伯爵令息の異母兄より花火職人の番と結婚します!

能登原あめ

文字の大きさ
6 / 7

6 愛の打ち上げ花火(終)

しおりを挟む



「見たか、エム! 俺の打ち上げた愛の花火はどうだった?」

 煙の匂いと、赤い顔したフロー。
 大きな仕事をやり遂げた後の、すっきりした満足げな顔が、とっても男らしくてカッコいい。
 
「すっごかった‼︎ 綺麗だったし、ずっとずっと観ていられたよ! もっと観続けたかったくらいに感動した!」
「そ、そうか! よかったか……番に言われると嬉しいな」

 自信満々に話すフローが、今は照れた顔をしているからキュンとしちゃって。
 思わず抱きついた。

「おっと! エム、すまねぇ。今は汗かいてるし汚れているから先に風呂に入ってくるよ」
「うん……いってらっしゃい」

 フローが私から離れて風呂場に向かう。
 背を向けられるのがさびしいなんて、どうかしてる。

「フロー、扉の前で話しかけてもいい?」
「うん? いいけどすぐ出るぞ?」
「うん。……近くにいたいなぁって」
「そうか。何か話したいことがあるのか? 今日はどうしていたんだ?」

 フローが水を流す音が時々聞こえる。

「ずっと宿屋にいたよー。昼間はバルコニーから歌声や音楽が聴こえてお祭りの気分を味わったよ。夕食のメニューもフェスティバルっぽくておいしかった!」
「そうか。次の、花火のない時は一緒にまわろう」
「うん! 約束だよ」

 そんな会話をしているうちに、水の音がしなくなって。

「フロー、出る? 私向こうに行ってるね」
「ああ、ありがとう」

 さすがに裸で出てくる馬車にいることはできなくて、部屋に戻った。
 フローのために、お酒が用意されている。

 私はこの世界で生まれてからお酒は少しなめる程度にしか飲めない……日本は炭酸割りとか甘いお酒とか飲みやすいものがたくさんあったけど、ここにはガツンと強いお酒しかないから。

「待たせたな、エム」
「全然待ってないよ。逆に、急がせちゃってごめんね。……お水、飲む?」

 私がコップを差し出すと、一気に飲み干した。

「ありがとう。もう一杯もらえるか?」
「……お酒はいいの?」
「いや、いい。エムといて、理性が持たないのは困る」

 体は疲れているけど、目の前に番がいる今、酒を飲んだら手を出さない自信がないなんて言う。

「フロー、いいよ。私、今日本当に感動して、早くフローのお嫁さんになりたくなっちゃった」
「……エム。愛してる!」

 お風呂上がりのフローにガッチリ抱きしめられて、すりすり頬擦りされる。

「もう一泊、していくか……?」
「いいの? この部屋とっても高いでしょ?」
「気にすんな! 今夜は俺達にとって特別な夜になる……本当にいいんだろ?」
「もちろん!」

 そうして私達はその夜、盛大な花火を打ち上げた。
 







 翌朝、フローの腕の中で目覚めて、嬉しくなってすり寄った。

「エム。まだ寝ていていいんだぞ」
「うん、ありがとう……。何だか嬉しくて、目が覚めちゃった」
「……俺もだ。まいったな……。起きるか……? 朝食を取りに行ってくるから、休んでいろよ」
「んー? 一緒に行く。フェスティバルの後にメニューが変わるって聞いだから、見て決めたい」
「そうか」

 二人でいちゃいちゃしながらお風呂に入って、着替えて食堂に向かう。
 こんなに人気が少ないのは、フェスティバルの後でのんびりしているか、早くに宿を出た人達が多いのかな。

「私、卵の両面焼きにする。それにパンとスープのセットかな。フローは?」
「俺はポテトオムレツだな。エムはそれっぽっちで足りるのか?」
「うん、胸がいっぱいで今日はこれで十分だよ」

 昨日の夜たくさん食べて飲んだのもあってお腹もそれほどすいてない。

「……俺は、エムの胸に刻むことができたのかな」
「フローってば、恥ずかしいっ! 全部もうフローでいっぱいだよっ!」

 声を抑えてるとはいえ、ここ、食堂!

「まだ足りないと思うんだ! 明日は早いから今日はのんびり過ごそう」
「うん……」

 ついつい見つめ合っちゃうのは仕方ないよね。
 好きな人と初めて夜を過ごしたんだから。

「エメリーヌ! エメリーヌか⁉︎」

 誰だ、古い名前で呼ぶのは。
 振り返ると、異母兄のポールが立っていた。

「やっぱりエメリーヌだ……、そんなに髪を短くして……まさか……」

 フローが私の手をぎゅっと握るから、私も大丈夫だよ、って気持ちを込めて握り返した。

「お兄様、私。彼と結婚しました。なので、もう平民なんです。……今までお世話になりました。私のことは死んだものとして諦めて」
「いやだ! 嘘だろう? 平民となんて……! 今なら誰にも知られていない。俺が責任取るから、エメリーヌ、帰ろう!」
「お兄様が、結婚か除籍を選べと言ったんです。手紙に書いたとおり、私は除籍を選びました。もう忘れてください」

 手紙も、除籍って伝えたのも後出しでごめんと思いつつ。
 驚いていないから、やっぱり部屋を探して見つけたんだね。

 兄がふらりとフローの前に立った。

「貴様が! 俺の大切なエメリーヌを穢したのか⁉︎ 平民の分際で! 叩き斬ってやる!」
「やめて! お兄様!」

 フローがすっと立ち上がって兄を避け、私を背に庇う。
 うんうん、私はフローとずっと一緒だよ。

「お兄さんでしたか、彼女は俺の番なんです。誰からも奪わせるつもりはない」
「……そんなの認めない! 一発殴らせろ!」

 フローがはぁ、と息を吐いて、仕方ないかとつぶやいた。

「一発だけですよ。それでエムへの気持ちに踏ん切りがつくなら、受けましょう」

 フロー、男前!
 だけど振り上げた兄の手を宿屋の主人が止めた。

「……恐れ入りますが、フロラン様は伝説の花火職人で国宝級の客人なのです。そのようなことは、国際問題に発展しかねないのでおやめくださると幸いにございます」
「なに……?」

 私と兄が驚いてフロランを見つめるけど、にかっと笑って気にするなっていう。

「フロラン様は、たった一人であれだけの花火を打ち上げることができる、たぐいまれなお方なんです。それに平民ではございませんよ。…………差し出がましいことを申して大変失礼しました」

 兄は呆然として、怒りが削がれたみたい。
 宿屋の主人が壁際まで離れていったのを見て、私は口を開いた。

「フロー、平民じゃないの?」
「うん、まぁ……この国では男爵位をもらったけど」

 兄が馬鹿にしたように鼻を鳴らす。
 フローはそれをチラッと見たけど肩をすくめて言った。

「隣の国では侯爵なんだが、俺には必要ないからなぁ。甥に譲ろうかと思っていたんだ……エムが望むなら、侯爵夫人になるか?」
「フローが必要ないなら、私もいらない! フローがそばにいてくれればいいの。愛しているから!」
「そうか! ならいらねーなっ。甥が成長するまで名ばかりの侯爵夫人になってもらうが、苦労はさせない! 一生幸せにするっ」

 名ばかりならいっか!
 私、幸せ~。
 価値観が合うって大事だよね!

「そういうわけで、お兄さん、一度ご両親に挨拶に行きますから! エムのことは任せてください!」
「お兄様が、祝福してくれたら嬉しいわ!」
「…………」

 茫然自失の兄は、宿屋の主人に促されるまま馬車に乗った。
 兄はモテるから大丈夫でしょ!

 お父様、お母様、ごめんなさい!
 でも、伝説の花火職人だったら両親も社交界で恥ずかしくないかな⁉︎
 今のフローは隣の国の侯爵様だしね!
 
「フロー、すごい有名人なのに、知らなくてごめんね。知ってたらもっと早く会えたのかな?」
「どうかな? わからないが、このタイミングが運命の出会いだったのさっ」
「そうだね! 私もそう思う!」

 フローといると運命って本当にあるんだって思う。
 
「フロー、部屋に戻ってゆっくりしよ!」
「おう! 俺はもっとエムのこと知りたい。俺のことで知りたいことは何でも話すぞ!」
「うん! たくさん聞かせて」

 きっと今夜もぱぱぱぁーんって、花火打ち上げちゃうな。








            終



******


 お読みくださりありがとうございました!
 次回R回ですが、頭を空っぽにして読む脱力系あほエロとなってます。
 
 なんでも大丈夫な方だけ、どうぞおつきあい下さい。
しおりを挟む
感想 21

あなたにおすすめの小説

義弟の婚約者が私の婚約者の番でした

五珠 izumi
ファンタジー
「ー…姉さん…ごめん…」 金の髪に碧瞳の美しい私の義弟が、一筋の涙を流しながら言った。 自分も辛いだろうに、この優しい義弟は、こんな時にも私を気遣ってくれているのだ。 視界の先には 私の婚約者と義弟の婚約者が見つめ合っている姿があった。

番が逃げました、ただ今修羅場中〜羊獣人リノの執着と婚約破壊劇〜

く〜いっ
恋愛
「私の本当の番は、 君だ!」 今まさに、 結婚式が始まろうとしていた 静まり返った会場に響くフォン・ガラッド・ミナ公爵令息の宣言。 壇上から真っ直ぐ指差す先にいたのは、わたくしの義弟リノ。 「わたくし、結婚式の直前で振られたの?」 番の勘違いから始まった甘く狂気が混じる物語り。でもギャグ強め。 狼獣人の令嬢クラリーチェは、幼い頃に家族から捨てられた羊獣人の 少年リノを弟として家に連れ帰る。 天然でツンデレなクラリーチェと、こじらせヤンデレなリノ。 夢見がち勘違い男のガラッド(当て馬)が主な登場人物。

完結·異世界転生したらアザラシ? でした〜白いモフモフでイケメン騎士たちに拾われましたが、前世の知識で医療チートしています〜

恋愛
ネットでアザラシを見ることが癒しだった主人公。 だが、気が付くと知らない場所で、自分がアザラシになっていた。 自分が誰か分からず、記憶が曖昧な中、個性的なイケメン騎士たちに拾われる。 しかし、騎士たちは冬の女神の愛おし子を探している最中で…… ※小説家になろう、Nolaノベルにも投稿しています ※完結まで毎日投稿します

こわいかおの獣人騎士が、仕事大好きトリマーに秒で堕とされた結果

てへぺろ
恋愛
仕事大好きトリマーである黒木優子(クロキ)が召喚されたのは、毛並みの手入れが行き届いていない、犬系獣人たちの国だった。 とりあえず、護衛兼監視役として来たのは、ハスキー系獣人であるルーサー。不機嫌そうににらんでくるものの、ハスキー大好きなクロキにはそんなの関係なかった。 「とりあえずブラッシングさせてくれません?」 毎日、獣人たちのお手入れに精を出しては、ルーサーを(犬的に)愛でる日々。 そのうち、ルーサーはクロキを女性として意識するようになるものの、クロキは彼を犬としかみていなくて……。 ※獣人のケモ度が高い世界での恋愛話ですが、ケモナー向けではないです。ズーフィリア向けでもないです。

ただの新米騎士なのに、竜王陛下から妃として所望されています

柳葉うら
恋愛
北の砦で新米騎士をしているウェンディの相棒は美しい雄の黒竜のオブシディアン。 領主のアデルバートから譲り受けたその竜はウェンディを主人として認めておらず、背中に乗せてくれない。 しかしある日、砦に現れた刺客からオブシディアンを守ったウェンディは、武器に使われていた毒で生死を彷徨う。 幸にも目覚めたウェンディの前に現れたのは――竜王を名乗る美丈夫だった。 「命をかけ、勇気を振り絞って助けてくれたあなたを妃として迎える」 「お、畏れ多いので結構です!」 「それではあなたの忠実なしもべとして仕えよう」 「もっと重い提案がきた?!」 果たしてウェンディは竜王の求婚を断れるだろうか(※断れません。溺愛されて押されます)。 さくっとお読みいただけますと嬉しいです。

もふもふな義兄に溺愛されています

mios
ファンタジー
ある施設から逃げ出した子供が、獣人の家族に拾われ、家族愛を知っていく話。 お兄ちゃんは妹を、溺愛してます。 9話で完結です。

冷徹団長の「ここにいろ」は、騎士団公認の“抱きしめ命令”です

星乃和花
恋愛
⭐︎完結済ー全16話+後日談5話⭐︎ 王都最硬派、規律と責任の塊――騎士団長ヴァルド・アークライトは、夜の見回り中に路地で“落とし物”を拾った。 ……いや、拾ったのは魔物の卵ではなく、道端で寝ていた少女だった。しかも目覚めた彼女は満面の笑みで「落とし物です!拾ってくださってありがとうございます!」と言い張り、団長の屋敷を“保護施設”だと勘違いして、掃除・料理・当番表作りに騎士の悩み相談まで勝手に開始。 追い出せば泣く、士気は落ちる、そして何より――ヴァルド自身の休息が、彼女の存在に依存し始めていく。 無表情のまま「危ないから、ここにいろ」と命令し続ける団長に、周囲はざわつく。「それ、溺愛ですよ」 騎士団内ではついに“団長語翻訳係”まで誕生し、命令が全部“愛の保護”に変換されていく甘々溺愛コメディ!

【完】麗しの桃は攫われる〜狼獣人の番は甘い溺愛に翻弄される〜

こころ ゆい
恋愛
※完結しました!皆様のおかげです!ありがとうございました! ※既に完結しておりますが、番外編②加筆しました!(2025/10/17)  狼獣人、リードネストの番(つがい)として隣国から攫われてきたモモネリア。  突然知らない場所に連れてこられた彼女は、ある事情で生きる気力も失っていた。  だが、リードネストの献身的な愛が、傷付いたモモネリアを包み込み、徐々に二人は心を通わせていく。  そんなとき、二人で訪れた旅先で小さなドワーフ、ローネルに出会う。  共に行くことになったローネルだが、何か秘密があるようで?  自分に向けられる、獣人の深い愛情に翻弄される番を描いた、とろ甘溺愛ラブストーリー。

処理中です...