私が恋した夫は、愛を返してくれませんでした

能登原あめ

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2 夢に見た結婚式 ※

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 ボールガール様はエナン伯爵と共に一度だけ屋敷に挨拶へいらした。
 広がりやすくてくせのある茶色い髪をなんとか見れる形に整えて、少しでも痩せて見えるようにきついドレスを身につけた。
 少し苦しいけれど我慢できる。
 
「可愛い人、結婚式は半年後だから急いで準備に取り掛かってほしい。……夜会に出ている暇はないからね、よろしく頼む」

 値踏みされるような視線だったけれど、彼は私のことを嘲ることも笑うこともなく、可愛い人と呼んでくれた。
 だから私は舞い上がってしまった。

「はい、わかりました。ボールガール様、これからどうぞよろしくお願いいたします」
 
 ボールガール様は今年三十一歳になられるから、本当だったら私なんて相手にしない大人の男性。
 わずかに浮かぶ目尻の皺もとても素敵に見える。

 従姉はこの結婚をものすごく驚いて、心配もしてくれたけど私は憧れの人だから嬉しいのって答えた。
 従姉は私が結婚する三ヶ月前に結婚式をあげ、新婚なのに大切な時間を私にも割いてくれている。

 ウェディングドレスも今後のドレスのデザインも、従姉と一緒に選んで満足いくものができたと思う。

 それに料理長や屋敷の使用人達にも協力してもらい、結婚式までに十キログラムも体重を落としたのだから。
 それでもまだ周りの女の子達よりかなり太っているから気は抜けない。

 結局ドレスは直前にもお直しが必要になってしまったけれど、父も兄もよく頑張ったと言ってくれた。

 領地に親しい人だけを呼んだからか、思ったよりこじんまりした結婚式。
 教会で誓い合った後、ボールガール様が私のベールを上げた。
 何の感情も浮かんでいない碧い瞳に見下ろされた後、顔が近づいてきたからぎゅっと目を閉じる。
 そして私の額に一瞬唇が触れた。
 
 憧れていたのは唇へのキス。
 政略結婚なのだから、省くこともできたのに額であってもキスしてくれた。
 少し残念で、でも嬉しい。

 それからファーストダンスを踊った。
 恥ずかしくてすぐに赤くなってしまう私を優しくエスコートしてくれる。

「痩せたね」
「……はい、まだまだ頑張ります」
「……そう」

 ほんの少し、ボールガール様が笑ってくださった。
 私達はうまくやっていけるかもしれない。
 私はその時とても幸せだった。







 初夜については、少し前に従姉が赤くなりながら教えてくれた。 
 恋愛小説に書いてあるより、現実は恥ずかしいものみたい。
 
「目をつぶって、言われた通りにすれば大丈夫よ」

 お風呂に入って隅々まで手入れされた後、薄くて頼りない寝衣をまとった。
 私の部屋だという寝台に腰かけて彼がやってくるのを待つ。

 私、本当にボールガール様の奥様になるのだわ。
 やっぱり従姉が言うようにもっと早くから痩せる決意をすればよかった。
 でも、ずいぶんすっきりしたと思う。
 彼も痩せたって認めてくれたから……。

「待たせたかい、可愛い人」

 隣の部屋の扉が静かに開き、まっすぐ寝台までやってきた。
 風呂上がりに素肌にガウンを羽織っただけのようで、色気がある。
 恥ずかしくて目を逸らす私の肩をそっと押し、寝台に横になった。

「いえ……待つ時間も苦ではありません」

 彼から少し、お酒の匂いがする。
 上からのぞきこまれてドキドキした。

「君、俺のことが好きなの……?」
「……はい」
「そう、ならこの行為もすぐによくなる……力を抜いていて」

 胸元のリボンを彼が引っ張ると、はらりと裸体がさらされた。
 恥ずかしくて隠したい、でもシーツを握って耐える。

「……次からはもっと慎み深いものがいいな」
「はい……そうします」

 顔がかぁっと赤くなる。
 今夜は特別だからと従姉と悩んで用意したものだけれど、彼の好みではなかったらしい。
 そんなことを考えていると、彼の指が太ももの肉をつかみ、開かせた。

「膝を立てて。もっと、開いて」

 恥ずかしくて泣きたくなる。
 それに目を閉じてしまいたいけれど、彼の望むようにしなければと、そっと様子をうかがった。
 彼がどこからか小瓶を取り出して、蓋を開け手のひらに垂らして握る。
 
「経験のない子とは、初めてなんだ」
「……はい」
 
 単純に嬉しいと感じた。
 私はこれからも夫しか知らない。
 
「初めては痛いらしいね。……ああ、狭いな」

 彼の指が私の体内へと差し込まれる。
 こじ開けるように動かされて、痛い。
 小瓶を傾けて、直接脚の間にぬめりのあるものを垂らされた。
 花のような香りがするから、オイルなのだろうと思う。
 
 二本、三本と無理矢理指を増やされて、なんとも言えない異物感と痛みに吐きそうになったけど耐える。
 
「そろそろいいかな。ほら、自分で脚を抱えて」

 膝を胸の方へと押されて、私は慌てて太ももを掴む。

「……っぐ……」

 さっきまで指で触れていた場所に、焼けつくような痛みと衝撃を感じた。
 それに内臓を押し上げられるような、気持ち悪さを感じる。

「……キツいな」

 我慢できない痛みに涙が溢れた。
 彼は私に構わず目を閉じて激しく腰を打ちつける。
 そうだわ、私も目を閉じなければ。
 
 ぎゅっと閉じると逆に感覚が研ぎ澄まされて、痛みにばかり囚われた。
 いつまで続くのか、何度も何度も腰を振るから痛みに喘ぐ。
 
「……っ、はぁ、はぁ、はぁ……」

 ボールガール様の動きが止まり、彼が吐き出した子種によって受け入れていた場所がひりひりした。

 抱きしめられることもないままさっと引き抜かれて、身体が冷えていくよう。
 ようやく終わったのだと、ほっとして目を開ける。

「……っく、ははっ……。腹の肉が揺れて、何度か萎えそうになったが……脚を閉じて子種を漏らさぬように眠りなさい。次の月のものが来た場合は声をかけるように。おやすみ」
「……おやすみなさい」

 彼はそれだけ言って部屋を出て行った。
 もちろん愛されてるなんて、思っていなかったけど……。

 ほんの少し、期待していた。
 恋愛小説のように、優しく唇にキスされること。
 優しく抱きしめられたまま、朝を迎えること……そんな夜を一瞬でも夢見てしまった。

 従姉が言うように身体中を撫でられたり、触れられたりすることもなくて。
 事後に身体を拭いてくれるというのも従姉だけが特別だったのかもしれない。
 
 太っている身体がうとましかった。
 痩せたら彼は愛してくれる……?

 ただただ身体と心が痛い。
 政略結婚だもの、子供を授かることが大事なのだと私はそれだけにすがった。
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