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4 スペンサー
しおりを挟む普通の私には普通の人がいい。
そう、その辺歩いてそうな普通顔のスペンサー。
役所で働く彼のはにかんだ笑顔がよかった。
きらきらしたイケメンに囲まれてるとさ、彼みたいな安心感って絶対必要と思う。
「本当に私でいいんですか?」
「はい。あなたがいいです。これからよろしくお願いします」
握手してみたら、ちょっと骨っぽい手も、いいな。
彼とはゆっくり恋がしてみたい。
普通のことがしたい。
さっきから失礼は承知。
そもそも私だって顔のレベルはコレだし、本来選ぶ側じゃないからね。
三人もイケメンの旦那になる人がいるんだから、ちょっと素朴なあっさり顔のスペンサー、ぐっとくる。
だって、いい人って性格が滲み出てるんだよ!
もう、これで恐ろしい裏の顔があったら、私の見る目のなさに落ち込む……。
「リオナさん、私たち、同い年なんですね。共通点があって嬉しいです」
「うん、そうだね。リオナでいいから、スペンサーも普通に話して?」
「はい、ありがとう……リオナ」
うん。いい。
笑うと目がなくなってかわいい。
親近感。
一緒にいると落ち着くー。
焦げ茶の髪も目も、落ち着くー。
日本茶飲みたい、縁側で!
どっちもないけど。
立ち合い中のほか3人の旦那さんたち(予定)はこれといった反応を見せないから、うん、きっとうまくやっていけるかな。
昨日は何か言いたそうにだったもんね……もう決めたことだからいいけど。
もう1人も決めて、明日あらためて来てもらうことにした。
彼は忙しそうだったから。
とりあえず、これで5人選んだから残りの方たち……7人にはごめんなさいした。
本当に残念そうな様子を見せるから、申し訳ない……日本にいたらあり得ない状況で、なんか私勘違いしかけたよ、怖い。
さすがにね、海外旅行でチヤホヤされて戻ってきた後、調子に乗っていい女気取りしちゃったのを覚えているからね、本当恥ずかしくて思い出したくない、けど忘れられないんだよね、そういうこと。
「スペンサーも今日からここに住めるの?」
「はい……一度最低限の荷物を取りに帰りますが。……よければ一緒に行きますか?」
私がちらりとサミュエルを見ると、馬車を使うならいいとのことだった。
一応彼が女神様推薦の一番年長者で、この家の主だからね。
この世界の決まりがわからないうちは勝手なことできないと思う。
異世界で奴隷堕ちとか怖い。
絶対ないとは言えないしね。
まぁ、ともかく。
はじめての外出だから、わくわくするな。
伯爵家の紋章の入った馬車に2人で乗り込んだ。
スペンサーが御者に行き先を告げ、ゆっくりと動き出す。
「…………」
「…………緊張、しますね」
「……うん……スペンサー、敬語に戻ってる」
向かい合わせに座ったけれど、なにを話したらいいかわからない。
お互いほぼ知らない同士だし。
あ~、この緊張感どうしたらいいの?
「あの……隣に座っていいか?」
彼の言葉に一瞬ためらったけど、頷いた。
「…………うん」
「隣の方が緊張しないで話せると思って」
ちょっとエロいことされるんじゃないかと思って警戒しちゃったよ!
これまでの流れ的に!
「それと、リオナの手を握れる」
はにかんだ笑みと、ぎゅっと手を包まれてきゅんとした。
「スペンサーの手、好きだな……安心する」
「……よかった。すごい美形の旦那さんたちだから緊張しちゃって」
「うん、うん、わかるよ! 私もいまだに慣れないからね。うん……気が合いそうでよかったな。……あのね、スペンサーの顔、好きよ?」
「……ありがとう」
ガタゴトと揺れる馬車の中で時々触れ合う肩が、この距離感が、いい!
なんていうか、ドッキドキする。
いいね、いいね、こういうの!
そう、こういうのを求めてた!
馬車で揺られること20分。
スペンサーが一人暮らしをしている家はおばあちゃんが遺してくれた家らしい。
「すみませんが、荷物をまとめるのに時間がかかるので2、3時間後に迎えにきてもらえませんか?」
スペンサーが御者にそう声をかけて一緒に部屋の中に入った。
すっきりと片づいた部屋は、彼の性格を表してるんじゃないかな。
「見ての通り、荷物はそれほどないんだ。……だけど、2人きりになりたくて」
どき。
デジャビュ。
この流れって。
「お茶がいい? コーヒー? 座って待っててくれる?」
「……何か手伝おうか?」
「すぐ終わるから、待ってて。そのほうがたくさんおしゃべりできるから」
きゅん。
彼、エロに走らないところがいい!
「うん、待ってるね♡」
語尾にハートがついちゃうのもしかたない。
許して。
奥の部屋に入って、荷造りして戻った時間は15分程度。
私が手荷物が二つだけなのをじっと見たからか言い訳するように笑って言った。
「この家はこのまま残しておくつもりだし、仕事が忙しい時期はここから通うことになると思うんだ。だから、着替えの類と大事なものだけ」
役所勤めときいたけど、ブラックな部署じゃなきゃいいな。
私の座っているソファの隣に腰を下ろす。
子ども1人分空けて。
この絶妙な距離感もいいなぁ。
「迎えが来るまで、リオナのことを教えて。俺に訊きたいことある?」
「……普段、俺なの?」
さっきまで『私』だったのに『俺』とか。
イイ!
「うん、やっぱり自分の家だと素に戻るよ」
素でこれなの?
「スペンサーを選んでよかった……」
「……リオナ……嬉しい。……触れてもいい?」
私の頬に手が伸びる。
ゆっくりと顔が近づいてお互いの唇が触れた。
「リオナ……かわいい」
きゅん。
どこの少女漫画?
だめだめ、ときめいちゃったけど、飽きられないように攻めないと!
がんばれ、私!
「スペンサー……」
彼の両頬をがっちりと両手で挟んで唇を重ねた。
そのまま、ぺろっと舌を忍ばせる。
驚いた彼が私の腰をぎゅっとつかんだ。
「待って……!」
そのまま首に抱きついて、彼の口内を攻める。
「んっ……リオナっ」
スペンサーの身体が熱い。
えーと、このあとどうしよう?
私がためらったのを感じたのか、膝の上に乗せられて力強く抱きしめられた。
「あんまり、煽らないで?」
目元を赤らめたスペンサー、ちょっと色っぽくてそそられる。
「キス、したい」
私はそう言ってスペンサーの唇を啄んだ。
「しかたない、人だ」
上から覆い被されるように深く唇が合わさって舌が絡めとられる。
舌裏や上顎をつーっと撫でられて腰が震えた。
ん?
いつの間にか私が翻弄されていて、スペンサーにしがみついていた。
身体が熱くて、満たされたい。
「んぅ、……スペンサぁ……」
「あぁ……残念。迎えが来たね」
スペンサーが一度きつく抱きしめてから、ふらつく私の腰を抱いて玄関に向かった。
あれ?
私が焦らされてる?
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