3 / 23
⑴
2 夢に見た結婚式 ※
しおりを挟むボールガール様はエナン伯爵と共に一度だけ屋敷に挨拶へいらした。
広がりやすくてくせのある茶色い髪をなんとか見れる形に整えて、少しでも痩せて見えるようにきついドレスを身につけた。
少し苦しいけれど我慢できる。
「可愛い人、結婚式は半年後だから急いで準備に取り掛かってほしい。……夜会に出ている暇はないからね、よろしく頼む」
値踏みされるような視線だったけれど、彼は私のことを嘲ることも笑うこともなく、可愛い人と呼んでくれた。
だから私は舞い上がってしまった。
「はい、わかりました。ボールガール様、これからどうぞよろしくお願いいたします」
ボールガール様は今年三十一歳になられるから、本当だったら私なんて相手にしない大人の男性。
わずかに浮かぶ目尻の皺もとても素敵に見える。
従姉はこの結婚をものすごく驚いて、心配もしてくれたけど私は憧れの人だから嬉しいのって答えた。
従姉は私が結婚する三ヶ月前に結婚式をあげ、新婚なのに大切な時間を私にも割いてくれている。
ウェディングドレスも今後のドレスのデザインも、従姉と一緒に選んで満足いくものができたと思う。
それに料理長や屋敷の使用人達にも協力してもらい、結婚式までに十キログラムも体重を落としたのだから。
それでもまだ周りの女の子達よりかなり太っているから気は抜けない。
結局ドレスは直前にもお直しが必要になってしまったけれど、父も兄もよく頑張ったと言ってくれた。
領地に親しい人だけを呼んだからか、思ったよりこじんまりした結婚式。
教会で誓い合った後、ボールガール様が私のベールを上げた。
何の感情も浮かんでいない碧い瞳に見下ろされた後、顔が近づいてきたからぎゅっと目を閉じる。
そして私の額に一瞬唇が触れた。
憧れていたのは唇へのキス。
政略結婚なのだから、省くこともできたのに額であってもキスしてくれた。
少し残念で、でも嬉しい。
それからファーストダンスを踊った。
恥ずかしくてすぐに赤くなってしまう私を優しくエスコートしてくれる。
「痩せたね」
「……はい、まだまだ頑張ります」
「……そう」
ほんの少し、ボールガール様が笑ってくださった。
私達はうまくやっていけるかもしれない。
私はその時とても幸せだった。
初夜については、少し前に従姉が赤くなりながら教えてくれた。
恋愛小説に書いてあるより、現実は恥ずかしいものみたい。
「目をつぶって、言われた通りにすれば大丈夫よ」
お風呂に入って隅々まで手入れされた後、薄くて頼りない寝衣をまとった。
私の部屋だという寝台に腰かけて彼がやってくるのを待つ。
私、本当にボールガール様の奥様になるのだわ。
やっぱり従姉が言うようにもっと早くから痩せる決意をすればよかった。
でも、ずいぶんすっきりしたと思う。
彼も痩せたって認めてくれたから……。
「待たせたかい、可愛い人」
隣の部屋の扉が静かに開き、まっすぐ寝台までやってきた。
風呂上がりに素肌にガウンを羽織っただけのようで、色気がある。
恥ずかしくて目を逸らす私の肩をそっと押し、寝台に横になった。
「いえ……待つ時間も苦ではありません」
彼から少し、お酒の匂いがする。
上からのぞきこまれてドキドキした。
「君、俺のことが好きなの……?」
「……はい」
「そう、ならこの行為もすぐによくなる……力を抜いていて」
胸元のリボンを彼が引っ張ると、はらりと裸体がさらされた。
恥ずかしくて隠したい、でもシーツを握って耐える。
「……次からはもっと慎み深いものがいいな」
「はい……そうします」
顔がかぁっと赤くなる。
今夜は特別だからと従姉と悩んで用意したものだけれど、彼の好みではなかったらしい。
そんなことを考えていると、彼の指が太ももの肉をつかみ、開かせた。
「膝を立てて。もっと、開いて」
恥ずかしくて泣きたくなる。
それに目を閉じてしまいたいけれど、彼の望むようにしなければと、そっと様子をうかがった。
彼がどこからか小瓶を取り出して、蓋を開け手のひらに垂らして握る。
「経験のない子とは、初めてなんだ」
「……はい」
単純に嬉しいと感じた。
私はこれからも夫しか知らない。
「初めては痛いらしいね。……ああ、狭いな」
彼の指が私の体内へと差し込まれる。
こじ開けるように動かされて、痛い。
小瓶を傾けて、直接脚の間にぬめりのあるものを垂らされた。
花のような香りがするから、オイルなのだろうと思う。
二本、三本と無理矢理指を増やされて、なんとも言えない異物感と痛みに吐きそうになったけど耐える。
「そろそろいいかな。ほら、自分で脚を抱えて」
膝を胸の方へと押されて、私は慌てて太ももを掴む。
「……っぐ……」
さっきまで指で触れていた場所に、焼けつくような痛みと衝撃を感じた。
それに内臓を押し上げられるような、気持ち悪さを感じる。
「……キツいな」
我慢できない痛みに涙が溢れた。
彼は私に構わず目を閉じて激しく腰を打ちつける。
そうだわ、私も目を閉じなければ。
ぎゅっと閉じると逆に感覚が研ぎ澄まされて、痛みにばかり囚われた。
いつまで続くのか、何度も何度も腰を振るから痛みに喘ぐ。
「……っ、はぁ、はぁ、はぁ……」
ボールガール様の動きが止まり、彼が吐き出した子種によって受け入れていた場所がひりひりした。
抱きしめられることもないままさっと引き抜かれて、身体が冷えていくよう。
ようやく終わったのだと、ほっとして目を開ける。
「……っく、ははっ……。腹の肉が揺れて、何度か萎えそうになったが……脚を閉じて子種を漏らさぬように眠りなさい。次の月のものが来た場合は声をかけるように。おやすみ」
「……おやすみなさい」
彼はそれだけ言って部屋を出て行った。
もちろん愛されてるなんて、思っていなかったけど……。
ほんの少し、期待していた。
恋愛小説のように、優しく唇にキスされること。
優しく抱きしめられたまま、朝を迎えること……そんな夜を一瞬でも夢見てしまった。
従姉が言うように身体中を撫でられたり、触れられたりすることもなくて。
事後に身体を拭いてくれるというのも従姉だけが特別だったのかもしれない。
太っている身体がうとましかった。
痩せたら彼は愛してくれる……?
ただただ身体と心が痛い。
政略結婚だもの、子供を授かることが大事なのだと私はそれだけにすがった。
1
あなたにおすすめの小説
【完結】仰る通り、貴方の子ではありません
ユユ
恋愛
辛い悪阻と難産を経て産まれたのは
私に似た待望の男児だった。
なのに認められず、
不貞の濡れ衣を着せられ、
追い出されてしまった。
実家からも勘当され
息子と2人で生きていくことにした。
* 作り話です
* 暇つぶしにどうぞ
* 4万文字未満
* 完結保証付き
* 少し大人表現あり
【完結】お飾りの妻からの挑戦状
おのまとぺ
恋愛
公爵家から王家へと嫁いできたデイジー・シャトワーズ。待ちに待った旦那様との顔合わせ、王太子セオドア・ハミルトンが放った言葉に立ち会った使用人たちの顔は強張った。
「君はお飾りの妻だ。装飾品として慎ましく生きろ」
しかし、当のデイジーは不躾な挨拶を笑顔で受け止める。二人のドタバタ生活は心配する周囲を巻き込んで、やがて誰も予想しなかった展開へ……
◇表紙はノーコピーライトガール様より拝借しています
◇全18話で完結予定
貴方が側妃を望んだのです
cyaru
恋愛
「君はそれでいいのか」王太子ハロルドは言った。
「えぇ。勿論ですわ」婚約者の公爵令嬢フランセアは答えた。
誠の愛に気がついたと言われたフランセアは微笑んで答えた。
※2022年6月12日。一部書き足しました。
※架空のお話です。現実世界の話ではありません。
史実などに基づいたものではない事をご理解ください。
※話の都合上、残酷な描写がありますがそれがざまぁなのかは受け取り方は人それぞれです。
表現的にどうかと思う回は冒頭に注意喚起を書き込むようにしますが有無は作者の判断です。
※更新していくうえでタグは幾つか増えます。
※作者都合のご都合主義です。
※リアルで似たようなものが出てくると思いますが気のせいです。
※爵位や言葉使いなど現実世界、他の作者さんの作品とは異なります(似てるモノ、同じものもあります)
※誤字脱字結構多い作者です(ごめんなさい)コメント欄より教えて頂けると非常に助かります。
不実なあなたに感謝を
黒木メイ
恋愛
王太子妃であるベアトリーチェと踊るのは最初のダンスのみ。落ち人のアンナとは望まれるまま何度も踊るのに。王太子であるマルコが誰に好意を寄せているかははたから見れば一目瞭然だ。けれど、マルコが心から愛しているのはベアトリーチェだけだった。そのことに気づいていながらも受け入れられないベアトリーチェ。そんな時、マルコとアンナがとうとう一線を越えたことを知る。――――不実なあなたを恨んだ回数は数知れず。けれど、今では感謝すらしている。愚かなあなたのおかげで『幸せ』を取り戻すことができたのだから。
※異世界転移をしている登場人物がいますが主人公ではないためタグを外しています。
※曖昧設定。
※一旦完結。
※性描写は匂わせ程度。
※小説家になろう様、カクヨム様にも掲載予定。
一年後に離婚すると言われてから三年が経ちましたが、まだその気配はありません。
木山楽斗
恋愛
「君とは一年後に離婚するつもりだ」
結婚して早々、私は夫であるマグナスからそんなことを告げられた。
彼曰く、これは親に言われて仕方なくした結婚であり、義理を果たした後は自由な独り身に戻りたいらしい。
身勝手な要求ではあったが、その気持ちが理解できない訳ではなかった。私もまた、親に言われて結婚したからだ。
こうして私は、一年間の期限付きで夫婦生活を送ることになった。
マグナスは紳士的な人物であり、最初に言ってきた要求以外は良き夫であった。故に私は、それなりに楽しい生活を送ることができた。
「もう少し様子を見たいと思っている。流石に一年では両親も納得しそうにない」
一年が経った後、マグナスはそんなことを言ってきた。
それに関しては、私も納得した。彼の言う通り、流石に離婚までが早すぎると思ったからだ。
それから一年後も、マグナスは離婚の話をしなかった。まだ様子を見たいということなのだろう。
夫がいつ離婚を切り出してくるのか、そんなことを思いながら私は日々を過ごしている。今の所、その気配はまったくないのだが。
本日、貴方を愛するのをやめます~王妃と不倫した貴方が悪いのですよ?~
なか
恋愛
私は本日、貴方と離婚します。
愛するのは、終わりだ。
◇◇◇
アーシアの夫––レジェスは王妃の護衛騎士の任についた途端、妻である彼女を冷遇する。
初めは優しくしてくれていた彼の変貌ぶりに、アーシアは戸惑いつつも、再び振り向いてもらうため献身的に尽くした。
しかし、玄関先に置かれていた見知らぬ本に、謎の日本語が書かれているのを見つける。
それを読んだ瞬間、前世の記憶を思い出し……彼女は知った。
この世界が、前世の記憶で読んだ小説であること。
レジェスとの結婚は、彼が愛する王妃と密通を交わすためのものであり……アーシアは王妃暗殺を目論んだ悪女というキャラで、このままでは断罪される宿命にあると。
全てを思い出したアーシアは覚悟を決める。
彼と離婚するため三年間の準備を整えて、断罪の未来から逃れてみせると……
この物語は、彼女の決意から三年が経ち。
離婚する日から始まっていく
戻ってこいと言われても、彼女に戻る気はなかった。
◇◇◇
設定は甘めです。
読んでくださると嬉しいです。
【完結】皇太子の愛人が懐妊した事を、お妃様は結婚式の一週間後に知りました。皇太子様はお妃様を愛するつもりは無いようです。
五月ふう
恋愛
リックストン国皇太子ポール・リックストンの部屋。
「マティア。僕は一生、君を愛するつもりはない。」
今日は結婚式前夜。婚約者のポールの声が部屋に響き渡る。
「そう……。」
マティアは小さく笑みを浮かべ、ゆっくりとソファーに身を預けた。
明日、ポールの花嫁になるはずの彼女の名前はマティア・ドントール。ドントール国第一王女。21歳。
リッカルド国とドントール国の和平のために、マティアはこの国に嫁いできた。ポールとの結婚は政略的なもの。彼らの意志は一切介入していない。
「どんなことがあっても、僕は君を王妃とは認めない。」
ポールはマティアを憎しみを込めた目でマティアを見つめる。美しい黒髪に青い瞳。ドントール国の宝石と評されるマティア。
「私が……ずっと貴方を好きだったと知っても、妻として認めてくれないの……?」
「ちっ……」
ポールは顔をしかめて舌打ちをした。
「……だからどうした。幼いころのくだらない感情に……今更意味はない。」
ポールは険しい顔でマティアを睨みつける。銀色の髪に赤い瞳のポール。マティアにとってポールは大切な初恋の相手。
だが、ポールにはマティアを愛することはできない理由があった。
二人の結婚式が行われた一週間後、マティアは衝撃の事実を知ることになる。
「サラが懐妊したですって‥‥‥!?」
婚姻契約には愛情は含まれていません。 旦那様には愛人がいるのですから十分でしょう?
すもも
恋愛
伯爵令嬢エーファの最も嫌いなものは善人……そう思っていた。
人を救う事に生き甲斐を感じていた両親が、陥った罠によって借金まみれとなった我が家。
これでは領民が冬を越せない!!
善良で善人で、人に尽くすのが好きな両親は何の迷いもなくこう言った。
『エーファ、君の結婚が決まったんだよ!! 君が嫁ぐなら、お金をくれるそうだ!! 領民のために尽くすのは領主として当然の事。 多くの命が救えるなんて最高の幸福だろう。 それに公爵家に嫁げばお前も幸福になるに違いない。 これは全員が幸福になれる機会なんだ、当然嫁いでくれるよな?』
と……。
そして、夫となる男の屋敷にいたのは……三人の愛人だった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる