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しおりを挟む同じ会社の同期、林聡は女癖が悪い。
入社した時、背も高いし俳優の誰かに似ているって言われるくらい顔がよくて爽やかで。一番人気があって、誰とも仲良くなっていた。
最初は同期の女の子とつき合い始めて、3ヶ月後には2つ年上の先輩に乗り換えてた。
それだけでも社内の噂になったのに大学時代から続いてるセフレが家にやってきたとか、別の先輩とも寝てたとか。
『二股? 違う、違う。何回かデートしたからってつき合うことになった訳じゃないし、そんな時に別の女の子から誘われたら断れないよ。だってそれぞれみんな可愛いから』
飲み会の席でそんなことを言ってた記憶がある。
つき合っていたはずの同期の女の子はその後、女同士のいざこざもあって一年経たずに辞めちゃったし、課長が注意してからは表面上大人しくなった。
でも新入社員が入ってくると、彼を好きになる女の子が現れるのが毎年恒例となっている。
新人にやめたほうがいいって周りが伝えても、障害があった方が燃えるタイプは止まらない。
彼が本気で好きになったら、よそ見はしないはず、って。
それくらい熱くなれるってうらやましい気もするけど、仕事中は気持ちを切り替えてほしいと思う。
頼むから仕事はやってくれ。
恋愛小説のヒロインになられるのは困る。
辞めちゃう子もいたし、別部署に異動願いを出す子もいた。
会社に残った子は林の悪口をめちゃくちゃ言っている。
林も女の子から一晩だけ、って言われたからってそのまま受けとらなければいいのにと思う。
『いつも可愛いと言ってくれる。でも絶対ゴムは使うし、すぐシャワーを浴びに行くし、私が特別って思わせてくれないし、本当ガッカリした。絶対可愛い子が生まれたのに』
送別会でそんなことぶちまける子もいて、乾いた笑いしかでなくて何も言えなかった。
林は人懐っこく見えるけど、一定以上は踏み込ませないし、結婚相手には一番向いてないと思う。
彼と結婚できたところで、女の子に誘われたら応える男に違いない。
結婚を意識する年頃になったら絶対近づいたらダメ。
「林さんの同期の女性って、なみさんだけなんですね」
「そうだね」
時々上がるこの話題、慣れたけど面倒。
林に関係しなくても、転職、結婚退職で女子はみんないなくなった。
林となみが同僚以上の関係になったことは一度もなく、探られても何も出てこない。
林の好きなもの、興味あることを教えてほしいと言われても答えられないレベルの関係。
「なみさんは、大学の時から続いてる彼がいるんですよね」
「えー、じゃあ、結婚の話も出る頃ですか⁉︎」
「うーん、まだかな。仕事が忙しいみたいだし。……いつかは、って話しているけどね」
だから林と関わることなんてないと思っていた。
「なみちゃん、彼氏と別れてたんだ。もっと早く教えてくれたらよかったのに」
「……そんなこと言った?」
「さっき教えてくれたよ。7年もつき合って1年前に別れていたみたいって」
お酒を飲み過ぎたつもりはないけど、酔いが回るのが早かったかも。
誰にも言った記憶はないけど、元カレとはこの一年距離を置いたまま――。
「いつ……?」
「電車乗った時。信じられない、結婚してるとかって。近くに誰も会社のやつらはいなかったから俺しか聞いてない。酔ってなんでも答えてくれるなみちゃん、可愛いね」
飲み会の帰り道。
家が隣駅だけど同じ駅からでも帰れる場所に林が住んでいると知って、一緒になみの最寄駅で降りて歩いている。
林は普段バイク通勤だから電車に乗るのも珍しい。
彼は半年前、教えていない家の前で女の子に待ち伏せされるようになったから引っ越したそう。
この頃は社内で揉めることはなくなったようだけど、相変わらず女の子が絶えない生活を送っているみたい。
「別れたこと、秘密にして」
職場の女の子たちにアラサーで結婚目前でフラれたって噂されたり、同情されてもまだうまくかわす自信がない。
林を狙う女にカウントされるのもキツい。
社内で唯一彼に名前呼びをされているのは同じ名字だからというだけ。
「2人だけの秘密ってこと? いいね。言わない。代わりにさぁ、セックスしようよ」
「……口止め料がセックス?」
はぁ、と大きくため息をつく。
酔っている。けど何も考えられないほど酔っているわけじゃない。
「女の子に困っていないでしょ。林ってセックス依存症なの? やってないとダメとか?」
「違うって。口止め料でも依存症でもない。ただ、なみちゃんとしてみたいだけ。長年元カレしか知らないんだろ? そんな女の子と寝たことないから興味ある。俺の周りって軽い子多いから」
「……そういうの、無理」
嫌悪感で眉間に皺がよる。
林となんてありえない。それに――。
「私と寝てもつまんないよ」
正直自信もない。
元カレと体を重ねても何か心がすり減っていくようで、気持ちがついていかなかった。
元カレの前につき合った人が初めての相手だけど、長く続かなかったから比べるほど知らないしよくわからない。
「ふーん……? まぁ、いいや。やっぱやめとく」
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