灰色の瞳に宿る想いに気づいた時、元騎士は静かに手を伸ばす

能登原あめ

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23 夜が明けて ※微

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 マルスランの腕の中で何もまとわない姿で朝を迎えたのは初めてだった。
 日が高く昇り、寝過ごしてしまったらしい。
 
 マルスランの寝顔を見つめて、起こさずにここから抜け出して、浴室に向かうにはどうしようと思う。

 昨夜はあの後、身を清めて、二人で夜食を食べた。
 夜中に二人で分け合って食べるなんて、親密で少し背徳感を感じて。
 それから寝台でお互いの身体に腕を絡ませ、おしゃべりをしながら時々口づけを交わした。
 
 もう一度身体を重ねることになっていて、そのまま眠ってしまったのだと思う。
 昨日は生まれ変わって、自分自身の身体じゃないみたいにロゼールは感じていた。

 思い出すうちに恥ずかしくなって身じろぎすると、マルスランの腕が引き寄せる。
 馴染んだ彼の匂いと温かさにロゼールの身体がかたくなった。

「……おはよう。寝過ごした」

 少し掠れた寝起きの声に、ロゼールの口元が緩む。
 そういえば、喉が渇いた。

「おはよう……お水飲む?」
「あぁ。でも、空かもしれないな」

 マルスランが額に唇を押しつけ、起き上がり、ガウンを羽織った。

「居室のほうに用意されてるかもしれないから、見てくるよ。このまま待っていて」

 意外にもマルスランが甲斐甲斐しくて、戸惑う。
 ロゼールは起きあがろうとして、腰のあたりが重いことに気づいた。
 それにまだ脚の間にはさまれているみたいに感じて、仰向けに倒れたまま顔を覆う。
 
 今日一日こんなふうに思い出して恥ずかしい気持ちになってしまうとしたら、どうやって表情を保てばいいんだろう。

「ロゼール?」

 マルスランが水差しを持ってやって来た。
 それらをテーブルに置き、心配そうな表情を浮かべてロゼールに近づく。

「どうした?」
「……大丈夫、なんでもないわ」
「そうか」

 笑みを含んだ声に、指の間から彼を見る。
 顔が赤くなっていることに気づいているのだろうか。

「水を飲んだら、浴室へ行こう。その間に部屋を整えてもらうから」
「そうね」

 喉を潤し、マルスランがロゼールの前にかがんだ。
 不思議に思っていると、背中と膝裏に腕を差し入れてシーツごと抱き上げた。

「待って! 歩くから」

 まるでどこかの国の姫のように扱われて恥ずかしい。
 
「今日くらいはこうしたい」
「…………」

 ロゼールの部屋の浴室へと向かうかと思ったのに、マルスランの部屋の浴室へ連れて来られた。
 そう遠くない場所に温泉があるおかげで、ぬるめだけどいつでも入浴できるようになっている。

「立っていられる?」
「もちろん」

 なぜそんなことを言われたかわからなかったけど、そっと下ろされて自分の脚でふんばることができなかった。
 膝が笑って座り込みそうになり、マルスランに抱き止められる。

「どうして……」

 ロゼールの漏らした言葉にマルスランがごめんと言い、抱きしめたまま羽織っていたガウンを脱ぎ捨てて一緒に浴槽に沈んだ。

「私、初めてだったから……?」

 マルスランの眉が下がる。
 彼をまたいで向かい合わせになっているから、表情がよく見える。
 瞳の奥をのぞくけど、困っているみたい?

「今日は部屋でゆっくり過ごそう。……明日は夜からダンスパーティ?」
「ええ。今日じゃなくてよかった」
「本当だな……」

 マルスランに背中を撫でられて、大事にされてるのを実感する。
 彼の首に頭を乗せて、静かに息を吐いた。
 こんなに甘い人だなんて思わなくて、幸せで心が満たされる。

「私の旦那様」
「……もうその呼び名に戻るのか?」

 少しだけ残念そうな声。

「人前では今まで通り、旦那様と呼ぶつもりよ」
「……わかったよ、領主殿。でも、今は名前がいい」

 顔を上げると優しい顔で見つめてくる。
 榛色の瞳にロゼールの顔が映って。
 それを眺めているうちにマルスランの顔が近づいて、唇が重なった。

「マルスラン」

 もう一度。
 そう彼が言うから。

「マルスラン、私、今が一番幸せかもしれない」

 彼からの返事はなくて、力強く抱きしめられた。

「ロゼール。明日、抱き抱えて会場入りしても大丈夫だろうか」
「……そんな人見たことないわ」

 顔を上げたマルスランの瞳が欲望に染まるのを見て、狼狽える。
 あれほど睦み合ったのに、足りなかったのかもしれない。

「足りなかった……?」
「そうじゃない。ずっと欲しくてたまらなかったんだ」

 あぁ、そういうことなのかと。
 共寝と言ってもロゼールを抱きしめるだけの夜を過ごしてきたから、もしかして相当我慢をさせてしまったのかもしれない。

「あの……明日は自分の脚で歩くから、その分の体力を残してくれるなら」

 マルスランが嬉しそうに笑って、唇を重ねる。

「痛みは……?」
「……大丈夫」

 まだ痛みを感じるかもしれない。
 けれど望まれるのが嬉しくて。  
 彼は身体でも好意を伝えてくれるから、ロゼールからも返したくなる。
 
「愛おしいな。……愛しているよ」

 こうして言葉でも心を満たしてくれる。
 マルスランは寝室に戻る前にその場で優しく抱いた。

 
 
 
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