ヒロインの要請で悪役令嬢を演じます?

能登原あめ

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「コーラの素には何が入っているの?」
「……本当はコーラナッツという実から作るんですけど、前世でもその実は使わずいろんなスパイスを調合して作っていたので、こっちで手に入るものでここまで味を近づけました」

 リリアンは前世で小さな飲料メーカーの商品開発をしていたそうで、生まれ変わっても役に立つ記憶と能力でうらやましい。
 今後生かせるとしたら私は子育てくらいかな、と思う。
 ……思い出したらちょっと悲しくなった。

 その気持ちを頭から追い出すように、リリアンにコーラパーティの後の話をした。

「あの時、かなり飲んだでしょ? そこへグレイソンがやってきて、変わった匂いがするから媚薬とか何か入ってるんじゃないかと怪しまれた」

「…………あー、あのイベ……あの。えっと、媚薬とかの成分入れてないデス。カフェインさえ入ってないはずなんですよ。そんなの入れるの……いえ、なんでもないでっす! んー、……でも、大丈夫かな、困るかな…………じゃあ、教えちゃいますね!」

 リリアンが一人モゴモゴと呟いた後で私を見つめた。

「……あの、……えっと、……コ、コーラの素は、大量の砂糖とシナモンとバニラがメインなんですよ! 怪しくないデショ?」
「…………本当にそれが言いたかったの?」

 なんだか腑に落ちない。
 もっと違うことが言いたかったんじゃないかな、と。

「細かいスパイスは内緒です! 人生にはスパイスが大事ですよね!……あー、ごめんなさいっ。そろそろ戻らないと! 緊急事態の時は愛称呼びですよっ! では健闘を祈ります!」
「え? なぜ?」

 健闘を祈られるの?









 もらった下着の中から今日の気分でペールピンクの絹のパンツを手に取った。
 共布で作られた大きめのリボンで色味はシンプルだけど、可愛い。
 お風呂に入ったら寝間着の下にこれを身につけてコーラを飲むつもり。
 ささいなことだけど、考えただけで気分が上がる。

 スパークリングワインと割ろう。
 小瓶だから二杯くらい楽しめるかな。

 バスタブの中で、スパークリングワインをグラスに注いでもらって楽しんだ。
 侍女は慣れたもので何も言わない。
 風呂から出て髪を乾かしてもらってから下がらせた。

「今夜はもういいわ」
「かしこまりました。おやすみなさいませ」

 最低限しか話さない侍女だけど、口も固いから、頼りになる。
 二日酔いで寝ていても、バレたことはない……大酒飲みでも酒癖が悪いわけではないよ、念のため。
 
 前世では子育てに夢中でそれほど飲まなかった。
 その反動かもしれないけれど、今はお酒が好き。
 ビールも用意してくれるくらいだから、酒飲み王女ということはここで働いている人たちにバレているだろうけど。
 
 コーラの素を手にソファの前に座った時、扉が叩かれた。

「どうぞ」

 侍女が気を利かせて追加のワインを持ってきてくれたのかもしれない。
 下がっていいと言っても、すぐに戻ってきて厨房からつまめるものをもってきてくれることがよくあったから。

「フレイア様」

 低い声で呼びかけられて、ゆっくり振り返る。

「グレイソン……どう、して?」
「今、侍女があなたのところにこれを運ぶと言うのでかわりました」

 ワインの追加と、チョコレートを手にしている。

「……ご一緒しても?」

 返事をする前に同じソファの隣に座った。
 婚姻前にこんなふうに過ごすのは本当はいけないのだと思うけど、誰にも見咎められなかったのかな。
 侍女はどうして止めなかったんだろう?

「一緒に食べたくてチョコレートを買ってきたんです」

 そういえば、ワイアットからグレイソンが甘党だと聞いたっけ。
 でも、人前では食べないと聞いたような?
 好物で顔が綻ぶところ、見てみたいかも。

「いいわよ。グレイソンも、この間の飲み物、一緒に飲んでみる? コーラというの」

 私がもう一つグラスを取りに立ち上がると、グレイソンもついてくる。

「……? 待ってていいわよ」
「いえ、せっかく一緒にいられるなら、そばにいたいんです」
「そう、なの?」

 よくわからないけど。
 コーラの素とスパークリングワインを混ぜて二人分作り、グレイソンに手渡した。

「お口に合うかしら?」

 グレイソンがためらいなく口をつける。

「……これは、口当たりが良くて飲み過ぎてしまいますね」 
「そうなの。残念だけど、一杯ずつしかないわ」

 私は自分のグラスを勢いよくあおる。 
 風呂上がりの一杯、最高。
 ……あ、しまった。
 グレイソンが見てた。

「……貴重なものを分けてくださりありがとうございます。では、これもぜひ」

 何も見ていなかったかのような顔をして私の口元にチョコレートを運ぶから、素直に口を開けた。
 いや、ちょっとは明日吹き出物出たら嫌だなとか、この時間に食べて体重が、とか思ったけどコーラ味のお酒を飲んでて今さらかなとも思うわけで。

 グレイソンが嬉しそうに笑う。
 口に入れてもらうなんてずいぶん恥ずかしい事をしたかも、と今さら気づいた。

「私の一推しなんです……どうですか?」

 私好みのミルク感たっぷりのチョコレート。

「おいしい。…………好き、……大好き」

 グレイソンと食の好みが一緒なら、今後もうまく付き合える。
 
「……私も好きです」

 赤くなっていうから、あれ、と思う。
 もしかして彼を好きって言ったみたいになってるのかもと、顔が熱くなる。
 なんだろ、さっきからずれてる……。

「グレイソンも食べて」

 彼の持っていたチョコレートを手に取ろうとしてさっと箱を避けられた。
 なんで?
 顔を上げたところで唇が重なった。

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