あなたのトラウマになればいい

能登原あめ

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 次に目覚めた時は、温かいタオルで指を一本ずつ丁寧に拭かれていた。
 温かくて気持ちいい。
 そのまま手の甲、腕から肩へと拭われる。
 なんでこんなことになってるの?

「……体を拭くだけだ。それ以上のことはしない」

 ぼんやりとしたまま、彼にされるがままになる。
 いつの間にか私はあの日の服ではなくて、ゆったりとした彼のであろう服を着ていた。
 上半身ははだけていて、お腹の上に温かいタオルが乗せられた後、そのまま全身を拭かれた。
 淡々と作業するから恥ずかしいと感じるより困惑する。
 いえ、恥ずかしいと思うべきじゃない?
 それなのに気持ち良くて、うっとりと目を閉じる。
 
「三日、眠り続けていたんだ。この後何か食べて、それから話をしよう」

 じゃが芋のスープを少しいただいて、彼がぽつりぽつりと話すのを聞いた。

 多分元の世界に戻れないであろうこと。
 異世界人は国に届け出を出さなければいけないこと。
 早く伴侶を見つけないと、国が斡旋した人と結婚しなくてはならないこと。

「……私、一応向こうで結婚していたんだけど……」
「戻れないから、考慮されないんだ」
「……あなたは結婚してる?」
「してない」

 きっとそうだと思った。
 どうせなら彼がいい。
 でも、言わなきゃいけない。

「私は子どもができない」

 今のは私じゃない。
 彼も子どもができない?

「……子種がないんだ。だから、結婚できない」
「それなら、あなたがいい」
「……今の話、聞いていたかい?」

 ちょっと困ったような顔を初めて見た。

「……私も、子どもができないから。だから、あなたがいい……」

 しばらく見つめ合って。
 彼が先に視線を外す。
 それはなんだか拒絶されているみたいでちくりと胸が痛んだ。

「だが、環境が変わってできるかもしれない……」
「そんなことない。……たくさん検査も受けたから」

 彼が私の瞳をじっとのぞき込む。
 嘘なんて言ってない。

「動けるようになったら役所に連れて行くよ。……君の気が変わらなかったら、うちにいればいい。歓迎する」
「……はい」

 それからまた眠って、翌朝ふぅふぅ言いながらシャワーを浴びて、髪を洗うとものすごくさっぱりした。
 それだけでぐったりしたけれど。
 朝食におかゆに似た麦のスープを一杯いただいたら、満腹で。

 こんな体調では、まだ戦えない。
 そう考えて、何と戦うというのと笑いが込み上げた。
 彼は体力が戻ってから役所にいけばいいという。
 ただなんとなく、そこへ行ったら私は彼と離されるような気がして、しっかりと頭と体が動くようにならないといけないと思った。

 これって依存?
 もしかしたらそうかもしれないけれど、私にはそれしか頼るものがない。
 男を見る目がないのはつい最近判明したばかり。
 それまでの経験だって頼りにならないと思うけれど、それでも彼を信じたい。
 
 そんなふうに考えながらさらに二日が経った夜。

「私、やっぱりあなたがいい。他の人なんていや」
「…………ひとつ、確認したいのだが」
「はい」
「私は子種はないが、機能的には問題がない。……妻となったら、そういう意味でも君を求めるだろう」
「はい」

 私がためらわず即答したからか、彼が黙る。
 そんなの、ここにいる間ずっと考えていた。

「それも含めてあなたがいい……その、あなたはなぜ子種がないと……?」
「若い頃高熱を出す大病にかかってね。その後結婚したが十年子どもができなかった。元妻は今、子宝に恵まれているから」
「そう……私、本当に、子どもが……」

 産めない、そう言おうとしたのだけど、彼がそっと唇を重ねた。

「何も言わなくていいんだ」

 そう言いながら何度も唇を啄んでくる。
 やっぱり、嫌じゃない。
 むしろ、待ち望んでいた。
 ようやくという気さえして胸がいっぱいになる。

「いい?」

 彼の欲望に満ちた目を見て頷いた。







 


 
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