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母の再婚相手が私の好きな人でしたが、それは過去の話です!①
しおりを挟む* 『こんな愛ならいらない』の方に入れるか迷った話です。全三話。微ざまぁと騎乗位あります。
******
「先生、好きです」
私が高校を卒業して、三八歳の母がひっそり入籍することにした相手は二八歳の私の高校の担任だった。
異動も決まり、タイミングが良かったのだという。
ホテルの個室で先生と母と食事をしながらその話を聞き、言いたいことだけ言った母は仕事に戻って行った。
二人きりになって、我慢できなかった私は先生に気持ちを伝えた。
先生は眉毛を下げて困ったように笑う。
「隠していてごめんな。俺はお前のこと、ずっと娘を見る気持ちでいたんだ。今も、自分の子どものように好きだよ」
たった十歳しか違わないのに。
薄々気づいていた。
母と先生が私の進路相談と言う名目でよく会っていたことを。
保険の営業をしている母が残業だと言って遅くなることが増えたことも。
たまに先生が私を特別扱いしたのは、私が好きなんじゃなくて母が好きだったの?
私は勘違いして、先生を意識するようになって、好きになった。
先生どうして?
母より私の方が若いのに。
母にはこんなに大きな娘がいて、バツイチなのに。
若作りしているだけなのに。
すぐおばあちゃんになっちゃうんだよ?
子どもだって産んでくれるかわからない。
母が幸せになるのは嬉しい。
相手が先生じゃないなら。
「ナナもちょっと大変になるけど一緒に異動先から学校に通って……」
「私が好きって言ったのに……新婚の母と先生を見てなくちゃいけないの?」
「……ナナの好きは、女子高特有の、狭い世界にいたからで、気の迷いだよ。……周りを見たら、もっと歳の近い、ナナにふさわしい好きな男の子が現れる」
先生は私じゃないのに、私の気持ちがわかるの?
私の気持ちは私のものなのに。
「…………」
「…………それなら、女子寮に入るか? これから家族になるんだから、ミナさんに心配かけたくないし仲良くしたいんだ」
「先生の中心は母なんだね……わかった。最後にキスして……絶対秘密にするから」
「ごめん。それはできない。子どもにキスなんて気持ち悪い」
結局、簡単に通いやすくてほどほどの金額の女子寮なんてみつからなかった。
不便なところにあるボロボロの寮か、新しくセキュリティもばっちりだけど金額が高すぎるか。
結局しばらく三人で暮らすことになり、二人の醸し出す雰囲気が居心地悪かった。
父と呼ばなくていいと言われたから、先生と呼んでいるし、表面上はなんとかやり過ごしているけど、疲れる。
だから新しくできた友達の家は私にとって最高に居心地が良かった。
美容師の専門学校は一日の授業も長い。
友達とシャンプーの練習もしたし、ロットを巻く練習なんて地味で時間もかかって、通学の時間がもったいない。
荷物も多いし重いし、それで満員電車なんてしんどくてつらくて。
「うちで練習しようよ」
両親が経営する美容院を継ぐのだというマリに誘われて、実家にお邪魔した。
ちょうどマリのお兄さんが就職して家を出て行って、ご飯一人分余計に作っちゃうんだって明るく笑うお母さんが、食べてって、泊まっていきなさいって言う。
ぽろっと、高校の担任と母が再婚したんだってもらしたら、色々察したのかうちに気兼ねなくおいでってお父さんまで言ってくれた。
それから、マリの両親が私の母に電話して、連絡を取り合うようになって堂々と泊まることができている。
ほぼ毎週末のように泊まりに行っては美容院の手伝いをさせてもらうようになって、母も一度菓子折を持って顔を出して、時々色々持たせてくれる。
「ナナちゃん、うちの兄ちゃんと結婚してくれないかなぁ? そしたらマリと二人でうちの店切り盛りしてくれてもいいんだけどね」
「あ! 父ちゃんそれいい‼︎ ナナ、そうしよう!」
「じゃあ、サスケに帰ってくるように言わなくちゃ」
そんな冗談を言うくらい家族仲がよくて、その中に加えてもらえて嬉しい。
「お兄さんがいいって言ったら、お嫁に来るよ」
私はもちろん冗談でそう答えた。
「はじめまして、ナナちゃん。よろしくね」
マリのお兄さんはマリとは全然似てなくてクールなインテリ風。
IT系のお仕事で、マリに言わせると理系のオタクらしい。
小さい頃から美容院は継がないって宣言していたらしく、彼の両親も二人に好きなことをするように勧めたらしい。
「はじめまして。お兄さん、いつも皆さんにお世話になってます」
「……お兄さんじゃなくて、サスケ。お嫁さんにお兄さん呼びは、ちょっと」
「あははーっ! 兄ちゃんの好きなタイプだと思ったんだよね! やった‼︎ ナナと姉妹になれる!」
この家族はみんなノリがいいんだなって、私もつられて笑った。
ただの理系のオタクはそんなこと言わないと思うけど。
「じゃあ、サスケさん、これからよろしくお願いします!」
それからたびたび顔を出すようになったサスケさんとはたくさんおしゃべりするようになった。
五つ年上だから頼りになるお兄ちゃんで。
時々、『美しい方程式があってね、x²+(y-∛x²)²=1……これをグラフにするとハートになるんだけど……』とか理解できないことを言う。
説明は全くわからなかったけど、ハートが描かれたグラフはきれいだと思った。
マリ達はまた始まったみたいな顔をしていたけど、その後理系オタクの告白はそれかって呟いてた。
私が首を傾げたら、サスケさんはニコって笑う。
それから、母と私の好きだった先生が結婚した話をした時のサスケさんの反応が、
「つらい恋だったね」
そう言って私の頭をぽんと手を置いた。
すごく単純だけど、好き、って思った。
先生は気の迷いだと認めてくれなかったけど、サスケさんはそうじゃなくて。
過去形なのも、ちょうど私の今の気持ちにもぴったり合って。
「でも、二人のおかげで俺はかわいいお嫁さんを手に入れられるんだな」
冗談を交えての慰めに心が軽くなる。
「そうですね、私にはサスケさんがいますもんね」
「…………ナナちゃん、本当にお嫁においでよ」
そんなやりとりも楽しかった。
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