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結婚式のその後で
しおりを挟むハリス侯国は、湖上に建つ美しい城が有名ではあるのだけど。
「…………」
「何してるの?……クロエ、おいで?」
今、湖に入る必要ある?
ついさっき、私たちは結婚式と内輪での晩餐会を終えたところで、明日に備えてみんなより先に退出した。
そのまま、部屋に戻って今さらだけど、初夜の準備なのだと思っていたら外に連れ出されて。
「……初夜の前にお互いの身を清める儀式があってね、代々そうしてるんだ」
禊ぎ、ってことなのかな。
今日のウェディングドレスはトレーンこそないものの、レースをふんだんに使っているから、重い。
明日からは宝石を縫いつけた豪奢なドレスを着ることになるのだけど。
「……こんなドレスのままで入ったら部屋に戻れないと思うけど……誰かそばに控えているの?」
「いや、これは二人きりで行う伝統なんだ」
私、担がれてる?
「ドレスのまま入って、浅いところを歩いてあの離れに向かう。今夜はそこで過ごすんだよ」
ルーが優しい顔で言うから、ようやく信じることができた。
「えーと、どうすればいいの?」
彼に手をとられて、スカートの裾を持ち上げ、靴のまま脚首が水に浸かる深さのところを歩くことになった。
このために、靴が脱げないように足首の上まで紐で結ぶつくりになっていたらしい。
ちょうど、月が出ていて。
それが湖に映って。
正装していつも以上に格好良いルーに手を引かれるのは、すごくロマンティックで。
彼と結婚してよかったなって、胸がいっぱいになる。
「ルー、大好き……」
一歩前を歩いていたルーが振り返ってにっこり笑った。
「俺も。クロエのこと、これからもずっと愛してる……結婚できて嬉しいよ」
握った手に口づけを落とし、私を引き寄せた。
「……私の旦那さま」
ルーが自身の胸を押さえて、深く息を吐いた。
「急ごう?……今夜は特別な夜だから」
離れまであと二十メートルほど。
ルーと波打ち際を走るなんて私が幼い頃以来で懐かしい。
でも、ちょっと無理だった!
ドレスアップして、夜更けに五センチほどのヒールが砂に埋れて波打ち際を走るなんて無謀!
浮かれすぎてたっ。
「ルーっ‼︎」
私はバランスをくずしてルーを道連れに湖の中に倒れ込んだ。
重たいドレスのスカートをルーに持ち上げられながら離れの浴室へ直行する。
「……誰もいないの?」
「そうだよ、明日まで二人きりだ。……この辺り一帯に俺たち以外は入れないように対策してあるから安心して」
「ルーがそう言うなら」
結婚式の時も普段より警備の人数が多かったのを思い出す。
「温まろう」
私の前にしゃがんだルーが靴を脱がせてくれる。
うやうやしい手つきでゆっくりと紐を解くから恥ずかしい。
それから濡れて重たくなったドレスを手伝ってもらって脱ぎ、いい香りのする濁った湯に浸かる。
私たちが着く直前まで誰かが準備しておいてくれたみたい。
室内も浴室の灯りも、お互いの顔が見える程度に落されていてほっとする。
ルーの胸に私は背中を預けた。
この数ヶ月で彼と触れ合うことに、だいぶ慣れてきたし、お風呂も初めてでは、ない。
けれど今日の濁り湯は初めて嗅ぐ香りだから、きっと特別な薬草を使っているのかも。
「これは、子宝に恵まれるよう願いを込めた薬草だよ……あれ?照れてる?クロエ、かわいい……」
赤くなる私を後ろからぎゅっと抱きしめて耳たぶを食む。
それから私の胸をとらえた。
「今夜はクロエのことを妻として抱けるんだね。……あぁ、ものすごく、感慨深い」
「……そう……?」
すでに城のみんなからルーの奥様扱いされてきたから、今さらのような気がして。
「今夜は、思い出に残るような特別な夜にしよう」
硬いものが当たってぐりぐりと押しつけられる。
「ルー、こんなところじゃなくて……」
せめてベッドへ。
「うん、そうだよね。こんなところじゃなくてさ、移動しよう?」
あぁ、よかった。
「その前にこっち向いて、クロエからキスして」
ルー自身を刺激しないように向かい合わせになって、肩に手を乗せ口づける。
ただ唇を合わせただけなのに、嬉しそうに微笑んでくれる。
「ありがとう……もう一度、して?」
そう言われて今度は唇を開いてぱくりとルーの上唇を食んだ。
至近距離で目が合って、ニヤリと笑われた!
「んんっ!」
喉奥まで舌を突っ込まれ、それに気を取られているうちに腰を持ち上げられて下から貫かれた。
「……っ、クロエ……、俺の最愛の妻」
「ここじゃ、しないって……!」
「しないとは言ってないけど、移動しようか」
ルーがお尻の下に手を添えて立ち上がるから、彼の首に腕を回してピタリとくっついた。
「ルー……このまま移動するの?」
「うん。だからしっかりつかまっていて」
なんでつながったまま歩くことになってるの?
特別な夜だから?
そもそも特別って何?
「ルー……明日も色々とパーティとかあるでしょう?だからね……」
「うん、夜の晩餐会ね。だから昼まで寝ていて大丈夫だから」
ちょっと、そういうわけには……。
「…………あのね……あんまりしすぎちゃうとルーの隣で疲れた顔になっちゃって幸せな花嫁さんに見えないかも?だからね、すこぅし、控えてほしいな」
「…………わかった」
クロエには最高に綺麗な花嫁でいてもらわないとね、と言って寝室ではない方へ向かう。
「ルー?」
びしょ濡れで、裸のままテラスに出た。
「!?!?!?」
「……風が気持ちいいね、あのままあそこにいたらのぼせちゃうからね」
寝椅子に腰かけたルーが、クスリと笑う。
「暗くて見えないから、大丈夫」
そんなわけないから!
「……あんまり、大きい声出しちゃダメだよ?……風に乗って聞こえちゃうから」
「ルー……!」
「気づかれちゃうよ?キスしてしてあげるね」
「んむぅ、るぅ……」
下から突き上げながら私の抗議を全て飲み込んでいく。
確かにバルコニーだなんて特別だけど!
いや、違う。これ、違う!
なのに、私の身体を知り尽くしている彼に絶頂に押し上げられる。
「……っんんーーーーっ……‼︎」
「いっぱい、気持ちよくなって。……ほら、城が見えるよ?開放感があっていいでしょ。この特別感」
いや、なんか、もう。
こんな特別を望んでいたわけじゃないんだけど。
「続きは中でしようか。風邪ひいたら困るからね」
その気遣いはテラスに出る前にして欲しかった、けど。
嬉しそうだから、まぁ、いっか。
そう考える私も彼に毒されていると思う。
「今度はルーが気持ちよくなって」
* * * * *
お読みいただきありがとうございます。
そして、すみませんでした‼︎
エロをコミカルにしてしまう悪い癖が出てしまいました。
応援ありがとうございます!
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みんなの感想(9件)
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今日はこのお話を拝読させていただきました💞
丁度のヤンデレ具合で、ヒロインの諦め具合?とかも良い🌟🌟🌟
こういう力の抜けたお話が今は読みやすい🎶です。
こちらにもありがとうございます〜🌟
ちょ、丁度のヤンデレでしたか⁉️
そう言ってもらえて嬉しいです😆
その時々で読書の気分が変わりますよね💕
(やばめのものも紛れこんでいるのでお気をつけ下さいませ〜🤗)
退会済ユーザのコメントです
これも私の脳内、腹黒ヤンデレブームの時に楽しく書きまして😆
ヒロインはぽわんとしてるわりに空気読んでますもんね。
ダンスのシーンは私もかわいい2人だなぁって思います…年の差、アレですけど。
確かに、緊縛、監禁の逆ハーって、どんな乙女ゲームだって話ですね😂
こちらにもありがとうございました〜🤗
こちらにも感想ありがとうございます😊
そんなエリーも、ルーカスの後押しでちょっと結婚相手が……なお話考えていたんですよ!
ブーメランな話を(笑)
二人の初夜とその後ですか⁉︎
ショヤ……ショヤ……。
何か思いついたら書いてみます!
ヒロインの相手が生理的にめっちゃ受け付けない場合もあるので!
むしろそっちになるんじゃないかと。。
気長にお待ちいただけると嬉しいです♪