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6 愛の打ち上げ花火(終)
しおりを挟む「見たか、エム! 俺の打ち上げた愛の花火はどうだった?」
煙の匂いと、赤い顔したフロー。
大きな仕事をやり遂げた後の、すっきりした満足げな顔が、とっても男らしくてカッコいい。
「すっごかった‼︎ 綺麗だったし、ずっとずっと観ていられたよ! もっと観続けたかったくらいに感動した!」
「そ、そうか! よかったか……番に言われると嬉しいな」
自信満々に話すフローが、今は照れた顔をしているからキュンとしちゃって。
思わず抱きついた。
「おっと! エム、すまねぇ。今は汗かいてるし汚れているから先に風呂に入ってくるよ」
「うん……いってらっしゃい」
フローが私から離れて風呂場に向かう。
背を向けられるのがさびしいなんて、どうかしてる。
「フロー、扉の前で話しかけてもいい?」
「うん? いいけどすぐ出るぞ?」
「うん。……近くにいたいなぁって」
「そうか。何か話したいことがあるのか? 今日はどうしていたんだ?」
フローが水を流す音が時々聞こえる。
「ずっと宿屋にいたよー。昼間はバルコニーから歌声や音楽が聴こえてお祭りの気分を味わったよ。夕食のメニューもフェスティバルっぽくておいしかった!」
「そうか。次の、花火のない時は一緒にまわろう」
「うん! 約束だよ」
そんな会話をしているうちに、水の音がしなくなって。
「フロー、出る? 私向こうに行ってるね」
「ああ、ありがとう」
さすがに裸で出てくる馬車にいることはできなくて、部屋に戻った。
フローのために、お酒が用意されている。
私はこの世界で生まれてからお酒は少しなめる程度にしか飲めない……日本は炭酸割りとか甘いお酒とか飲みやすいものがたくさんあったけど、ここにはガツンと強いお酒しかないから。
「待たせたな、エム」
「全然待ってないよ。逆に、急がせちゃってごめんね。……お水、飲む?」
私がコップを差し出すと、一気に飲み干した。
「ありがとう。もう一杯もらえるか?」
「……お酒はいいの?」
「いや、いい。エムといて、理性が持たないのは困る」
体は疲れているけど、目の前に番がいる今、酒を飲んだら手を出さない自信がないなんて言う。
「フロー、いいよ。私、今日本当に感動して、早くフローのお嫁さんになりたくなっちゃった」
「……エム。愛してる!」
お風呂上がりのフローにガッチリ抱きしめられて、すりすり頬擦りされる。
「もう一泊、していくか……?」
「いいの? この部屋とっても高いでしょ?」
「気にすんな! 今夜は俺達にとって特別な夜になる……本当にいいんだろ?」
「もちろん!」
そうして私達はその夜、盛大な花火を打ち上げた。
翌朝、フローの腕の中で目覚めて、嬉しくなってすり寄った。
「エム。まだ寝ていていいんだぞ」
「うん、ありがとう……。何だか嬉しくて、目が覚めちゃった」
「……俺もだ。まいったな……。起きるか……? 朝食を取りに行ってくるから、休んでいろよ」
「んー? 一緒に行く。フェスティバルの後にメニューが変わるって聞いだから、見て決めたい」
「そうか」
二人でいちゃいちゃしながらお風呂に入って、着替えて食堂に向かう。
こんなに人気が少ないのは、フェスティバルの後でのんびりしているか、早くに宿を出た人達が多いのかな。
「私、卵の両面焼きにする。それにパンとスープのセットかな。フローは?」
「俺はポテトオムレツだな。エムはそれっぽっちで足りるのか?」
「うん、胸がいっぱいで今日はこれで十分だよ」
昨日の夜たくさん食べて飲んだのもあってお腹もそれほどすいてない。
「……俺は、エムの胸に刻むことができたのかな」
「フローってば、恥ずかしいっ! 全部もうフローでいっぱいだよっ!」
声を抑えてるとはいえ、ここ、食堂!
「まだ足りないと思うんだ! 明日は早いから今日はのんびり過ごそう」
「うん……」
ついつい見つめ合っちゃうのは仕方ないよね。
好きな人と初めて夜を過ごしたんだから。
「エメリーヌ! エメリーヌか⁉︎」
誰だ、古い名前で呼ぶのは。
振り返ると、異母兄のポールが立っていた。
「やっぱりエメリーヌだ……、そんなに髪を短くして……まさか……」
フローが私の手をぎゅっと握るから、私も大丈夫だよ、って気持ちを込めて握り返した。
「お兄様、私。彼と結婚しました。なので、もう平民なんです。……今までお世話になりました。私のことは死んだものとして諦めて」
「いやだ! 嘘だろう? 平民となんて……! 今なら誰にも知られていない。俺が責任取るから、エメリーヌ、帰ろう!」
「お兄様が、結婚か除籍を選べと言ったんです。手紙に書いたとおり、私は除籍を選びました。もう忘れてください」
手紙も、除籍って伝えたのも後出しでごめんと思いつつ。
驚いていないから、やっぱり部屋を探して見つけたんだね。
兄がふらりとフローの前に立った。
「貴様が! 俺の大切なエメリーヌを穢したのか⁉︎ 平民の分際で! 叩き斬ってやる!」
「やめて! お兄様!」
フローがすっと立ち上がって兄を避け、私を背に庇う。
うんうん、私はフローとずっと一緒だよ。
「お兄さんでしたか、彼女は俺の番なんです。誰からも奪わせるつもりはない」
「……そんなの認めない! 一発殴らせろ!」
フローがはぁ、と息を吐いて、仕方ないかとつぶやいた。
「一発だけですよ。それでエムへの気持ちに踏ん切りがつくなら、受けましょう」
フロー、男前!
だけど振り上げた兄の手を宿屋の主人が止めた。
「……恐れ入りますが、フロラン様は伝説の花火職人で国宝級の客人なのです。そのようなことは、国際問題に発展しかねないのでおやめくださると幸いにございます」
「なに……?」
私と兄が驚いてフロランを見つめるけど、にかっと笑って気にするなっていう。
「フロラン様は、たった一人であれだけの花火を打ち上げることができる、たぐいまれなお方なんです。それに平民ではございませんよ。…………差し出がましいことを申して大変失礼しました」
兄は呆然として、怒りが削がれたみたい。
宿屋の主人が壁際まで離れていったのを見て、私は口を開いた。
「フロー、平民じゃないの?」
「うん、まぁ……この国では男爵位をもらったけど」
兄が馬鹿にしたように鼻を鳴らす。
フローはそれをチラッと見たけど肩をすくめて言った。
「隣の国では侯爵なんだが、俺には必要ないからなぁ。甥に譲ろうかと思っていたんだ……エムが望むなら、侯爵夫人になるか?」
「フローが必要ないなら、私もいらない! フローがそばにいてくれればいいの。愛しているから!」
「そうか! ならいらねーなっ。甥が成長するまで名ばかりの侯爵夫人になってもらうが、苦労はさせない! 一生幸せにするっ」
名ばかりならいっか!
私、幸せ~。
価値観が合うって大事だよね!
「そういうわけで、お兄さん、一度ご両親に挨拶に行きますから! エムのことは任せてください!」
「お兄様が、祝福してくれたら嬉しいわ!」
「…………」
茫然自失の兄は、宿屋の主人に促されるまま馬車に乗った。
兄はモテるから大丈夫でしょ!
お父様、お母様、ごめんなさい!
でも、伝説の花火職人だったら両親も社交界で恥ずかしくないかな⁉︎
今のフローは隣の国の侯爵様だしね!
「フロー、すごい有名人なのに、知らなくてごめんね。知ってたらもっと早く会えたのかな?」
「どうかな? わからないが、このタイミングが運命の出会いだったのさっ」
「そうだね! 私もそう思う!」
フローといると運命って本当にあるんだって思う。
「フロー、部屋に戻ってゆっくりしよ!」
「おう! 俺はもっとエムのこと知りたい。俺のことで知りたいことは何でも話すぞ!」
「うん! たくさん聞かせて」
きっと今夜もぱぱぱぁーんって、花火打ち上げちゃうな。
終
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お読みくださりありがとうございました!
次回R回ですが、頭を空っぽにして読む脱力系あほエロとなってます。
なんでも大丈夫な方だけ、どうぞおつきあい下さい。
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