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4 もったいない!
しおりを挟むジェラルディーヌのおしゃべりを聞きながら、お茶を飲む。
ベルナデットって、お茶を淹れるのも上手だな~、って現実逃避しちゃった。
「殿下、こちらを」
侍従から渡されたカードを開くと、モニクから宮殿に着いたことの挨拶と、部屋に対するお礼状だった。
「もし良ければティールームに来れないか聞いてくれないか? 疲れているようなら無理しなくていいって伝えて」
控えていた侍従に言伝を頼む。
その間にジェラルディーヌの機嫌がみるみる悪くなっていくのがわかった。
ちょっと、素直すぎてだめじゃない?
私と夫婦になったら共倒れするよ、それ。
自分のことで手一杯なのに、お荷物じゃん。
きっと一回りくらい離れた相手に溺愛されればいいよ、うん。
そんなところもきっと可愛い、可愛いって言われるから。
「アリスティド様は、私と二人きりではお嫌ですの?」
うん。ちょっと会話に困る。
「せっかくだから、みんなで和やかにお茶を飲みたいと思ってね」
「そう、ですか。私は二人きりが良かったですわ」
がっかりして、甘える風に見せているけど。
めっちゃドレス握ってて、怖い!
そこだけシワシワになっちゃうよ。
裏表激しいの、無理だから。
「ジェラルディーヌ、そんなこと言わないで。ほら、この菓子はね、菓子職人の新作なんだ。濃厚で美味しいから食べてみてごらん?」
とりあえずにっこり笑って、目の前の菓子を勧めた。
この世界にはまだなかった、チーズケーキ。
異国の本で見たといって、菓子職人にお願いしてみたところ、甘くて塩気のきいた焼きチーズケーキっぽいものができた。
彼女が不機嫌なまま、口へと運ぶ。
「あら、見た目は地味ですけど、本当に美味しいですわ」
「それは、よかった」
そんな会話をしていたら、さっそくモニクがやって来た。
無理させちゃったなら悪いなぁ。
「お招きくださりありがとうございます」
「いや、来て早々に呼び出して悪かったね。新作のケーキがあるんだ。モニクにもぜひ食べてほしい」
彼女の目がキラリと光る。
さっすが、金になりそうなものには敏感だなー。
「まぁ、それはとても興味がありますわ」
モニクはやり手の父親そっくりだから、第二王子ブランドを作って、もうひと儲けしたいのかもしれない。
私と結婚するメリットなんて、彼女にとってそれくらいしかないと思うんだよね。
日本だったら独立して社長としてやっていけるんだろうけど、この世界だと貴族の女性は結婚して地位をかためないといけないから。
チーズケーキを一口食べたモニクは、ほんの少し眉をひそめる。
「チーズが甘い、というのは好みが分かれそうですね」
彼女にとっては納豆に砂糖をかけるくらいインパクトがあったのかな。
「そう、ですわね。少量を幻のデザートとして出したら、人気が出る気がしますわ。甘さを控えめにした方がさらに良くなると思いますけれど」
そう言ってモニクがニコッと笑った。
うーん、甘納豆入りのお赤飯に驚いたけど、最終的にオッケーみたいな感じかな。
「私は、このままで充分美味しいですわ。もっと甘くてもいいくらい」
静かにお茶を飲んでいたジェラルディーヌが口を出した。
「あら、それでしたら、蜂蜜をお好きなだけかけたらいかがでしょう」
「まぁ。そういえば伯爵領では蜂蜜が特産でしたものね。……ふふっ」
「ええ、とても、質の良いものがとれますの。ぜひ皆さまにも味わっていただきたいわ」
「まぁ、ふふっ」
モニクと二人、笑顔を浮かべているけどなんかヤダ。
なんだろう、なんかヤダ。
はっきり言ってーー!
王都で蜂蜜を大々的に売り込みたいの? たくましいわねー、下世話ねー、みたいな感じ?
販路拡大、開拓は大事よー、みたいな?
モニクは商魂たくましいから、結婚したらお金に困らなそうだけど、私じゃなくていいんじゃないかな。
もしも彼女と結婚したら、私はチーズケーキ工房のお飾りのオーナーにされちゃうかもしれない!
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