹の真っ白い動物が現れた。

 犬に似ているけど、それより大きいから、狼だと思った。
 家族から山の奥に狼がいるらしいと、遠くまで行かないように耳にタコができるほど何度も言われてきたから。
 ゆっくり、でもまっすぐ近づいてきて、パタパタ尻尾を振りながら私の顔を舐めた。

『くすぐったい、よ。おおかみしゃん。きれいなおめめ……キラキラしてるね』

 青よりもっとうすい色。
 のちにアイスブルーと言うんだって知った。
 そっと体を撫でると、すりすり身を寄せてくる。
 温かくて、香ばしくておいしそうなにおいに寂しかった気持ちが一瞬でなくなった。

『わたしの、おおかみしゃん。またあえる?』

 それから、私が一人の時に何度も現れた。
 成長するにつれ、山の入り口に現れる、人懐っこいその存在が、狼じゃなくて犬だって気づいたけど、最初の頃に名前をつけていたからその名で呼んでいた。

『ルディって、よんでいい? すぐれたオオカミってイミなんだって』

 もちろん相手から返事はなかったけど、唇をぺろぺろ舐められて、尻尾もパタパタしているから、気に入ったんだと私は思った。
 
 ルディとの交流は私が男爵家に引き取られるまで続いた。
 日々の暮らしのことや、好きな食べ物、嫌いな食べ物、家族のこともなんでも話してきた。

『ルディ、私、男爵家に引き取られることが決まったの。王都に行くからもう会えないかもしれない。……ずっと一緒にいられたらよかったのにな。元気でね。さようなら』

 そう言って撫でる私の指を珍しく甘噛み、というよりガブリと噛んだ。

『痛っ……』
 
 血の滲んだ指をペロペロ舐めて、すぐに血が止まったし、ルディも別れを感じていつもと違う行動をとっているのかもと思ったら、怒るに怒れなかった。
 ちょっと病気の心配をしないわけじゃなかったけど。

『私のルディ、あなたは私にとってずっと特別な存在だった。大好きだよ。いつもありがとう……元気で長生きしてね』

 





 
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