17 / 52
【2】
17 クリスマス④
しおりを挟むとうとうクリスマスの前日です。
包みも残り二つ。
今朝は私の好きな茶葉が入っていました。
ほっとします。
「ブレンダン様、朝食の時にいただきましょう」
サトウカエデのシロップを加えてメイプルティーにするとおいしくなる茶葉なのですが、海を渡り他国から仕入れているため、機会を逃すとなかなか手に入れることができませんでした。
けれどブレンダン様が商人と話した結果、優先的に領地に持ってきてくださることになったのです。それでも貴重な茶葉なので、包みに入っていたのは嬉しく感じました。
明日はたくさんご馳走をいただくので、胃を休めることもできます。
……やっぱりすごく考えて、選んで準備してくださったみたいですね。
「ブレンダン様のおかげで、クリスマスまでとても楽しく待つことができています。こんなに楽しい気分で毎朝目覚めることができて本当に嬉しい。ありがとうございます」
私は心からそう思いました。
ブレンダン様と一緒にいると良い思い出がどんどん増えていくのです。
ブレンダン様は穏やかに笑いました。
「来年も楽しみにしておいてほしい」
「まぁ……気が早いですわ。でも、今から楽しみです」
だってこんなに幸せな気持ちになるのですもの。
クリスマスのプレゼントをもらってしまったみたいに嬉しいのです。
そう思っていたのに、当日の朝、小さな包みを開けると入っていたのはお揃いの指輪でした。
「ブレンダン様……」
思いがけず高価なものが入っていて、少し困ってしまいます。
「クリスマスのプレゼントは別にあるよ。それは一緒に身につけるものが欲しいと思ったんだ」
ツリーの下にプレゼントが積み上がっているので、ブレンダン様は用意しすぎだと思うのですが。
「私、たくさんのものをもらい過ぎているように思います。……私ももっとたくさん用意すればよかったですね」
「これは、クリスマスが始まるまでを二人で楽しむものだ。それに私の楽しみでもあった。だから私につき合ってくれてありがとう。そのお礼だと思えばいい」
そう言って、私の手を取りました。
「お揃いはいやだったか……?」
「いえ、まさか。そんなことありません。……嬉しいです」
それならよかった、そう言って薬指にはめてくださいます。
私もブレンダン様の手を取って同じように。
「お揃い、ですね」
お互いの、指輪をしているほうの手を重ねました。
結婚指輪は飾り気のないものでしたので、大胆に模様の彫られた指輪と重ねると華やかです。
羽根のようにも見えますし、サトウカエデの葉のようにも見えます。
「私が彫った。ようやく満足のいくものができたんだ」
「ブレンダン様が……? とても……温かみがあって素敵です」
「少し歪んでいるのは認めるよ」
「そんなことありません! お店に並んでいても不思議じゃありませんわ」
最初から結婚指輪と合わせたように馴染んでみえました。
ブレンダン様の気持ちが嬉しく、しっかり結ばれたような気がしてきます。
「作るのに時間がかかってしまった。それに、玩具のようで、クリスマスプレゼントにするには拙いものだ」
ブレンダン様が少し照れたように笑います。
「私、とても気に入りました。もう二度と外しません」
指輪を見つめながらそう宣言すると、ブレンダン様が焦ったような顔をします。
「いや、そう言ってもらえて嬉しいが、パーティなどには贈ったものを身につけてほしい」
「……はい、その時々に応じて代えますわ。本当にありがとうございます」
ブレンダン様がほっとした顔をして私を抱きしめました。
結婚して一年以上経っていますが、今日も特別な日だと感じたのです。
昨日から義父母が屋敷に泊まっていて、いつになく賑やかです。
一緒に朝食を食べた後、ツリー前に集まりました。これから順番にプレゼントを開けていきます。
私が生まれた家ではクリスマスの夜に晩餐を食べるくらいで他にはとくに何かした記憶がありません。
母が生きていた頃はプレゼントもあったかもしれませんが忘れてしまいました。
この地ではプレゼントを交換し合うだけでなく、幸福もいただいているみたいに感じます。
去年よりはちゃんと選べたと思えましたし、素敵なものをたくさんいただきました。
嬉しい、ありがとう、その言葉にますます距離が近づいたように感じます。
ブレンダン様はここぞとばかりに私にプレゼントをくださいました。
ブローチにネックレス、ピアス、ブレスレット、指輪。それらを入れるための鍵のついた精巧な作りの宝石箱。
「つい、選ぶのが楽しくなってしまったんだ。遠慮せず使って欲しい」
「たくさん素敵な品をありがとうございます」
少し困ってしまいました。
心を込めてセーターを編み、残された時間でマフラーを追加しましたが、見合っていない気がするのです。
「アリソンは器用だね。短時間でこれほどのものを仕上げたのかい? さっそく身につけて出かけたい」
ブレンダン様が笑みを深めて私の手を取り、立ち上がります。
お義父様もお義母様も笑って、散歩を勧めてきました。
「アリソン、少し歩こう」
一旦戻って着替えることにしました。
ブレンダン様はさっそくセーターを着てくださり、その上にマフラーを巻いています。
マントはなくても大丈夫だ、見せびらかしたいのだと笑いました。
厚手のマントを羽織った私に、ブレンダン様が柔らかな毛で織られたショールをかけました。これも見たことのない新しいものです。
「アリソンに似合うと思った」
「ブレンダン様、私……何年分ものプレゼントをもらってしまったみたいです」
「いや。これは過去の分だよ。それに、このセーターは世界に一枚しかない、お金では買えないものだ。本当にありがとう」
頑張って作った甲斐があったようです。
来年はさらに喜んでもらえるものを準備したいと思いました。
64
あなたにおすすめの小説
断る――――前にもそう言ったはずだ
鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」
結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。
周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。
けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。
他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。
(わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)
そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。
ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。
そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?
復讐のための五つの方法
炭田おと
恋愛
皇后として皇帝カエキリウスのもとに嫁いだイネスは、カエキリウスに愛人ルジェナがいることを知った。皇宮ではルジェナが権威を誇示していて、イネスは肩身が狭い思いをすることになる。
それでも耐えていたイネスだったが、父親に反逆の罪を着せられ、家族も、彼女自身も、処断されることが決まった。
グレゴリウス卿の手を借りて、一人生き残ったイネスは復讐を誓う。
72話で完結です。
忘れられた幼な妻は泣くことを止めました
帆々
恋愛
アリスは十五歳。王国で高家と呼ばれるう高貴な家の姫だった。しかし、家は貧しく日々の暮らしにも困窮していた。
そんな時、アリスの父に非常に有利な融資をする人物が現れた。その代理人のフーは巧みに父を騙して、莫大な借金を負わせてしまう。
もちろん返済する目処もない。
「アリス姫と我が主人との婚姻で借財を帳消しにしましょう」
フーの言葉に父は頷いた。アリスもそれを責められなかった。家を守るのは父の責務だと信じたから。
嫁いだドリトルン家は悪徳金貸しとして有名で、アリスは邸の厳しいルールに従うことになる。フーは彼女を監視し自由を許さない。そんな中、夫の愛人が邸に迎え入れることを知る。彼女は庭の隅の離れ住まいを強いられているのに。アリスは嘆き悲しむが、フーに強く諌められてうなだれて受け入れた。
「ご実家への援助はご心配なく。ここでの悪くないお暮らしも保証しましょう」
そういう経緯を仲良しのはとこに打ち明けた。晩餐に招かれ、久しぶりに心の落ち着く時間を過ごした。その席にははとこ夫妻の友人のロエルもいて、彼女に彼の掘った珍しい鉱石を見せてくれた。しかし迎えに現れたフーが、和やかな夜をぶち壊してしまう。彼女を庇うはとこを咎め、フーの無礼を責めたロエルにまで痛烈な侮蔑を吐き捨てた。
厳しい婚家のルールに縛られ、アリスは外出もままならない。
それから五年の月日が流れ、ひょんなことからロエルに再会することになった。金髪の端正な紳士の彼は、彼女に問いかけた。
「お幸せですか?」
アリスはそれに答えられずにそのまま別れた。しかし、その言葉が彼の優しかった印象と共に尾を引いて、彼女の中に残っていく_______。
世間知らずの高貴な姫とやや強引な公爵家の子息のじれじれなラブストーリーです。
古風な恋愛物語をお好きな方にお読みいただけますと幸いです。
ハッピーエンドを心がけております。読後感のいい物語を努めます。
※小説家になろう様にも投稿させていただいております。
身代わり婚~暴君と呼ばれる辺境伯に拒絶された仮初の花嫁
結城芙由奈@コミカライズ3巻7/30発売
恋愛
【決してご迷惑はお掛けしません。どうか私をここに置いて頂けませんか?】
妾腹の娘として厄介者扱いを受けていたアリアドネは姉の身代わりとして暴君として名高い辺境伯に嫁がされる。結婚すれば幸せになれるかもしれないと淡い期待を抱いていたのも束の間。望まぬ花嫁を押し付けられたとして夫となるべく辺境伯に初対面で冷たい言葉を投げつけらた。さらに城から追い出されそうになるものの、ある人物に救われて下働きとして置いてもらえる事になるのだった―。
愛された側妃と、愛されなかった正妃
編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。
夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。
連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。
正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。
※カクヨムさんにも掲載中
※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります
※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。
「君以外を愛する気は無い」と婚約者様が溺愛し始めたので、異世界から聖女が来ても大丈夫なようです。
海空里和
恋愛
婚約者のアシュリー第二王子にべた惚れなステラは、彼のために努力を重ね、剣も魔法もトップクラス。彼にも隠すことなく、重い恋心をぶつけてきた。
アシュリーも、そんなステラの愛を静かに受け止めていた。
しかし、この国は20年に一度聖女を召喚し、皇太子と結婚をする。アシュリーは、この国の皇太子。
「たとえ聖女様にだって、アシュリー様は渡さない!」
聖女と勝負してでも彼を渡さないと思う一方、ステラはアシュリーに切り捨てられる覚悟をしていた。そんなステラに、彼が告げたのは意外な言葉で………。
※本編は全7話で完結します。
※こんなお話が書いてみたくて、勢いで書き上げたので、設定が緩めです。
皇太子夫妻の歪んだ結婚
夕鈴
恋愛
皇太子妃リーンは夫の秘密に気付いてしまった。
その秘密はリーンにとって許せないものだった。結婚1日目にして離縁を決意したリーンの夫婦生活の始まりだった。
本編完結してます。
番外編を更新中です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる