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7 リビオ視点
しおりを挟む幼い頃は身体が弱くて、元気になるためにたくさん食べるよう医者に言われた。
両親が色々と用意してくれて、お腹がいっぱいになっても無理して食べ続けていたら病気で長く寝込むことが減っていったんだ。
両親は青白くてヒョロヒョロしてた昔の僕よりまんまるになった僕を可愛い可愛いと優しく抱きしめてくれたし、嬉しそうな顔でこちらを見る。
だけど同じ年頃の子たちと顔を合わせるようになって、みんなと違って太りすぎていることに気づいた。
ガーデンパーティーの時に、僕の座った椅子の脚が折れそうになって女の子たちがくすくす笑ったから。
みんなと違うことが気になったけど、家に帰るとおいしい料理がたくさん並んで、みんなニコニコしていて食べている間は幸せな気持ちになった。
ますます太って人前に出る時は自分が自分でいやになったけど。
そんな時に僕はルチアと出会った。
小さなルチアは僕の見た目なんてまったく気にしないでニコニコ笑って絵本をせがむ。
婚約も結婚の話もまだ実感はわかなかったけど、なんとなく両親のように仲の良い夫婦になれるんじゃないかって想像できた。
「リビオさま、私が大きくなったらダンスのれんしゅうにつき合ってね」
「ダンス?」
運動は苦手だ。
「うん! ソフィアお姉さまをおどろかせたいの! くるくるーってまわりたいの」
「わかった。ぼくもそれまでに練習しておくよ」
ルチアが目をキラキラさせて、僕の手を握る。
今からがんばればなんとかなるかな。
「おそろいのドレスね? 王子さまとお姫さまみたいに」
「僕もドレス……?」
「うーんと、おとうさまがおめかしして出かける時にきてるの、ぴしっとしてカッコいいから」
「うん、ルチアの好きな色にしよう」
ルチアが僕を王子様みたいに思ってくれているなら、今のままじゃいけない。
身体を鍛えてルチアの隣に立って胸を張れるようになりたい。
本気で取り組まないと!
「私……ピンクがいい。いちばんすき!」
「ピンク……」
「うん! リビオさまもおそろいのリボンつけようね」
「ピンクの……?」
「うん! だってこんやくしゃだから!」
ピンクの似合う男になれるかな。
ルチアが15歳の誕生日に淡いピンクのドレスを贈った。
僕は同じ生地のリボンタイで、努力して痩せた身体に合わせて仕立てた白いフロックコート。
ルチアが社交界にデビューする前に、パーティーに慣れるよう領地の庭園で開かれた。
肩の凝らない昼間の時間、お互いの家族だけ。
デビュタントのドレスは白と決まっているからあの日の約束の通りにした。
「リビオ様、ありがとう」
「ルチア、綺麗だよ」
元から可愛かったけれど、そのドレスを着たルチアは1人の女性としてあらためて美しいと思った。
「リビオ様、今日の姿とっってもかっこいい……男の人でこんなにピンクが似合うのはリビオ様だけだと思う!」
ダンスが始まってから、ルチアに言われて首をかしげる。
「もしかして覚えてないの? おそろいのピンクのドレスでダンスしたいって言ったこと」
ぽかんとした顔はすっかり忘れていたらしい。10年も前の話で、ルチアが忘れてもおかしくない。
「ダンスしたいって言ったのは覚えているけど……ピンクは昔から好きだし……えっと、ごめんなさい」
素直に謝るルチアをくるりと回転させて抱き寄せる。
スカートがふわりと弧を描いて揺れ、近くにいた若い侍女たちから歓声が上がった。
侍女長がにらんで静かになったけど、ルチアもドレスもとてもきれいだから気持ちはわかる。
ルチアが驚かせたいと言っていたソフィアは目を見開いた後、すぐに横を向いてフルーツティーを飲み出した。
「……あの時のルチアがくるくる回りたいって言った」
僕の婚約者が望んだことは全部叶えたい。
「リビオ様、すごい! 記憶力もいいのね! それに私、とてもダンスが上手になったって思っちゃったわ!」
キラキラした目で僕を見上げるから少し恥ずかしくなった。
ルチアからまっすぐ向けられる好意に胸が温かくなる。
たくさん練習したのは全部ルチアのため。
いつも笑っていてほしいし、ずっとこの手を放したくない。
「ルチアは上手だよ」
「本当? リビオ様が一緒にいてくれたら、王宮でのお披露目パーティーも怖くないかも」
先にデビューしたソフィアからデビュタントの話を聞いているのだろう。
「最初のダンスを申し込んでもいい?」
「もちろん! リビオ様じゃなきゃいや」
ルチアは可愛い。
同じ年頃の男たちもダンスを申し込むのだろうな。
いやだな、社交界にデビューするのは少しでも遅くなったらいいのに。
「ルチア、もう一曲踊ろうか?」
一曲目の演奏を終えた楽団に視線を向けると、今度は軽快なリズムの演奏を始めた。
最近王都で流行っているという曲だ。
「うん! でもこの曲は初めてなの。ステップは一緒……?」
「同じだよ。少し早くなるだけ。それなら、いろんな曲に慣れるようたくさん踊ろう」
ルチアが嬉しそうにうなずいたから、僕たちは止められるまでダンスを続けた。
******
お読みいただきありがとうございます。
フロックコート→上着の丈が長い昼間用の礼服。
応援ありがとうございます!
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みんなの感想(6件)
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◯ラえもんの、ウソ800(エイトオーオー)の話みたいですね☆
オトコとオトコの友情に満ちた、感動作(だけど、最後のコマは、理解するのに結構な知識と教養がいる気がする)。水田版のウソ800のラストは、色々セリフが追加されてて(◯ラえもんなんて大嫌いだ!など)それもよきでした、、、
何だか話がそれました(笑)
ぽちゃ彼の、器の大きさに惚れ惚れしました。
いいなぁ。お幸せに☆
私はしばらく、某球団の不特定多数(!)イケメン(息子でもおかしくない年齢の選手もチラホラ)の活躍を愛でます(笑)
子どもの頃、アニメ版のそのお話観て○び太と一緒に泣いた記憶あります!
純粋な頃がありました(๑˃▿︎˂๑)))
それぞれ違うのは興味深いですね。
ぽちゃ彼(笑)じゃなかったら、こじれて、そこに当て馬登場なんてこともあったと思います!
P子さまは推しがいるんですね♡
推しの年齢なんて気になりません!
うらやましいです✨
P子さま、コメントありがとうございました🤗
リビオ視点ありがとうございます!
リビオがルチアのために些細なこともちゃんと覚えていて頑張っているのが素敵ですね。
リビオ視点だとルチアがますます可愛くて、きゅんきゅんしました✨
お待たせしましたー⸜(*ˊᵕˋ*)⸝♡
リビオから見たルチア、素直でまっすぐで可愛いですね。
ルチアと歳が離れているので大切に大切にしたいと考えてると思います!
まりさま、コメントありがとうございました🤗
すれ違わなくてよかったー!
ルチアとリビオと子どもの頃のエピソードにほっこりしました。
二人とも一途で素敵ですね。
リビオ視点の子どもの頃のお話とかも読んでみたくなりました✨
すれ違わず、幼い頃から想い合ってる2人の話が好きなんです!
リビオの気持ちは書ききれなかったところもあるので、気長にお待ちいただけると嬉しいです(。•ㅅ•。)♡︎
まりさま、コメントありがとうございました🤗