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しおりを挟む「ミケル様……」
話しかけたものの言葉が続かない。
だって、夫婦だからひと通り経験があるはずなのに、私にはまったく記憶がなくて、どうやって仲を深めたらいいかわからないんだもの!
「……どうした? 眠れそうにない?」
ミケル様がこちらを向いた気配がした。
灯りは落として、月明かりだけ。
彼の銀色の瞳だけが光って見える。
「……はい、あの、まだ眠くなくて……その、手を……」
「手を……? えーと……つなぐ?」
もじもじする私に、ミケル様が少し考えてから手を差し出してきた。
温かい手が私の手を包む。
ドキドキして、でも言いたいことが伝わって嬉しい。
「小さくて、可愛い……モニカみたいだ……あ、いや、その、可愛い……。女の子の手がこんなに小さいなんて……」
「私の手の大きさは多分、普通です。あの……ミケル様ならダンスを踊る機会がたくさんあったんじゃないかと思いますけど」
サラサラのプラチナブロンドも、涼しげな顔立ちもずっと見ていられる。
ミケル様には言えないけど、少し放っておけないような可愛さもあって目が離せない。
「どうかな……? ひ弱であまり女性に好まれるような容姿でもないし、病弱な侯爵家の後継ぎと思われているからね。実際は健康だよ。それにダンスが苦手だったから……もしかしたらモニカとしか踊ったことがないかもしれない」
「そんなはずありません! 私は格好いいと思います! ミケル様が結婚相手で良かったと思っていますし、このご縁はとても嬉しいです。もし……もしダンスが私だけだったら嬉しいですし、私も先生としか踊ったことがありませんから……」
力強く答えてしまって恥ずかしくなった。
「……そうか、ありがとう。初めて同士なんだな。……また言葉が戻ってるよ」
「えっと、ごめんなさい。ミケル様は素敵だから、一緒にいると緊張してしまって」
ぎゅっと手を握られて、手の甲にミケル様の唇が触れた。
「ありがとう。お世辞でも嬉しい」
「……本当にそう思うの。……格好いい」
なんだか恥ずかしくなって口の中でつぶやくように答えた。
私、今すぐシーツの間に隠れてしまいたい!
顔が熱いけど、暗くてミケル様に見られなくてよかった。
「モニカ、嫌だったら断って」
「……はい」
「……私たちは夫婦だと言われた。でも実感がない。その……少し夫婦の真似事をしてもいいか?」
夫婦の真似事……?
それは赤ちゃんを求める行為?
「……はい」
大丈夫、だって相手はミケル様だもの。
夫婦だったんだから経験はあるはず。
あるはずよね……?
覚悟を決めてぎゅっと目を閉じた。
「モニカ」
ミケル様が起き上がって近づいてくる気配がある。
どうしよう。まずはキス?
息はどうしたら?
緊張して呼吸が浅くなって、息が荒いかも。
やだ、恥ずかしい。
心臓も口から飛び出しそう。
「触れるよ」
「っ、はい」
優しく髪を撫でられて、それからミケル様の胸元に抱きしめられた。
彼の腕に頭を乗せられて、ずいぶん近くに感じる。
「モニカ……大丈夫?」
「……はい。ミケル様は……?」
「温かくて、今すごく幸せを感じている」
「……緊張、しないの?」
私をのぞき込んだミケル様が、首をかしげた。それから少し笑みの含んだ声で言う。
「しているよ。だけど、それ以上に幸せな気持ちでいっぱいだ」
言われてみれば、緊張しているけど嫌じゃないし、なんだかとても安心する。
私は大きく息を吐いて彼の胸に額を押し当てた。
「私も……こうしていると自然な気がして、ミケル様の腕の中はとても安らかな気持ちで……幸せってこういうことかも」
私の言葉にミケル様がきつく抱きしめてくる。
「夫婦だから……。私たちは本当に夫婦なんだな。とてもしっくりくるんだ」
「はい、私もそう思う」
「みんなは恋愛結婚だと言っていたが、政略結婚じゃないかと思っている。……だが、間違いなく夫婦なのだろう」
「はい……」
きっと私のほうがミケル様を好きで、せつない想いをしていたのかも。
今だってこんなに優しいんだもの。
このまま記憶なんて思い出さなくても幸せかもしれない。
「おやすみモニカ」
髪にキスされて、ゆっくり顔を上げた。
「おやすみ、ミケル様」
「ミケル。夫婦なんだからそう呼んで」
そう言って、お互いの唇が重なった。
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