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31 解決へ向けて
しおりを挟むいつものように寝支度を整えて、マルスランの部屋に向かうと、彼は手紙を手にして椅子に腰掛けていた。
「ロゼール、コロンブのところへ行ってこようと思う」
「それは……」
「俺は部屋からほとんど出ないし、どれだけ回復しているかは皆に知られていない。だから、今が一番動きやすいんだ」
マルスランは部屋で寝ていることにして、誰にも知られないうちにコロンブと腹を割って話してくると言う。
ルナン領まで、長居しなければ一日で往復することができるし、冬の間は外出の機会が減るからコロンブが屋敷にいる可能性も高い。
「…………」
ロゼールが誤魔化せば、一日くらいなら屋敷の者も気づかないかもしれない。
けれど、何があるかわからなくて心配だった。
「夜が明ける前にここを出る。手紙を出した友人が馬を用意して来てくれた。彼に協力してもらうから心配するようなことは起こらない」
「…………」
「このままでは安心できないだろう? 俺はどこへだってロゼールを自分の愛する妻だと言って、一緒に出かけたい」
引き止めたい。
行かないでと言いたい。
でも喉が詰まったようになって、ロゼールは言葉を発することができなかった。
両手を合わせて握りしめ、ようやく言葉を吐き出す。
「……絶対に、無理をしないで。それから、無事に帰って来て……」
立ち上がったマルスランが抱きすくめる。
「わかった。必ず戻るよ。ロゼールも、念の為部屋に籠って気をつけて欲しい。……愛しているよ」
「私も、愛しているわ」
彼の腕の中は温かくて満たされる。
この幸せを手放したくない。
腕を回して不安を押しやる。
それに気づいたマルスランが宥め、甘やかすようにロゼールに触れた。
「大丈夫だよ」
翌朝、ロゼールが目覚めるとマルスランの代わりに丸められた毛布があった。
起き上がって布団をかけて、カーテンを閉じたままにして部屋の鍵をかけると、自分の寝室に向かい身支度を整えた。
やって来たバベットに、マルスランは頭が痛くて寝ていると伝え、朝食はあとで食べれる時に果物をむいてあげたいと付け加えた。
これでひとまず大丈夫だろう。
「ロゼール様の分は居室にお持ちしますか?」
「そうね。軽めでお願い。……物音は頭に響くから、旦那様の部屋には誰も入らないように伝えてね」
「わかりました。お邪魔はしません。では、今すぐ朝食をお持ちしますね」
「ありがとう」
朝食も一人では味気なく、食欲がわかない。
さっと済ませた後、一度書斎に向かおうとして考え直す。
朝食の後は大人しく編み物をしよう。
手を動かしていれば、何もしないより時間が経つのも早いはず。
ロザリオを握りしめ、大きく息を吐いた。
「ロゼール様、もしかして……朝気持ちが悪いとか、匂いが気になるとかありませんか……?」
バベットの言葉にしばし考え込む。
それから、妊娠を疑われているとわかって、一気に顔が赤くなった。
「…………違うと思うわ」
「まぁまぁ、そう決めつけずに。いつおめでたい話があってもおかしくないですねぇ」
にこにこ笑うけど、女同士でもなんだか恥ずかしい。ここにアントワーヌもいるからかもしれない。
アントワーヌが気遣うように言った。
「ロゼール様、何か食べやすいものを用意いたしましょうか?」
「ありがとう、大丈夫よ。お腹が減ったら声をかけるわね」
「……かしこまりました」
アントワーヌがすまして答え、すっと部屋から出ようとしていたからロゼールは慌てて声をかけた。
「クレマン先生は、呼ばなくて大丈夫だから」
早とちりをしてもらっては困る。
それに、ついでにマルスランの様子を診たいなんて言われたら誤魔化すのが大変だと思う。
ここにいる二人が落ち着かない様子に笑ってしまった。
それからなんとなく、お腹に手を当てて考える。
マルスランの子を授かる。
もしも本当だったら、夢みたい。
ほんの少し明るい気持ちになった。
「……では、何かありましたらお呼びくださいませ」
アントワーヌが先に下がると、バベットが笑った。
「ロゼール様、止めるのが早かったですね。あのままだったら、アントワーヌがクレマン先生を連れて来たでしょうね」
「だって、前にもそんなことがあったから」
「そうでした、そうでした。ロゼール様が幼い頃は体調が悪くなると二人とも揃ってやって来て、騒がしかったですものね」
大人になってからは、体調を崩すことがあまりなかったから忘れていたけれど。
無理をするとバベットが細々と世話を焼くものだから、健康に気遣うようになったのもあるかもしれない。
「近くにバベットがいてくれるから、こうして元気なのだわ。いつもありがとう」
無心になろうと編み物を始めたものの、思考があちこち飛んで、編み目を何度も数え間違えた。
手の中の編み目の詰まった小さなかたまりをみて、大きくため息をつく。
「……解かないとダメみたい」
立ち上がって身体を伸ばす。
それから、籠の中に毛糸と編み針をまとめてマルスランの寝室へ向かった。
カーテンを開けて、マルスランのいない寝台に身体を投げ出した。
膨らんだ毛布を抱きしめても、すでに寝台は冷たくて彼の匂いもしない。
寂しい。
不安。
でも、顔を埋めてしがみついているうちにいつしか眠気が押し寄せて。
空が赤く染まる頃――。
眠り込んでしまったロゼールは、忍び寄る影に気がつかなかった。
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