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しおりを挟む旅が進むにつれ戦いも強敵も増えて彼の要求はエスカレートしてきた。
「素肌が触れ合ったほうが効果が高い」
ジュードは上半身を脱ぎ、私はキャミワンピ程度のもので。
特に何かしてるつもりはないのだけど、彼の熱い体を抱きしめていると、だんだん落ち着いてくる。
これが聖女の力なのかな。
本当によくわからないけど。
なんですかね、これ。
初めは手を握るだけの行為が、いつの間にか抱きしめるようになって、魔王を倒す直前にはキスが一番効果が高いことがわかった。
初めて触れる唇はやっぱり熱くて、びくりと震える。
「キス、初めて? ごめんね。ありがとう……すごく、助かる……」
彼らにとって少人数の過酷な旅で、私にとっては護られて閉ざされた旅だったし、キスも脳内が麻痺していたのかな。
「……んむぅ……ジュー……ドっ!」
彼の熱い舌が私の舌に絡むのも、口内を探られて私に熱が移るのも聖女の役目と、そういうものだと思って。
旅の仲間は何も口出ししなかったからね?
もちろん目の前でキスなんてしないけど。
そういうわけで旅は順調に進み、難なく魔王を討ち滅ぼした。
およそ一年の旅。
戦いがなくなれば聖剣を使うこともなくなるし、彼の魔力が暴走することもないだろうと言う。
そして私は明日、日本に戻ることになった。
しかも約束通り向こうの世界ではほとんど時間の経っていないところへ。
うまく戻れるか心配もあるけれど。
一年も過ごすと、愛着がでるみたい。
前の自分じゃないし、ここを離れるのがさみしいと思う。
でも。受験生になるんだよ、私。
これからもっと勉強しないと。
「ねぇ、ラヴィ。……ずっと、ここにいてくれたらいいのに」
「私だって、できるならそうしたい」
ジュードの専属の聖女として過ごしてきた私が彼を好きになるのも自然な流れだと思う。
「ラヴィ……好きだ」
「……ジュード……私」
「あぁ、言わなくてもわかってる。……キスしていい?」
頷く私にそっと触れるだけの口づけを落とす。
確かにこの時、私は熱に浮かされていた。
十七歳の世間知らずの女の子で。
実際には誕生日を迎えて十八なんだけど、まぁこの一年はノーカウントで。
神殿に戻ってきたけれど、今夜はここで過ごしてと言う彼に頷いた。
最後だから夜通しおしゃべりすることになるのかな。
そんな時、扉がノックされた。
「ジュード様、準備が整いました」
「わかった。ありがとう」
「……ではご案内いたします。セラヴィ様どうぞ」
私は呼ばれて首をかしげる。
「神殿の賓客用の大きな浴室を使わせてくれるって。疲れをとっておいで」
その後は俺とゆっくり過ごそう、と耳打ちされて気づいた。
今夜、私は彼に全て捧げることになる?
最後の夜だから。
もう、聖女じゃなくなってもいいんだから。
「うん……じゃあ、また後でね」
顔が赤くなるのはわかったけれど、ジュードにそう言うと嬉しそうに笑った。
そして、それが私たちの別れとなった。
私が連れて行かれた先には、最初に出会った赤い服を着た神官長が待っていた。
「最終確認なのですが……セラヴィ殿、あなたは本当に帰りますか?……残ってもらえるとありがたいのですが……」
「いえ、帰りたいです」
ジュードが好きであっても、このままここに残ったら家族が悲しむと思うし、いい大学に入っていい会社に入りたい。
人生ってそう言うもんでしょ?
聖女としての仕事も終わっちゃったし。
「では、今からあなたを帰します……このタイミングを逃すとあなたは戻ることができないでしょう」
「え、でも……ジュード達にお別れを言ってなくて……」
「ここに残りますか? 正直、そうしてほしいですが、セラヴィ殿の気持ちを優先したいのです。…………あまり時間がありませんので……」
「……わかりました。帰ります」
この後二人で最後の夜を過ごそうとふわふわした気持ちでいたけれど、気を引き締める。
「皆さん、お元気で。ジュードにごめんなさい、今までありがとうと伝えてください」
「……わかりました。セラヴィ殿、こちらこそお力添えありがとうございました。お元気で」
「……さようなら」
あっけなく普段の生活に戻った私は、今では夢でも見ていたんじゃないかと思う。
あれから五年が経ち、それなりにいい大学に入ったものの、何がいけなかったのか就職先が決まらなかった。
とりあえず、派遣会社に登録して、ビジネス講習とマナー講習を受けるように言われたところ。
そんな私に家族は冷たい。
ヨシオ兄もサナエ姉も社名を言えば、みんな知っているような大企業で。
ちなみに二人とも祖父に名付けられたけど、私が生まれる前に亡くなってしまい、両親がはりきってつけたのが、コレ。
それはともかく。
母は周りに兄姉の勤め先を自慢していたから、私のことは話したくないんだろうな。
父は普通の会社に勤めていて数年まともに話してないけど、正社員になれなかった私のことはよく思ってないっぽい。
ジュードのことは、ふとした時に思い出す。
日常に戻って、落ち着いて考えてみると、すでに恋人同士みたいにいちゃついてたなって恥ずかしくなる。
あれでつき合っていなかったなんて。
私は十七歳で、彼は十九歳と若かったから恋に浮かれていたし……でも甘い思い出で、今となっては美化されているんだろうなって思う。
もう戻れないし、忘れちゃいたくて私は、大学で一つ年上の先輩とつき合った。
ひと通り恋人らしいことをした後、すぐ別れたけど。
「こんなことなら、あのまま向こうに残ればよかったのかな」
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