ここは番に厳しい国だから

能登原あめ

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7 願い

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 両親からの手紙が届いたのは、辺境での暮らしも、三年目に入る頃だった。
 ずいぶん時間がかかったと思うけれど、私からの手紙は無事に届いていたらしい。

 まず書かれていたのは、私を案ずる言葉と会いに行けなくてすまないということ。
 両親からは自分達が元気であること、ローラ達が村に戻って事の経緯を説明に来たこと。

 ジョナスを大切にすると約束してくれたこと。
 そんな彼らの仲睦まじい様子。
 
 それからジムは王都に残って、そこで出会った子と再婚して、子供が生まれるらしいこと。
 ジョナスはジムにそっくりと言われているけど、髪の色と目の色は私と同じ胡桃色だから、私にも似てとても愛らしいのだと教えてくれた。

 それから、ローラが少し前に女の子を産んだこと。

 その子は小さく生まれて体が弱く、しばらく村にいたけど家族揃って有名な医者の住む港町へと引っ越した話。
 最後に私の幸せを祈ると綴られていた。
 とてもとても長い手紙だった。

 もしかしたら産まれてきた子が無事に育つか分からなくて、なかなか手紙が出せなかったのかもしれない。
 それか、実の子が産まれてジョナスとの関係を私が心配しないように見届けるまで手紙を書かなかったのかもしれない。

 私の性格を知っている母が、手紙で知らせてくるくらいだから、ジョナスは約束通り大事にされているのだと思う。
 
 それでも少し心配になる。
 ジョナスは本当に幸せなのかと。
 彼を辺境に連れてきてしまえば、法律も何も気づかれないのではないの?と。

 ジムは私より先に前を向いて再婚したということに、驚いたけれど幼馴染みとして意外と素直に喜べた。
 だけど子供も生まれるというし、今さらジョナスを引き取ることはない気がする。

 だって、二歳の子供なんて、ものすごく手がかかるようにみえるもの。
 辺境で産まれた子供達はほとんどが、そう。
 母親だって手こずっていて、子育てを終えた世代が手助けしている。

 ブレアさんとか。
 十八歳で結婚した彼女は、旦那さんに先立たれた後、ずっと厨房で働いているそう。
 悲しい時、身体を動かしていれば気が紛れると、私を半ば強引に誘ったのはそういう理由なのかもしれない。

 彼女の一人息子は外を見てみたいと、私が来る前に辺境を出てしまったらしいけど、旅先から手紙と一緒に絵を描いて送ってくると聞いた。

 そう言うブレアさんは誇らしそうでいて、ほんの少し寂しげでもあるのだけど、息子さんのことを思い浮かべているのか優しく目尻を下げる。

 彼女の両親は、親を亡くしたサディアス兄妹だけでなく、同じ立場の子供達を何人も引き取り、大きな家族として一緒に育てたらしい。
 ブレアさんにとって、サディアスは家族だから、その番の私もそうなんだって力強く笑った。

 彼女の育ちとその性質のおかげで、私は一歩前に踏み出せた。
 もちろん、ずっとサディアスが支えてくれたからでもあるけれど。

 私がここに来た詳しい経緯は、隊長とブレアさんのみが知っているらしく、他の人達は番が大事だから過保護なんだと思っているみたいで、私はそれに甘えている。

 さりげなく、または直接的に周りからそろそろ子どもは?なんて訊かれて曖昧に笑ってかわしていたのだけど、つい最近、出産後初めて生理が来た。

 朝目が覚めた後、違和感を感じてシーツを汚していたことに驚いた。
 思えば夜からお腹のあたりが重かった、なんて考えていて。

 だからいきなりサディアスに病気じゃないかと、シーツごと包んで宿舎の中の医務室に運ばれそうになって、私は恥ずかしい気持ちを隠して説明しないといけなかった。

 ほっとした彼が新しくベッドを整えてくれて、しばらく仕事を休むように言って私を部屋に閉じ込めた。
 その洗濯物も彼が何処かへ持っていってしまい、私は恥ずかしくてたまらない。

 しかも、そのせいでサディアスは奥手の私を我慢強く待って、ようやく初夜を迎えたのだと、そんな噂のせいで周りのみんながお祝いムードだったことに私はずっと気づかなくて。
 ただ体調を崩して休んだだけの私に、みんながとても優しくて感激していた。
 








 そんな中、私はサディアスに願い出た。

 息子を見に行ってもいいですか、と。

「……俺もついて行っていいなら」

 最初は内緒で出かけようと思った。
 有名な医者の住む港町は意外と近く、ここを朝早くに出れば暗くなる前に戻って来れるかもしれないと思ったから。

 だけどこれまで私に寄り添って、護ってくれたサディアスを裏切るような気持ちになって、それはできないと思った。

「本当に、いいの?」

 反対されるかと思ったのに。

「どうして……?どうしてそんなに優しいの?」
「……どうしてだと、思う?」

 そう返されて。
 番だから、彼が面倒見がいいから、もともとの性格。

 本当はわかっている。
 彼が私を愛してくれて、大事にしてくれているからじゃないかって。
 わかっているのに、答えられない。

「…………」
「アマヤを幸せにしたいから」

 彼はそう言ってじっと私を見つめる。
 私はこんなに自分勝手で我がままで、申し訳ない気持ちになる。

 日々生活する中で、番だからというだけじゃなくて、彼のことを信頼しているし、愛しく思っている。

 今のままではいけない、強くそう思った。

「明後日の休みに、行くか?」
「はい」

 何も答えられない私に彼はそう言って、ベッドに入った。
 彼に抱きしめられていると、ものすごく安心する。
 
 もしもジョナスが不幸な境遇だったら、サディアスとどうしたらいいか相談する。

 ジョナスが幸せそうにしていたら。
 今後は遠くから幸せを祈るだけにする。

 ブレアさんが、息子を想うように。
 母の手紙の文末に、私の幸せを祈ってあったように。
 
 私はサディアスと向き合って、彼と幸せになりたい。
 









 * * * * *


 お読みいただきありがとうございます。
 手直しに時間がかかってます。
 二人の幸せにうまく繋がるよう、がんばりまーす。
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