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2 結びつけられた二人
しおりを挟む「結婚おめでとう。代々王家に尽くしてきたシモンズ侯爵家に後継ぎがいないままでは、のちに大きな問題となろう。余はあの地でとれる良質の塩を特に好んでおる。これから力を合わせて領地を盛り立てよ。なぁ、妃よ」
王宮の一室に司祭を呼びつけ、ロゼール・シモンズとマルスラン・フォスターは国王夫妻の前であっさり婚姻を結ばされた。
神殿で大司祭に祝ってもらうわけでもなく、領地の教会で領民に見守られながら誓い合うわけでもなく。
機嫌の良い王と不機嫌な王妃。
彼女はマルスランを気に入り、ここ数年護衛騎士としていた。
「こんなに急に婚姻を結ばせなくてもよかったでしょうに。…………おめでとう。これからも王家に尽くすように。たまには王宮に顔を出しなさい」
王妃が名残惜しそうに、ねっとりとした視線をマルスランに向ける。
彼は一礼した後、視線を下げて静かに佇んでいた。
三十を超えたばかりで、灰色混じりの金髪と榛色の瞳、やや浅黒い肌にしなやかな筋肉のついた身体は王宮で目を引く。
王妃の愛人であったとの噂もあり、王に厭われたのだろうとロゼールは考えた。
「若い新婚夫婦にはなすべきことがたくさんある。優先すべきは次代の侯爵の誕生であろう」
三人の夫に先立たれ、黒い噂のある若き女侯爵のロゼールと、こうして結婚させるなんて僻地に飛ばされるより酷い扱いと思われているのかと内心複雑に思う。
簡素で、心から祝ってくれる人は誰一人この場にいない。
もう結婚に夢など見ていないけれど。
ロゼールが今まで迎えた夫達はそれぞれみな三年以内に亡くなっていて、夫に飽きた彼女が新しい男と婚姻を結び直すために殺害したと噂されているらしい。
従兄のコロンブが悪意をのせて毎度毎度教えてくれた。
王が上機嫌で杯に口をつける。
「マルスランは、初婚だったか。まぁ、よい。いやはや、二人が並ぶと美しいな? どちらに似ても美しい侯爵が誕生しそうだ。めでたい。…………さぁ、下がれ」
王妃がいまだマルスランを見つめていることに気づいて王の機嫌が一気に悪くなり、急に二人に興味を失ったように言い放った。
失礼に当たらない程度に手短に挨拶をし、これ以上何か言われる前に夫婦となった二人は退出する。
そのまま無言のまま回廊を歩いた。
響くのは足音だけ。
どこに誰がいるかもわからない場所で迂闊なことは言えないとロゼールは思う。
馬車に乗り込んだら、今後のことを話そう。
お互いに望んだ結婚ではないけれど、折り合いをつけられたらいい。
そんなことを考えながら足早に歩く。
考えること、すべきことが山ほどある。
「やぁ従妹殿、なぜこんなところに?」
向かいから従兄のコロンブが歩いてきた。
にやにやしながら、ロゼールの半歩後ろを歩いていたマルスランにも視線を移して首を傾げる。
こんなところで会うなんてついていないけれど、行動範囲の広い彼はあらゆるところに出没する。
まさか今回の結婚について察してやって来たわけではないはずだけど。
ロゼールは面倒くさいことは先に済ませてしまおうと口を開いた。
「陛下に呼ばれたの。……つい先程王命で婚姻を結んだわ。急なことだったから落ち着いたら連絡するわね」
あえてマルスランの名前を言わなかったけれど、コロンブなら彼のことを知っているだろうし、この後どこからか聞き出してくるだろう。
「まさか……」
驚きのあまり目を見開く彼の横を通り過ぎる。
過去にはコロンブから何度も結婚を申し込まれた。
けれど、幼い頃から婚約者もいたし前侯爵である祖父は彼を最後まで認めなかった。
ロゼールも彼と共に歩む気持ちは少しも芽生えないまま。
祖父が亡くなりロゼールが爵位を継いだ後、夫達が早逝したのも、彼が関わっているのではないかと思えて気が抜けない。
歩きながら斜め後ろのマルスランを見上げると、黙ったまま片眉を上げたけれど、そのままついてきてくれた。
よりによって彼が四人目の夫になるなんて。
シモンズ侯爵家がおさめている領地は大きくないけれど、塩田のある特別な地だった。
ただの領地なら目立たず静かに暮らせたのかもしれない。
三人の夫達が本来の寿命まで生きていないのも……。
彼のことは私が守ろう、ロゼールは心に決めた。
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