ヒロインの要請で悪役令嬢を演じます?

能登原あめ

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「いや、これは違うんだっ!」

 おかしい。
 ワイアットが切羽詰まった声を上げる。
 グレイソンは笑顔だけど目が笑っていない。

 リリアンはどこ?
 これじゃ私がピンチだよ?

「……フレイア様から訊くからいい」
「ワ イ ア ッ ト 様……ど う し て!」

 反対方向からでかい声が響いた。
 思わず一斉に振り向いたけど、リリアン遅いよ……。

「…………」
「私……、ぐずっ……失礼しますっ」

 グレイソンがいないものとしてイベント通りに進めるつもりみたい。
 うん、かなり無理矢理だけど。

「ワイアット、行かなくていいの?」

 そわそわしてるから、思わず声をかけた。

「すみません、フレイア様。……グレイソン、何も心配することはないから! お前は愛されてる! じゃあ、また!」

 そう言ってリリアンを追いかけた。
 なにを言ってくれたかな、彼は。

「……フレイア様、お話を伺っても?」

 いつの間にか私の真後ろに立ったグレイソンにがっちり抱きしめられた。
 耳元で穏やかにささやかれたけど、振り向くのがなんとなく怖い。
 リリアンと考えた言い訳はできることなら使いたくなかったのに。

「……フレイア様、浮気、じゃないですよね?」
「……それは絶対にありません」

 覚悟を決めて振り返る。
 思ったより近くに顔があって驚いた。

「あの……、ワイアットにグレイソンのことを教えてもらおうと……」
「それなら、直接訊いてください。何でも答えますから」
「……驚かせたかったから」
「…………そんな、可愛いこと言われると、ここがただの東屋だと言うことを忘れてしまいます」

 温度差。
 温度差がつらい!
 
「あなたに少し触れさせてください……」

 グレイソンはそう言って、私を抱き上げ東屋のすみに置かれた長椅子へと向かう。
 
「グレイソン、ここじゃ、誰か来たら恥ずかしい」
「……ここじゃなかったら、いいんですね? 何をしても」

 何をしても?
 そんなわけない!

「グレイソンっ」
「口づけだけ、ですから」

 長椅子に腰かけたグレイソンの膝の上で、唇が重なる。

「んっ……、待っ……、あ、ぅ……」

 遠慮がない。
 始めから舌が差し入れられて、口内を隅から隅まで探索する。 
 前回も思ったけど、キスがしつこい。

「可愛い……ですね」

 目も潤んでくるし、身体も熱くなる。
 この身体は男を知らないけれど、前世の私はこの後の快楽を知っているから、なんとももどかしくなる。

「グレイソン、もぅ、だめ……」

 終わりにしないと。

「感じすぎてだめですか? もうちょっとだけ、堪能させて……」
 
 いやちがう。
 こんなところ誰にも見られたくないだけなのに!

「……あぁ、泣かないで、ください。……無理矢理奪ってしまいそうです……、いえ、耐えますが」

 グレイソンに力一杯抱きしめられて、お尻の下に硬いものが当たる。
 これはまずい。
 涙が引っ込んだ。

「結婚したら、私のすべてはあなたのものだから……もう少し待って?」
「…………」

 待って欲しい。
 こちらの心の準備が必要だから。
 待てるよね?
 
「…………わかりました。私のものになってくれるんですね? それなら急いで進めませんから、安心してください」

 ん?
 
「初めては結婚式の夜がいいと思うの」

 確約がほしい。
 これじゃあ、いつ寄り切られてもおかしくない。

「……意外と、古風なんですね。……では、フレイア様から許可が出るまで待ちます」
「……ありがとう…………」

 危なかった。
 私からオッケー出さなければいいなら簡単だと、そう思った。
 その時のグレイソンの顔を見ていたら、そんなふうに思わなかっただろうけど。









「フレイア様、お約束の品です」
「……うまくいったんだ? よかった……どうなるかと思ったよ」

 私のテラスで二人、おまけの茶色の小瓶と一緒に六枚の下着を受け取った。

「さらに改良したコーラの素です……あの日のワイアット様もエロかっこよかったです!」
「……ヨカッタネ」

 私はグレイソンをなだめるのにものすごく大変だったけど。

「……もしかして、あのあと大変でした? グレイソン様ってヤン……いえ、焼きもちやきっぽいですもんねー、愛されすぎてたいへ、たいそう羨ましい限りです!」
「……本当にそう思ってる? そのゲームにも出てきたということ?」
「……登場人物ではありました。でも私は生きてる頃からワイアット様一筋ですし、フレイア様のお相手に手を出すようなビッチではありません~!」

 ビッチなんて言葉、ひさしぶりに聞いた。
 
「……私たち政略結婚だけど、グレイソンは意外と私に好意的だし、重たい性質みたいなのよね」

 リリアンの気安い雰囲気に思わずぼやいてしまったら、彼女が同意するように頷いた。

「あ~、グレイソン様は、よそ見しないで全部受け止めてあげれば大丈夫ですよ! たっぷり愛されて幸せになりますって!」
「……そうなの、かな? よそ見するつもりはないけど……」

 同じだけ愛を返せない気がする。
 そう不安を漏らすと、リリアンが首を傾げる。

「今、なんて呼んでます? グレイソン、ですか。……あの、緊急事態だと思ったら、グレイと呼んだら乗り切れると思います」

 愛称で呼ぶってこと?
 そんなことで?

「ここぞという時にしてくださいね」

 リリアンがにっこりと笑って、切り札ですからと言った。
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