灰色の瞳に宿る想いに気づいた時、元騎士は静かに手を伸ばす

能登原あめ

文字の大きさ
25 / 38

24 ダンスパーティへ

しおりを挟む




 王太子夫妻がファーストダンスを踊り、それに続いて皆が踊り出す。
 ロゼールとマルスランは会場の片隅でそれを眺めていた。

「……旦那様? 一曲くらい踊るわ」
「あとで、ワルツを。それまではゆっくりしよう」
「ええ、わかりました」

 身体にだるさは残っていたものの、化粧をほどこし着飾った美しいロゼールからそんなものは見てとれない。

「一曲踊ると、領主殿に声をかけそうな男達がたくさんいる」
「それはないわ……いつも、すぐ帰るのだけど」

 今だって早く帰りたい。
 王妃は体調不良とのことで、最初だけ顔を出して引っ込んでしまった。
 マルスランのことは、気まぐれに声をかけただけならいいのだけど。
 
 最近の王妃は、彼の同僚だったという護衛騎士がお気に入りで、体調不良と言ってよく公務を切り上げ、部屋に籠るという噂を耳にしてなんとも言えない気持ちになる。

 いつもと違うものをつまみ食いしたくなったのかもしれない。そうであってほしい。

 王妃はすでに三人の息子を産んでいるし、ある程度の義務から解放されているのだろうけど、王は一途に王妃を見つめているから。

 そして、今はコロンブと話をしたかった。
 彼は三十歳くらいの女性とやって来て、ずっと彼女と過ごしている。
 彼が一人になるのを待つ間、二人でダンスを踊ることにした。

「領主殿、一曲踊りませんか」
「ええ、旦那様」

 ゆったりとした曲で、他の曲より密着度が高い。
 マルスランと踊るのは楽しくて、自然と笑いそうになったけど、すぐに真顔に戻す。

「あぁ、そのままここでは笑わないでくれ。他の奴らに見せたくない」
「……旦那様と踊るのが楽しいから、こらえているところよ」
「そうか」

 マルスランが微笑みを浮かべるのは、ずるい気がして首を傾げる。
 きっと、気づいた周りの女性が目を奪われると思うから。それは、嫌だ。

「どうした?」
「いえ、なんでも」

 すこし、やきもちを焼いてしまったらしく、ロゼールの声が低くなる。

「帰ったら話すわ」
「わかった。……可愛く拗ねないでくれ」
「…………」

 顔に出たのかとロゼールは眉をひそめる。

「……領主殿、一人になった。このまま移動しよう」

 





 どこかへ向かっているコロンブをつかまえて、そのまま人気のない庭園へ出た。

「……わざわざ何の用だ? 急いでいるんだ、目当ての女性の元へ早く戻りたいんでね」
「そう……。はっきり聞くわね。あなたが私の夫達に手を出したの?」

 ロゼールは何も見逃すまいとじっと見つめる。
 その言葉にコロンブが一拍遅れて笑い出した。

「ははっ、……そんなわけあるか。まったく……どんなに調べたって証拠は出ないだろう」
「…………今後は、関わらないで欲しいの」

 ロゼールの言葉にコロンブが口の端を歪める。

「縁戚だから、どうしようもないだろ。それに俺は、今、忙しい」

 コロンブがちらりとマルスランと、ロゼールの腰に回された手を見やり、不機嫌な顔のまま背を向けて会場へと足早に去っていった。
 ずっと黙っていたままのマルスランが、ロゼールの背を押して出口に向かい歩き出す。

「……もう帰るだろう?」
「そうね」

 悪手だったかもしれない。
 正直、彼の表情から何か手がかりになることを読み取ることができず、僅かな証拠さえ消されてしまうかもしれない。
 馬車に乗り込んでから、ロゼールが口を開いた。
 
「コロンブは、さっき一緒にいた女性と上手くいっているということ……?」
「そうだといいな。ただ、彼が結婚するまでは警戒しておいたほうがいいだろう……思ったのだが、彼より高位の、断れない相手を見つけて結婚させてしまうことも可能じゃないのか?」
「……相手を探したことはあるの。何人かいたけど、未婚の若い女性の両親は彼を選ばないし、未亡人の方はすでに嫡子がいて断られたわ」

 コロンブの見目は悪くないけど、遊び好きでたまに賭博場に出入りしているのも調べればわかるし性格に難がある。
 負債を抱えているという話は聞いたことがないけれど、コロンブ自身は楽をしたいから資産家を狙っているはず。

「さっきコロンブが一緒にいた女性を知っている? 見たことはあるのだけど……」
「彼女は隣国の伯爵未亡人で、王妃様の従妹だ。彼女は商会の会頭をしていて、嫡男を全寮制の学校に入れて国中飛び回っているとお茶会で話されていた」

 中身はやり手の商売人だ、とマルスランが静かに付け加える。
 
「コロンブを気に入るといいけど」
「気に入っているんだろう。好き嫌いのはっきりした女性だから、気に入らなければそばに置かない」

 本当にそうであるなら。
 これから先何の不安も感じずにマルスランと生きていきたい。
 ロゼールは定位置となった隣に座るマルスランに身を寄せた。

「大丈夫。なにも心配することはない」

 マルスランに抱き寄せられて、素直に身を任せて、腕を回す。
 しばらくすると、マルスランの身体が僅かに揺れて笑っているのだと気づいた。

「マルスラン?」

 ロゼールが訝しげな顔でのぞき込む。

「……っ、すまない。……気位の高い猫に、懐かれたみたいな、気がして……っ」
「もしかして、これまでもそれで笑っていた……?」
「愛しているよ、ロゼール」

 そのまま唇が柔らかく重なって誤魔化されたのを感じたけど、ロゼールは彼の腕の中が心地よくてそれでもいいと思った。
 そんなことが言えるくらいマルスランが気を許しているのだもの。

「私も愛してるわ、マルスラン」

 結局二番目の夫に毒を盛ったと思われる侍女も行方知れず、三番目の夫の馬車に細工した相手もわからない。
 どちらもコロンブの手の者だと思っているけれど、証拠が一つもないから調べようもない。

 いったい何を見落としているのだろう。
 過去の夫達のことを考えたら、全て解明して犯人に罪を償ってほしいと思う。もしも……。

 残る不安をかき消すように、マルスランの体温を求めて、彼の首に腕を回した。

 
しおりを挟む
感想 67

あなたにおすすめの小説

どなたか私の旦那様、貰って下さいませんか?

秘密 (秘翠ミツキ)
恋愛
私の旦那様は毎夜、私の部屋の前で見知らぬ女性と情事に勤しんでいる、だらしなく恥ずかしい人です。わざとしているのは分かってます。私への嫌がらせです……。 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆ 政略結婚で、離縁出来ないけど離縁したい。 無類の女好きの従兄の侯爵令息フェルナンドと伯爵令嬢のロゼッタは、結婚をした。毎晩の様に違う女性を屋敷に連れ込む彼。政略結婚故、愛妾を作るなとは思わないが、せめて本邸に連れ込むのはやめて欲しい……気分が悪い。 彼は所謂美青年で、若くして騎士団副長であり兎に角モテる。結婚してもそれは変わらず……。 ロゼッタが夜会に出れば見知らぬ女から「今直ぐフェルナンド様と別れて‼︎」とワインをかけられ、ただ立っているだけなのに女性達からは終始凄い形相で睨まれる。 居た堪れなくなり、広間の外へ逃げれば元凶の彼が見知らぬ女とお楽しみ中……。 こんな旦那様、いりません! 誰か、私の旦那様を貰って下さい……。

冷徹公爵の誤解された花嫁

柴田はつみ
恋愛
片思いしていた冷徹公爵から求婚された令嬢。幸せの絶頂にあった彼女を打ち砕いたのは、舞踏会で耳にした「地味女…」という言葉だった。望まれぬ花嫁としての結婚に、彼女は一年だけ妻を務めた後、離縁する決意を固める。 冷たくも美しい公爵。誤解とすれ違いを繰り返す日々の中、令嬢は揺れる心を抑え込もうとするが――。 一年後、彼女が選ぶのは別れか、それとも永遠の契約か。

せっかくですもの、特別な一日を過ごしましょう。いっそ愛を失ってしまえば、女性は誰よりも優しくなれるのですよ。ご存知ありませんでしたか、閣下?

石河 翠
恋愛
夫と折り合いが悪く、嫁ぎ先で冷遇されたあげく離婚することになったイヴ。 彼女はせっかくだからと、屋敷で夫と過ごす最後の日を特別な一日にすることに決める。何かにつけてぶつかりあっていたが、最後くらいは夫の望み通りに振る舞ってみることにしたのだ。 夫の愛人のことを軽蔑していたが、男の操縦方法については学ぶところがあったのだと気がつく彼女。 一方、突然彼女を好ましく感じ始めた夫は、離婚届の提出を取り止めるよう提案するが……。 愛することを止めたがゆえに、夫のわがままにも優しく接することができるようになった妻と、そんな妻の気持ちを最後まで理解できなかった愚かな夫のお話。 この作品は他サイトにも投稿しております。 扉絵は写真ACよりチョコラテさまの作品(写真ID25290252)をお借りしております。

大人になったオフェーリア。

ぽんぽこ狸
恋愛
 婚約者のジラルドのそばには王女であるベアトリーチェがおり、彼女は慈愛に満ちた表情で下腹部を撫でている。  生まれてくる子供の為にも婚約解消をとオフェーリアは言われるが、納得がいかない。  けれどもそれどころではないだろう、こうなってしまった以上は、婚約解消はやむなしだ。  それ以上に重要なことは、ジラルドの実家であるレピード公爵家とオフェーリアの実家はたくさんの共同事業を行っていて、今それがおじゃんになれば、オフェーリアには補えないほどの損失を生むことになる。  その点についてすぐに確認すると、そういう所がジラルドに見離される原因になったのだとベアトリーチェは怒鳴りだしてオフェーリアに掴みかかってきた。 その尋常では無い様子に泣き寝入りすることになったオフェーリアだったが、父と母が設定したお見合いで彼女の騎士をしていたヴァレントと出会い、とある復讐の方法を思いついたのだった。

愛しい人、あなたは王女様と幸せになってください

無憂
恋愛
クロエの婚約者は銀の髪の美貌の騎士リュシアン。彼はレティシア王女とは幼馴染で、今は護衛騎士だ。二人は愛し合い、クロエは二人を引き裂くお邪魔虫だと噂されている。王女のそばを離れないリュシアンとは、ここ数年、ろくな会話もない。愛されない日々に疲れたクロエは、婚約を破棄することを決意し、リュシアンに通告したのだが――

貴方に私は相応しくない【完結】

迷い人
恋愛
私との将来を求める公爵令息エドウィン・フォスター。 彼は初恋の人で学園入学をきっかけに再会を果たした。 天使のような無邪気な笑みで愛を語り。 彼は私の心を踏みにじる。 私は貴方の都合の良い子にはなれません。 私は貴方に相応しい女にはなれません。

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

【完結】愛する人はあの人の代わりに私を抱く

紬あおい
恋愛
年上の優しい婚約者は、叶わなかった過去の恋人の代わりに私を抱く。気付かない振りが我慢の限界を超えた時、私は………そして、愛する婚約者や家族達は………悔いのない人生を送れましたか?

処理中です...