愛されることはないと思っていました

能登原あめ

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【2】

17 クリスマス④

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 とうとうクリスマスの前日です。
 包みも残り二つ。
 今朝は私の好きな茶葉が入っていました。
 ほっとします。
 
「ブレンダン様、朝食の時にいただきましょう」

 サトウカエデのシロップを加えてメイプルティーにするとおいしくなる茶葉なのですが、海を渡り他国から仕入れているため、機会を逃すとなかなか手に入れることができませんでした。

 けれどブレンダン様が商人と話した結果、優先的に領地に持ってきてくださることになったのです。それでも貴重な茶葉なので、包みに入っていたのは嬉しく感じました。

 明日はたくさんご馳走をいただくので、胃を休めることもできます。
 ……やっぱりすごく考えて、選んで準備してくださったみたいですね。

「ブレンダン様のおかげで、クリスマスまでとても楽しく待つことができています。こんなに楽しい気分で毎朝目覚めることができて本当に嬉しい。ありがとうございます」

 私は心からそう思いました。
 ブレンダン様と一緒にいると良い思い出がどんどん増えていくのです。
 ブレンダン様は穏やかに笑いました。

「来年も楽しみにしておいてほしい」
「まぁ……気が早いですわ。でも、今から楽しみです」

 だってこんなに幸せな気持ちになるのですもの。
 クリスマスのプレゼントをもらってしまったみたいに嬉しいのです。

 そう思っていたのに、当日の朝、小さな包みを開けると入っていたのはお揃いの指輪でした。

「ブレンダン様……」

 思いがけず高価なものが入っていて、少し困ってしまいます。

「クリスマスのプレゼントは別にあるよ。それは一緒に身につけるものが欲しいと思ったんだ」

 ツリーの下にプレゼントが積み上がっているので、ブレンダン様は用意しすぎだと思うのですが。

「私、たくさんのものをもらい過ぎているように思います。……私ももっとたくさん用意すればよかったですね」
「これは、クリスマスが始まるまでを二人で楽しむものだ。それに私の楽しみでもあった。だから私につき合ってくれてありがとう。そのお礼だと思えばいい」

 そう言って、私の手を取りました。

「お揃いはいやだったか……?」
「いえ、まさか。そんなことありません。……嬉しいです」

 それならよかった、そう言って薬指にはめてくださいます。
 私もブレンダン様の手を取って同じように。

「お揃い、ですね」

 お互いの、指輪をしているほうの手を重ねました。
 結婚指輪は飾り気のないものでしたので、大胆に模様の彫られた指輪と重ねると華やかです。
 羽根のようにも見えますし、サトウカエデの葉のようにも見えます。
 
「私が彫った。ようやく満足のいくものができたんだ」
「ブレンダン様が……? とても……温かみがあって素敵です」
「少しゆがんでいるのは認めるよ」
「そんなことありません! お店に並んでいても不思議じゃありませんわ」

 最初から結婚指輪と合わせたように馴染んでみえました。
 ブレンダン様の気持ちが嬉しく、しっかり結ばれたような気がしてきます。

「作るのに時間がかかってしまった。それに、玩具のようで、クリスマスプレゼントにするには拙いものだ」

 ブレンダン様が少し照れたように笑います。

「私、とても気に入りました。もう二度と外しません」

 指輪を見つめながらそう宣言すると、ブレンダン様が焦ったような顔をします。

「いや、そう言ってもらえて嬉しいが、パーティなどには贈ったものを身につけてほしい」
「……はい、その時々に応じて代えますわ。本当にありがとうございます」

 ブレンダン様がほっとした顔をして私を抱きしめました。
 結婚して一年以上経っていますが、今日も特別な日だと感じたのです。

 





 昨日から義父母が屋敷に泊まっていて、いつになく賑やかです。
 一緒に朝食を食べた後、ツリー前に集まりました。これから順番にプレゼントを開けていきます。
 
 私が生まれた家ではクリスマスの夜に晩餐を食べるくらいで他にはとくに何かした記憶がありません。
 母が生きていた頃はプレゼントもあったかもしれませんが忘れてしまいました。

 この地ではプレゼントを交換し合うだけでなく、幸福もいただいているみたいに感じます。
 去年よりはちゃんと選べたと思えましたし、素敵なものをたくさんいただきました。
 嬉しい、ありがとう、その言葉にますます距離が近づいたように感じます。
 
 ブレンダン様はここぞとばかりに私にプレゼントをくださいました。
 ブローチにネックレス、ピアス、ブレスレット、指輪。それらを入れるための鍵のついた精巧な作りの宝石箱。

「つい、選ぶのが楽しくなってしまったんだ。遠慮せず使って欲しい」
「たくさん素敵な品をありがとうございます」

 少し困ってしまいました。
 心を込めてセーターを編み、残された時間でマフラーを追加しましたが、見合っていない気がするのです。

「アリソンは器用だね。短時間でこれほどのものを仕上げたのかい? さっそく身につけて出かけたい」

 ブレンダン様が笑みを深めて私の手を取り、立ち上がります。
 お義父様もお義母様も笑って、散歩を勧めてきました。
 
「アリソン、少し歩こう」

 一旦戻って着替えることにしました。
 ブレンダン様はさっそくセーターを着てくださり、その上にマフラーを巻いています。
 マントはなくても大丈夫だ、見せびらかしたいのだと笑いました。

 厚手のマントを羽織った私に、ブレンダン様が柔らかな毛で織られたショールをかけました。これも見たことのない新しいものです。

「アリソンに似合うと思った」
「ブレンダン様、私……何年分ものプレゼントをもらってしまったみたいです」
「いや。これは過去の分だよ。それに、このセーターは世界に一枚しかない、お金では買えないものだ。本当にありがとう」

 頑張って作った甲斐があったようです。
 来年はさらに喜んでもらえるものを準備したいと思いました。
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