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しおりを挟む私が中学生になると、お父さんは月に一度ほどお金を置きに来てそのままどこかへ行ってしまう。
まともに顔を合わせるのは三者面談の時くらい。
あみちゃんはすごく寂しそうだけど、私はあみちゃんとおばあちゃんがいればいいと思ってしまう……のは薄情なのかな。
ガスコンロも自由に使えるようになってレパートリーも増えた。
おばあちゃんから日々の料理以外に味噌をはじめ、ぬか漬け、梅干しに梅ジュースなどの季節の手仕事を教わって私たちの世界はどんどん広がった。
私が好きなのは梅ジュース。
それから赤紫蘇を使ったしそジュースも好き。
夏の暑い時期にたくさん飲みたいから、畑も手伝っておばあちゃんにたくさん赤紫蘇をわけてもらってあみちゃんが呆れるほど仕込む。
だけど、あみちゃんだって中学生なのに毎日ぬか床をかき混ぜて、チーズとかこんにゃくとかとうふまで漬けてた。
意外とおいしかったけど。
おばあちゃんから分けてもらったぬか床だけど、あみちゃんが作ると……少し味が物足りないから一生懸命研究しているところ。
そんなあみちゃんは通信制の高校を選んで昼間はスーパーのお惣菜部門で働くことを決めてしまった。
お父さんは反対しなかった。
だから私も通信制の高校を選んで、あみちゃんと同じスーパーで働くことに決めたのは自然の流れ。
私はベーカリー部門だけど。
あみちゃんは最初普通の高校に行くように勧めたけど、どうして私だけって思ったから選ばなかった。
今だって友達もいないのに高校を楽しめると思えない。
私たちは二人でいる時間が長かったから、一緒にいるのが当たり前で、他の人たちより結束が強かったのだと思う。
お父さんは自分の残りの荷物を片付けて、今後は困ったら呼べと言った。
お父さんの使っていた部屋が空いたから、そこへあみちゃんが移り、お互いに少しずつ好みの部屋へと替えていくのが楽しい。
気兼ねなくおばあちゃんを呼べるのも嬉しいことの一つだった。
私が働きはじめて半年ほど経った頃、おばあちゃんが転んで骨を折り、手術をした後から毎日の生活がこれまでどおりにいかなくなった。
私たちはおばあちゃんのおかげで生きてこれたから、これまでお世話になった分のお返しがしたくて頻繁に行き来していたけれど、仕事の間は顔を出せなくてもどかしい。
しばらくそんな日々が続いた後、おばあちゃんはあっさり介護型マンションに入ることを決めてしまった。
漠然とおばあちゃんは最期までここにいると思っていたから、今までみたいに会えなくなることを受け入れるのが辛い。
それなのにあっという間に別れの日はやってきた。
「ちょっと遠いところでねぇ……中々会えなくなるけど、手紙を書くから二人も返事を書いてね」
「もちろん手紙書くよ! それに、私たち働いているからお金貯めて会いに行くから! 待っててね、おばあちゃん」
乗ったことのない新幹線で三時間の距離。
私たちにとってすぐに会いに行ける距離じゃない。
私もあみちゃんもおばあちゃんに抱きついた。
十年近く一緒にいて、こんなに華奢なことを今頃初めて知って、胸が苦しくなる。
「おばあちゃん……さみしくなるよ……」
「……本当だね……二人のことは孫だと思っていたから……つらいねぇ……でも、二度と会えないわけじゃないからね。だってこのアパートは私のものだからね!」
おばあちゃんが背中をぽんぽん叩いてくれる。
「私たちだって本当のおばあちゃんだと思っているよ……絶対会いに行くから!」
「おばあちゃん今までありがとう!」
迎えのタクシーが見えなくなっても私たちはその場を離れることができなかった。
そして、おばあちゃんのぬか床は私たちが譲り受けた。
ほうろうの入れ物を見ると少し切なくなるけれど、あみちゃんがしっかり毎日手入れしている。
私たちにとってはお米とセットで食べるものと思っているから飽きないし、古漬けだって刻んで唐辛子と炒めてほんの少しのお醤油で、最後までおいしく食べられる。
おばあちゃんから手紙が届いた後、ぬか床をかき混ぜるあみちゃんの写真を撮って送った。
その次は私が集中してレポートを書いているところをあみちゃんがいきなり撮って送った。
おばあちゃんからは、新しく始めた趣味だと言って私とあみちゃんの似顔絵の絵手紙が届いた。
私はそんな穏やかな日々が続くものだと思っていたけれど。
あみちゃんの十八歳の誕生日は一緒にケーキを食べてお祝いした。
ここ数日は一冊の古書に夢中になっていて連日遅くまで起きているみたい。
「あとで貸してあげるね。もうすぐ読み終わるから」
「そんなに面白いの?」
「うん、すごく! ファンタジーなんだけど、ある魔術師の日記風の物語ね。淡々と日常が綴られていて」
「それ、面白いの? ハラハラする冒険とか熱い戦いとかじゃなくて?」
「……うーん、戦いもあるけど、なんていうかね、魔術師の悲しい恋物語なのかなぁ、今のところ……」
「……えー? うーん、そういうのはあんまり……」
「えーと、面白いよ?」
「じゃあ、そのうち……」
私は周りくどいのは苦手だしわかりやすくてスカッとする話が好きだけど、あみちゃんは行間を読む物語が好き。
「絶対読む気ないでしょ?」
「読書感想文をそれで書けって言われたら読む、かな?」
そう、確かそんな会話して私は先に寝た。
翌日は私だけ早朝出勤で、隣の部屋に眠るあみちゃんに声をかけずに家を出た。
仕事中に惣菜部門のチーフからあみちゃんが出勤してないことを聞いて、昨日夜更かししてたから寝坊して遅刻かなって笑っていたけど、私の出勤中には現れなかった。
電話にも出ないと言うし、なんだか胸騒ぎがして急いで家に帰った。
靴があったから慌てて部屋に入ったけど、シンとして布団の上に古書があるだけで。
心臓が激しく音を立てて、私は不安でいっぱいになる。
私たちはスマホを持っていなかったから、すぐに職場に電話したけど、入れ違いでここにいるよって言われることもなかった。
靴箱は、つい最近あみちゃんが整理していて、どれを処分してどれを履いていったかもわからない。
休みと勘違いして彼氏の家に遊びに行ったんじゃないのって言われたけど私は知らない。
聞いたことない。
休みの日に布団の上でごろごろと読書する姿を思い出す。
あみちゃんが私に何も言わずにいなくなるわけない。
事件とか事故に巻き込まれていたらどうしようと思って、お父さんを呼び出して警察に届けを出したものの、そのうち帰ってくるよって、背中をポンと叩かれた。
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