こんな恋があってもいい?

能登原あめ

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兄と私と、兄の親友 兄side&その後[改稿版]*終

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* 本編の後におまけ小話が2つ入っています。






******

        
 ふと目が覚めて、うたた寝していたことに気づいた。
 ノリとユキと酒を飲みながら話をしているうちに、ベッドに寝そべったのがいけなかった。
 部屋が明るく眩しくて目がしぱしぱする。

 ベッド下では布団に大の字になってノリがぐっすり眠っていた。
 こいつは一度寝たら絶対起きない。
 一度、妹のマニキュアを借りて塗ったけど、十本塗っても起きなくて寝坊してそのまま大学へ行き、彼女に浮気を疑われていたことがあった。  
 ラメがとれねーって。

 それはともかく、ユキはトイレに行ってるのかなかなか戻らない。
 とりあえず、音楽を止めようとリモコンを手にしたところで、隣の部屋からくぐもった高い声が微かに聞こえた。
 
 妹の鼻歌……というよりは。
 妹のオナニーか?

 この際音楽はかけっぱなしにする。
 これは聞いちゃいけないやつだ。
 兄妹にもプライベートはある。

 ん?
 ユキやノリがいるのにするか?
 男ならムラムラして、そういうことがないわけでもないかも?
 女でも性欲男並みのやつもいたし。
 でも、妹だぞ?
 あのかわいい妹が?
 
 時々出かけているけど、彼氏はいないはずだ……多分。
 ユキが戻ったら相談しよう……いやちょっと待て。
 ユキはいつからいないんだ?

 ノリが言うにはあいつに数ヶ月前から本命の彼女がいるらしい。
 いつもならすぐ紹介するのに、今回は俺たちに言い出せないくらい本気の。
 ノリがストレートに彼女ができたのかと聞いたら、大事な子だからもうちょっと待ってと言ったらしいし。
 だから俺はあいつが言い出すまで知らん顔をしていたのだが。

 考えているうちに、音楽と音楽の合間に隣の部屋から拍手するような音が……わかってる。
 これは拍手じゃない。
 いや、でも、考えたくない。
 
 妹とユキが?
 ロックにノッて手拍子しながら踊っている、とかなら。
 俺も参加していいんじゃね?
 
 こんな夜中にそんなわけないって。
 一人ノリツッコミ疲れるな。
 でも、なんで?
 いつの間に仲良くなったんだっていう話だし。
 
 妹の処女はあいつに奪われたのか?
 小さい頃は『おにいた~ん♡』って、抱きついてきて『だいしゅき♡』『けっこんする~』って言って小学校から帰ってくると、家の中を猛ダッシュして抱きついて『あいたかった~♡』『あそぼ~♡』って言ってたあのめちゃくちゃかわいい妹が。

 だんだん腹が立ってきた。
 隣の部屋のドアが静かに開き、軽い足音が聞こえた。
 妹がこんな時間にどこへ?
 とりあえず、タバコを吸って落ち着こう。
 間もなく入れ替わるようにユキが部屋を出て、俺の部屋を通り過ぎた。
 通 り 過 ぎ た!
 大事なことなので二度言った。

 証拠隠滅か。
 シャワーか。
 殴っていいだろ。

 反対するけど、妹とデートするって知らせてくれたらよかったのに。
 それか、わかったって頷いておいてこっそりついて行ったけど。
 反対するけど、こそこそしないでつき合いたいって言ってくれたらよかったのに。

 まあ、基本反対する。
 妹はまだ十九歳だし。
 つき合ってるって言ったら殴る。
 言い訳したら殴る。
 
 そう思う一方で妹かわいいから、好きになっちゃうのもわからないわけじゃないよなーとも思う。
 いや、好きになるって。  
 妹、かわいいもん。

 ユキだって、女の子に対して本気になったことなんてこれまでみたことないけど、いつも誠実に真面目につき合ってた、と思う。
 ちゃんと、一度に一人とつき合ってたし大抵女の子から告白され、女の子から『私のこと本気で好きじゃないでしょ』って振られてた。
 
 今回はどっちだ?
 妹からだったら、あいつは振られるだろう、多分。
 そん時は慰めてなんかやらねぇ。
 





 部屋に戻ってきたユキは入ってくるなり真面目な顔をして正座した。
 マジか。
 本気の本気かよ。

 これじゃあ、妹と親友の幸せを祈るしかないじゃねえか。


 朝からいちゃつく二人の交際宣言を聞いても、ノリは全く驚いていないし。
 隣に並ぶとか近い。
 近すぎる。
 もっと離れろ。
 
「なんとなく、そうかなと思って」

 マジかよ。
 妹もユキも顔を見合わせて笑う。
 なんだよ、それ。

「兄に言わなくてごめんね? 試験落ち着くまで黙ってたいって、ユキくんはすぐ言いたがってたけど、私が口止めしてたの。許してくれる?」

 首を傾げてきゅるんっとした目で見られたら許すしか、ない。

「わかった……そういうことなら、しかたないか。つき合いを、ミトメル。……困ったら俺に言えよ?」
「うん、そんなことないと思うけど、ありがとう」
「そういうわけだから。よろしく、オニイチャン」

 ユキの腕をつかんでほっとしたように笑う妹の顔を見て、さらに見たことのない甘い顔を見せる親友に。
 思わず手が出てしまったのは仕方ない。









          終








***


『その後の二人』       親友side




「じゃあ、俺あっちで寝るわ」

 ノリが眠そうな顔をしているから、俺はさっと立って部屋を出ようとした。
 その肩をヤスが掴む。

「はぁ? 付き合うのは認めたけど、ここに兄がいんのに、妹の布団に潜り込むってないだろ」
「ただ寝るだけだろ」
「前科がある」

 ノリが嘘だろって呟く。

「考えてみろよ? 隣の部屋にかわいい、かわいい大切な彼女が一人でいるんだから抱きしめたっていいじゃないか……お前の大事な妹だ、幸せにしたいし大事だしかわいくてかわいくてしかたないのはわかるだろ?」
「わかる」
「…………」
「だよな。じゃあ、おやすみ」

 ヤスが案外チョロかった。
 ちょっと驚いていたら、音量を思いっきり下げたけど。
 
「いや、さすがにそこまで疑う?」
「……一応な」
「…………おやすみ」

 会話も聞こえそうなレベルだ。
 それが狙いか?






 ノックをしてタエの部屋に入る。

「え? どうしたの? 兄は?」
「ちゃんと、許可をもらった」
「嘘でしょ⁉︎」
「いや、ほんと。ほら、音量小さいだろ」

 後半は彼女の耳元でささやく。
 いつもなら、こっちの部屋まで振動が響くのに。
 きっとこの会話を聞いている。

「向こうに戻れって言って」

 耳元でささやく俺の意図を察して彼女が気持ち大きめな声で言う。

「ムコウノヘヤニ、モドッテヨ」
「え……ここにいたい」

 棒読み過ぎ。
 また小声で伝える。
 
「大人しくできるなら部屋の隅で寝ろ、って言って」
「オトナシクデキルナラ、ヘヤノスミデネロヨ!」

 吹き出しそうになる。

「大人しく寝るよ」
「ソレナラ、イイヨ」

 俺の態度に眉間にしわを寄せる。
 いや、だって。
 
「下手すぎてかわいい」

 耳に口をつけて息を吹き込む。

「……っ!」

 そんなふうにいちゃいちゃしていたら、音量が上がった。
 ヤスが納得したと言うより、きっとノリが空気読んだんだろうな。
 あいつ、早く寝たそうだったし。
 
「……音、おっきくなったね」
「音だけじゃないんだけど」

 彼女の手をつかんで俺の股間に手を当てる。

「ね? なんで煽るかな? 静かに眠るつもりでやって来たのに」
「煽ってないけど!」

 じりじり下がって俺から距離を取ろうとする彼女をぎゅっと抱きしめた。

「ユキくん。恥ずかしいこと、しないから」
「……恥ずかしいこと、ねぇ」
「だって、こんなこと続けてたら絶対バレる」

 もうバレてるし。
 とはいえ俺だって人に聞かせる趣味はない。

「……じゃあ、寝よっか」
「うん」

 俺の言葉を信じて一緒にベッドに横になる。

「ユキくん、好きだよ……おやすみなさい」

 抱きついてくる彼女が可愛すぎる。
 俺、まだ勃ったままなんだけど。
 わかってるのかな、この状況を?

「俺も、好き」

 何度か静かに唇を啄んでそっと舌を差し入れる。

「ん……ダメ……」
「ダメじゃないでしょ」

 パジャマの下に手を入れ、すでに立ち上がった胸の先端を手のひらに感じながらやわやわと揉む。

「ねぇ? コリコリしてるけど?」
「ユキくんっ」

 深く口づけて彼女を煽り、脚の間に太腿を割り込ませてグリグリと押しつける。
 かわいい。
 キスだけでヘロヘロになるから。

「ベッド揺らさないように、気をつけるから……していい?」
「でも……ゴムないでしょ?」

 ゴムあればいいんだ。

「枕の下にある」
「嘘でしょ?」
「いや本当……声気をつけて」

 さっき、タエが風呂に行ってる間にトイレだと言ってそっと仕込んだ。
 そう言うと、微妙な顔をする。

「ユキくん、……確信犯」
「それ違うから」

 お互いに全部脱いで床に落とした。
 流石に痕跡が残るとまずい。
 それから枕の下から取り出したゴムを静かに開けて装着する。

「あー……どうしよう」

 とりあえず向かいあって正常位で彼女の中に入る。
 濡れてはいるけれどほぐさずに挿れたからきつい。
 彼女が口元を手で覆って耐える姿に早くも射精感が高まる。
 一方でもっとよがらせてこの時間を少しでも長く楽しみたいとも思う。

「タエ、キスしよ」

 首を横に振る、その態度が俺を煽るってことになんで気づかないかな。
 指に噛みつき、馴染ませるように腰を大きくグラインドした。

 鼻から抜けるかすかな音に気づいて彼女の鼻をつまむ。
 目を見開いてその手を退かそうとするから、ゆっくり腰を引いた。

「ユキ、くん……」

 ダメと言おうとする彼女の中にゆっくり押し入る。
 指の隙間から熱くて甘い吐息が漏れる。

「手、退けて」

 諦めた彼女が手を外したから、俺も鼻から手を離し、舌を絡めて口内を嬲る。
 もっといっぱい気持ちよくなってほしい。
 彼女のじれったい気持ちを煽る。

「……んっ……、ふ……」
「あー、やば……」

 ナカが蠢いて俺自身に絡みつき、彼女自身も絶頂が近そうだ。
 脚の間に手を伸ばし陰核に触れる。

「んぅ!」

 彼女の絶頂とともに、ギュッと内壁が吐き出せと俺をしごく。
 奥に押しつけるように何度か動いてためらわずに吐精した。

「……タエ、まだ寝るな」
「ん、……」

 ティッシュをそっと取り、うとうとする彼女と俺をきれいにして抱きしめた。

「シャワーは?」
「……朝、ボディシート、で、拭こ……」

 俺に抱きついてそのまま眠りに落ちる。
 無防備な寝顔がかわいい。
 ずっと見ていられる、けど。
 お互い素肌なのが心地良くて、俺も眠りに誘われる。
 早起きしないとヤスが騒ぐかな、そう思いながら彼女をしっかり抱き込んで目を閉じた。
 




 

***

 
『兄と恋人とバレンタイン』



「はい、これ兄の分」

 土曜日にチョコを作った。
 輸入食品店で買った、卵と牛乳を混ぜるだけでできるチョコブラウニーの素を使ったから失敗しない。
 というより、ほぼ毎年の定番。
 友チョコには簡単でよかったから。
 今回は張り切って違うものにしようかと思ったけど、兄からリクエストあったし、変わったことして失敗したら悲しいからこのまま。

 ユキくんもおいしいって言ってくれたことあるし、今回は中にチョコを入れてほんの少しバージョンアップしたものにしてある。
 可愛いアルミカップで小さく焼いたから、日曜のデート中に持ち歩いても溶ける心配もない。

「……今年は、違うな」
「食べやすくしたんだけど?」

 最初喜んだ兄が、なんだか複雑そうな顔をしている。

「ユキも同じ?」
「うん、まぁ」

 さすがに恋人のがちょっとていねいだし綺麗なのを選んだけどね。

「ふーーん。……ありがと」
「どういたしまして! じゃあ、でかけてくるね。夜ご飯もいらないから!」
「八時までには帰ってこいよ」
「……行ってきます!」

 今時の高校生だって、塾とかバイトとかあるし八時に帰らないんじゃない?
 相変わらずだけと、守るとも言わなかった。
 早く、兄にもまともな彼女ができればいいのにな。







「ヤス? 彼女いるよ?」
「嘘⁉︎ だって、さっきもパジャマのままだったよ?」

 ユキくんと駅で待ち合わせをして、手をつないで歩く。
 日曜日で人通りも多くて歩きづらいから、私の手を引いてぶつからないように誘導してくれる。

「ありがと」
「ん……ヤスにずっと片想いしていた子がいてさ。卒業するまででいいからって押し切られる形でつき合い始めたんだ」

 ちらっと私を見て続ける。

「始まりはそんなだけど、もう半年続いてるんだよね」
「嘘でしょ⁉︎ あんなに女っ気ないのに……」
「俺もすぐ別れると思って言わなかったんだけど、最近二人の関係が変わってきたみたいなんだ」
「どんなふうに?」
「ヤスの方が本気にみえる……それに、タエが出た後急いで支度してると思うよ」

 ユキくんが言っていたことを話半分に聞いていたけど、兄妹で気が合ったらしい。
 私もユキくんもどこへ行くか兄に言わなかったのに、なぜかちょっと有名な神社で兄とその恋人を見かけることになった。
 
 初詣もしていなくて、バレンタインだし混まないと思ったんだけど、縁結びのお願いをしているのか、デートの前にうまくいくようにお祈りしに来たのか、若い女の子が多くて思ったより混雑していた。

 ここはいつも初詣に来る神社じゃないし、兄達もよりによって同じところに来なくてもいいのに。

「ユキくん、見つかる前にどっか行こう?」
「話しかけなくていいの? せっかく揶揄からかうチャンスなのに」

 二人が楽しそうに見つめ合っておしゃべりしているし、なんとなく邪魔したくない気がする。

「もし、四月以降も続いていたら、今日のこと話そうかな」
「いいの?」
「うん、仕事始めるとカップルはみんな別れるって聞いてるし」

 なんの気無しに漏らした私の言葉に、ユキくんの態度が穏やかじゃなくなる。

「へぇ……。そんな風に思ってたんだ」







「ユキくんっ、やっ、だめ!」

 こんな予定じゃなかったはずなのに。
 ショッピングモールに寄って、その後バレンタインのライトアップを歩いて観て、おいしいご飯を食べる。

 それが、ホテルのサービスタイムを利用することになるとか。
 一応頭の片隅にイチャイチャする時間もあったけど、それはライトアップを観て、ロマンチックな気分になって、そういうことになるかもって話で。

「タエはさぁ、俺が就職したら別れると思ってた? それとも俺から離れようと思ってた?」

 私は仰向けであぐらをかくように脚を組まされて、ユキくんを受け入れている。
 なんだか普段より浅いのだけれど、組まされた脚が拘束されているみたいだし、上から見下ろされてドキドキした。

「そんなわけ、ないっ……あっ、んんっ……」

 私の反応を見ながら、ごくゆっくりと抜き挿しする。

「すきっ、ユキくん、すき、だからっ……別れ、たく、ないよぉ」
「……ふぅん。本当に?」

 ほんの少し上から脚を押されて、受け入れる感覚が変わった。

「あっ、なんでっ、あ、あぁ……」
「これ、好き? ナカ、キツくてうねってる」

 頭の中がぼんやりして、考えるのが嫌になる。

「俺、すっごくタエのこと、大事にしてると思うんだけど。足りないってことかな?」

 話しながらゆるゆると動かれて、快感が溜まっていく。

「ユキくん……っ」
「ん? どうした?」

 もっと。もっとほしい。
 私の反応からわかっているはずなのに、意地悪く笑っている。

「ユキくん、すき。ずっと、いっしょに、いてっ」
「うん、もちろん、そのつもり」

 そう言って、変わらないペースで淡々と快楽を与え続けるから、生理的に涙が流れ落ちる。

「ユキくん、信じてる、からっ……もっと、ぜんぶ、奥まで、入れてっ……!」
「言ったこと、忘れちゃダメだよ」

 私の脚を開いて腰が上がるくらい持ち上げた。
 それから、深く穿たれる。

「あああっっ……‼︎」

 ゴリッ、と子宮口に先端が当たり、ぎゅっと彼自身を締めつけた。

「ユキくん、これ、だめっ、あたってるからぁ!」
「わざと当ててる」

 小刻みに奥深くをコツコツと何度も何度も打ちつける。

「へん、へんになるぅ、……あ」

 絶頂に追い上げられて身体が激しくのけぞった。
 それでもユキくんは脚を抱えたまま、揺さぶるのをやめなくて、私は快楽を拾い続ける。

「あっ、あ、あぁ……っ!」

 不意に胸の先端を摘まれて、私は声も出せずに打ち震え、ユキくんが顔を歪めて膜越しに欲望を吐き出した。
 そのまま落ちてきて私を抱きしめる。

「タエのこと、離すわけないじゃん」
「うん」
 
 想像以上に愛されている。
 不用意に発言するのはやめようと、心に誓ったバレンタインデーとなった。







****** 


 お読みくださりありがとうございました。
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