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5 犬なのか、狼なのか。
しおりを挟むside ルディ
俺は狼の獣人なのに、両親とは違い真っ白に生まれて、人型もとれない出来損ないだった。
父が母の浮気を疑い、母はそんな父に腹を立て喧嘩が増えた。
歳の離れた兄も姉も、俺を遠巻きに見て近づいてこない。
だから、四歳を過ぎた頃母方の耳の遠い祖母に預けられてあの山の奥に二人きりで住んだ。
食事だけは用意してくれたけど、時々俺のことを本当に犬と思っているかのような態度だったのは、歳を取ったからかもしれない。
若い頃は狼の姿で山の中を走り回ったと言っていたけど、今は人型のおばあちゃんの姿で日向ぼっこばかりしていた。
それでも、両親達と暮らしていた頃よりのびのびできたから不満なんてあるはずなかった。
ある日甘い匂いを辿ると、小さな女の子がいた。
それがベルで、俺は教えられなくてもすぐに番だとわかった。
俺には名前がなくてずっと、おい、とかちび、とか呼ばれていたから、愛しい番が名前をつけてくれて、すごく幸せで嬉しくて。
ああ、今俺は生まれ変わったんだと、世界が一気に色づいて見えた。
『わたしのルディ』
しかも、ちゃんと狼だとわかってもらえて、彼女はやっぱり俺の唯一なんだって実感したんだ。
これまでうっかり姿を見られても、みんな犬だと思って相手にされなかったから。
山にベルの気配がしたら、どんなに遠くてもこっそり近づいて、一人になるのを待つ。
じっと静かに待つのは慣れている。
愛しい番の近くにいるだけで胸がぽかぽかして、その姿を見るだけで幸せだった。
小さなベルがいっぱい話しかけてくれたから、俺はたくさん言葉を覚えたし、会えばたくさん撫でてくれて抱きしめてくれたから、番の温かさを知った。
『ルディ、好き。ルディと会えて幸せ』
ベルも同じ気持ちだった。
俺も。
話したい。
俺からも抱きしめたい。
そしたら、もう二度と離れないでって言って、お嫁さんにして絶対離さないのに。
『ずっと一緒にいられたらよかったのにな。元気でね。さようなら』
まるで二度と会えないというようなベルの言葉に、もちろん俺は最後にするつもりなんてなくて。
だから、ベルの指を噛んで、血を舐めて番として契約を結んだ。
やり方は祖母がしっかりしている時に教えてもらっていたから迷わなかった。
だってベルは俺のものだし、ベルは俺が好きって言ったし、合意は取ってないけど気持ちは一緒だから。
その夜から、俺は人型になって少しずつ話せるようになった。
すぐにベルを追いかけたかったけど、しばらくして祖母が亡くなって、いつかベルを迎えにいくために、俺も自分の生活をしっかり整えるのが先だと思って頑張った。
それから町に降りて仕事を探し、料理人に弟子入りした。
ベルのいるところならどこでも働ける職業で、頑張れば独立だって夢じゃないから。
世の中のことは、兄弟子が何も知らない俺に面白がって色々教えてくれた。
恋人ができたらこうしたらいいだとか、あぁしちゃだめだとかそんなことまで。
しばらく同じ職場で頑張っていたけど、兄弟子が独立して一通りのことができるようになった後、ベルのいる王都で修業するつもりでいた。
仕事を辞め、一旦山の家の様子を見に帰った夜、そんなはずないのに雨上がりにわずかに番の甘い香りがして、その匂いを辿った。
******
次回から、現在に戻りR回です。
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