異世界でパクリと食べられちゃう小話集

能登原あめ

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呪いで熟女になったことを知らない男が、今の私を愛しいと言うが呪いが解けたら少女に戻るからどうしようと悩む話(甘め?)※

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* サブタイトル通りです。呪いで子どもやお婆ちゃんになる素敵なお話はありますが、ふと、熟女になる呪いってどうかな、と思い……。








******


 私はこの身体に呪いを受けている。
本当は十八歳だけど、見た目は四十八歳くらい。



 女神様の呪いに触れたのが十六歳の時。
 木の実集めをしているうちに迷って女神さまの神域に踏み入り、喉が渇いて二つある池のうち、澄んだ池の水をごくごく飲んだ。
 濁った池はちらりと見ただけ。

 すると私はその場で三十年、歳をとった。
 池に映る自分の姿に驚いて言葉が出ない。

 やってきた女神様がおっしゃった。

 濁っている池が若返りの水で、私の飲んだそれは歳をとる水だ。
 不老長寿を求めてやってくる輩が多く辟易していたが、おまえのように無知ゆえに行動した者には呪いの解き方を教えよう。

 なぜその姿になったかは、決して口外してはならない。
 もしも漏らせば、一月で一歳ずつ歳をとるだろう。
 もう一つ、心からお互いに愛する人と褥を共にすれば呪いは解ける、と。
 
 未婚で好きな人もいない私は、これからそんな相手を見つけて、体を重ねる必要があるらしい。
 知識はあるけれど、ものすごく難しい。

 解けるとも思えない。
 私は今、母親よりも年上の女になってしまったのだから。
 女神様はいつの間にか消えていて、私はもう何も訊くことができなくなった。

 家に戻って家族に助けてもらうこともできない。
 家族の顔を見たら、私は黙っていられないし、家族だって信じてくれるかもわからない。
 家族が信じてくれなければ、私は絶望してしまう。

 村でこんな話を聞いたことがないのは、言えない呪いだからだと思うけど、中には家族や愛する人に話してしまって早くに命を落としてしまったのかもしれない。

 夢じゃないかと池に顔を何度うつしても変わらず、私は諦めて立ち上がった。

 神域を出た後は、村とは反対側に向かって歩き、見つけた山桃をつまみ空腹を満たした。
 念のためいくつか籠に入れた。

 これからどうしたらいいんだろう。
 森の中で途方に暮れていた私を助けてくれたのが、木こりだった。
 






「行くところがない? それなら、しばらくここにいていい」

 木の実と山桃の入った籠を持ち、娘が着るようなワンピースを着た年配の女を怪しむことなく男は受け入れてくれた。

 彼のことは見たことがある。
 時々村に降りてきて、買い物をする。
 余所者を受け付けない村人がよそよそしい態度を取るのに彼はしっかり目を見て挨拶をするのだ。
 私も挨拶をしたことがあるけれど、今の私と重ならないだろうし、村娘のことなんて覚えていないと思う。

 私はお世話になるのだからと、籠をそのまま差し出し、ふと思い出して首から下げていたおばあちゃんからもらったネックレスを渡した。
 小さいけれど、これは珍しい石がついているし、いくらか生活の足しになるのではないかと思う。

 今の私は疲れ果てて、生きる気力を失っていた。
 形見だけど持っていてもしかたない。
 彼に呪いのことを打ち明けて、寿命を縮めてしまおうか。
 そんなことまで考える。

「……いや、これは大切なものだろう。受け取れない」

 山桃と木の実だけ受け取り、籠とネックレスを返された。

「でも……」
「それなら、料理は?」
「はい、できます。ほかにも洗濯や掃除もひと通り」
「じゃあ、お願いできるか? たまには人が作ったものを食べたくなるんだ」
「はい。私は……キャリーです。よろしくおねがいします」

 本当はキャメロンなのだけど、あの名前はもう捨てたほうがいいのかもしれない。

「……キャリー、これからよろしく頼みます」

 木こりの名前はアートといって、三十二だという。
 両親が亡くなってからは一人で森の奥に住んでいて、部屋が余っているとのこと。
 いつまでいてくれてもいいし、出て行きたくなったら言ってほしいと言う彼は優しかった。
 私はその優しさに甘えた。

 それから私は家の中の仕事を中心に、彼は外仕事を中心に淡々と過ごして、なんとなくお互いにうまく譲り合って姉弟のような兄妹のような関係を保ちながら二年の月日が過ぎた。
 私はそうだと思っていた。

 




 夕食後、暖炉の炎を見ながら私は繕い物を、彼は道具の手入れをする。
 とくにおしゃべりはしないけど、それが自然で居心地がいい。

 鏡を見るたびに現実を突きつけられて気分が沈む私だったけれど、彼はいつでも同じ態度で接してくれた。
 だから十八歳の心の私が彼を好きになるのは当然の流れだった。

 でも三十四才の彼が母親とも大して変わらないだろう五十歳近い見目の女を愛することはないだろうと思う。
 だから、出て行けと言われない限り私はここにいたい。
 なんでもするから彼の近くに。

 大きな街に行って、見た目が同じ年頃の男性と恋に落ちることを考えないわけじゃなかったけど、父親より年上の男なんて今はもう考えられなかった。
 
 もう呪いについては諦めている。
 誰も私のことなんて好きになるわけない。

「キャリー、そろそろ休もう」
「そうね」

 火の始末をして戸締りの確認をする。
 それから、おやすみなさいと声をかけ合って私達は別々の部屋で休んだ。






 いつからだろう。
 夜中、彼が静かに私の枕元に立ち髪を撫でる。
 意味がわからなくて寝たふりをする。
 無気力な私が生きているか確認しにきているとか?
 
 それとも、ずっと一人暮らしで人恋しくなるのだろうか?
 でも私は彼の母親くらいの年齢だし、私に母親の面影を求めている?
 それとも母性でも感じているのかも?

 わからない。
 私はいつもそのまま眠ってしまうし、朝いつも通りの彼と挨拶をすると夢だったのだと思う。
 でも、扉の開け閉めで目覚めてしまうし、彼は毎晩やってくる。

 ずっと髪を撫でるだけだった。
 それがいつしか私の手を握るようになって。
 昨夜は好きだと囁いた。

 一回り以上年上なのに好きになることある?
 もしかして年上の女性が好きなのかも?

 それからずっと。
 彼はただ手を握り、好きだと囁く。
 私の聞き間違い?
 その好きは、親愛の好き? 私と同じ好き?
 自惚れでないのなら。
 
 もしかしたら、彼となら呪いが解けるのかもしれない。
 でも本当の私は十八歳で、呪いが解けたら彼から見たらただの子供。
 それに……。

 褥を共にする。

 経験のないことは怖い。
 自分の裸だって直視できないのに、全てを見せるのは恥ずかしい。
 それに、私の思い違いなだけで、解けないかもしれない。

 彼に追い出されるまで、どんなことをしてでもずっとそばにいるつもりだったけれど、いっそのこと、ここから逃げようか。







「キャリー。ダメだよ」
 
 春になって、暖かくなって。 
 私は、アートにここを出ていくと告げた。

「気づいているんだろう? 俺が愛しているって。自分の気持ちから逃げるのか?」
「…………」
「キャリー、そのままの君を愛している。ただ、ここにいてくれるだけでいいんだ」
「私はあなたより、ずいぶん年上よ」

 心は十八歳だけど、肉体の年齢は四十八歳なのだから。

「そんなの関係ない」
「でも十四も年上だし、私のこと母親と」
「思うわけないよ。男がそれくらい年上なんてよくあることなのに、逆はダメだなんてあるわけない」

 でも、このまま褥を共にしたら、私は十八歳に戻ってしまう。
 そうなったら、騙されたと思うかもしれない。
 でも、呪いのことは話すことができないし、どうしたらいいかわからない。

「アートは年上の女性が好き?」
「キャリーだから好きなんだ」

 そう言われても、不安でたまらない。
 本当だったら、本来の自分に戻れるいい機会なのに。

「キャリー」

 名前を呼ばれて顔を上げると、アートの唇が私のそれに触れた。
 初めての口づけに驚いて、固まる私を抱き上げてそっと寝台に下ろす。

「もう我慢できないよ。お願いだ」
「でも、私……」
「キャリーは俺のこと好きじゃない?」
「…………」
「もっと簡単に考えて。好きか嫌いか」
「……好き」

 そう呟くと嬉しそうに私を抱きしめて、もう一度唇を重ねた。
 今度は唇を喰まれ、にゅるりと舌が滑り込んだ。 

「んっ……」
「何も心配しないで」

 口づけの合間にそんなふうに囁く。
 大丈夫、大丈夫って。
 
 十八歳の私の心に彼の言葉がじんわり染み込んでいく。

「綺麗だ、素敵だ」

 頭の中がぼんやりしてきて、彼に服を脱がされたことも触れられることも嫌じゃなくて。

「キャリー、愛しているよ」

 熱に浮かされた私は、脚の間に圧迫感を感じた。

「アート……っ」

 ググッと彼の欲望が私の中へ入り込む。
 痛みと共に内臓が押し上げられるような、えぐられるような感覚に、ぼんやりした頭がすっと現実に戻っていく。

「好きだ」

 その言葉に驚いて私の体が緩む。彼はその隙にすべてを収めた。

「あぁっ!」
「……っ、キャリーッ」

 彼が荒い息を吐きながら私を強く抱きしめた。
 
「私、初めてで……」
「うん……大丈夫か?」

 労わるように私の頬を撫でてじっとみつめた。

「キャリー、愛している」
「私も、愛している」

 彼の唇が私のまぶたにそっと触れた。
 それから顔中に何度も何度も執拗に口づけを落とす。

「あぁ、やっぱり君だった。……ずっと一緒にいて欲しい」

 やっぱり君だった?

 彼のいう意味がわからない。
 そんな私の顔をじっくり眺めて額にかかる髪をあげた。
 嬉しそうに私に笑いかけてくれる。
 
 一体、どういうことだろう。
 もしかして私の呪いが解けた?
 まさか彼が好きだと言ってくれた私ではなくて本来の姿に戻った私も、彼は好ましく思ってくれている?

 自分の手を見て気づく。
 節と血管の目立っていた手が、張りと肉付きを取り戻してきめの細かい肌に変わっている。

「私……若くなってい、る?」

 私の中の彼の欲望が一回り大きくなった、ように感じた。

「あぁ、そうだよ。どんな姿でも俺は君を変わらず好きだ……ごめん、動いていいか?」

 私がわずかに頷いたのを見て、唇を重ね舌を差し入れ連動するように腰を動かした。

「ん、んぅ、んんっ……」
 
 揺さぶられるうちに、痛みだけじゃない甘さを感じるようになって、私の耳に口内からだけじゃない水音が大きく響いた。
 それから彼が膣壁の浅いところばかりゆるゆると突くから、私の体は甘く痺れて弾け、彼自身を搾り取るようにぎゅうぎゅう締めつけた。

「キャリー……ッ」

 彼が苦しそうに顔をしかめて奥深くまで突き挿れ、欲望を吐き出した。
 そのまま私を抱きしめて、大きく息を吐く。

「……泉の水を飲んだのか?」

 私の呪いはもう完全に解けているのかもしれない。
 鏡を見ることができないから自分の顔を撫でると、肌ざわりが違う。

 完全に戻った?
 
「キャリー? 君、村の娘だろう? 俺は覚えている」

 私の手を取り、そこへ口づけを落とす。

「今、二十歳超えているのかい? 今度は俺の方が随分年上になってしまったな」

 からかうような口ぶりと、熱い視線に困惑した。

「アート……」

 この二年馴染んだ声よりもわずかに高い声が自分の耳に届く。

「鏡、見るかい?」

 私の中から抜け出た彼が、裸のまま手鏡を持ってきてくれた。
 体を起こして近くにあった肌掛けを引っ張り上げて身を隠し、それを受け取って恐る恐るのぞいた。

「…………」

 記憶とあまり変わらない姿に胸がいっぱいになる。

「キャリー、このまま俺の妻になってほしい」
「……アートは、今の私でもいいの?」
「もちろんだ。それに……もしかしたら、もうここに子を宿しているかもしれない。俺に責任を取らせて欲しい」

 もう離したくないと言うように力強く抱きしめて、私のお腹を撫でた。

 アートは意外と独占欲があるみたい。
 それにあまり驚いているようにみえないから不思議に思って首を傾げた。

「アートは、私が呪いを受けているって前から気づいていたの?」
「ネックレスを見た時、かな」
「最初から気づいていたってこと……?」

 彼が笑って頷き、私に口づけをする。

「村で笑顔で挨拶してくれる人って少ないんだ。だから印象に残っていた。森で会った時は君だと気づかなかったが。ここには両親がいた時代に呪いを受けた人が訪ねてきたことがあったから、もしかしてって思った」
「そう、なの。ありがとう……」

 吐息まじりの私の囁きに、彼が再度私を横たえた。
 なんだか、腕の中に囲われて囚われてしまったみたい。

「えっと……? あの?」
「もう一度、キャリーを感じたい」
「キャメロン。私、キャメロンって言うの」

 彼が嬉しそうに名前を繰り返した。

「キャメロン、大事にする。もう絶対に離さないから……このまま俺と添い遂げて欲しい。愛している」
「はい、私でよければ……」
「キャメロンがいいんだ」

 そうして私達は十二分に触れ合った後、村の両親の元へ結婚の挨拶に向かった。
 すでに彼が呪いのことを説明してくれていたようで、私は泣き笑いする両親に再び送り出された。

 あの呪いのかかっている間も、私はずっと彼に守られて、幸せだった。
 これからもきっと私達は森の中で穏やかに暮らしていくと思う。








******


 お読みくださりありがとうございます。
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