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7 父様ならわかってくれるはず
しおりを挟む「どうぞ、アーサー様」
「…………」
無言でかたまるアーサー様に、殿下が食べろってぽそっと言った。
今初めて殿下を尊敬します!
私も手をどうしたらいいか困ってました!
「……いただきます」
そっと口を開けたアーサー様の舌の上にのせる。
小さいからすぐ溶けて飲み込んだみたい。
あっ!
「アーサー様、ごめんなさい。少なかったですよね。こちらもどうぞ」
そっとマドレーヌを差し出すと、アーサー様はチラッと殿下を見て、頷くのを確認してから口を開けた。
一口で頬張る姿は野生的で、やっぱり素敵。
ぽおっとみつめていたら、殿下が咳払いした。
「エヴァ、時々私とお茶をしてくれないかい?」
なんで?
アーサー様も一緒ならいいけど。
「私の妹と気の合いそうな子を探していたのだ。次は妹と……アーサーも一緒だ」
「はい、とても嬉しいです! 楽しみにしております!」
王女様と気が合うかわからないけど、アーサー様ともう一度会えるなら。
わかりやすいな、って殿下がつぶやいた気もするけど、そんなに嬉しさがにじみ出ちゃったのかな?
「じゃあ、私は先に失礼するが、ゆっくりしてほしい」
殿下と共にアーサー様が去った。
アーサー様と全然話せなかったけど、一緒に時間を過ごせてよかった……。
とっても、甘くて幸せな時間だったから。
それに、また一緒に過ごせるなんて!
もっとアーサー様の声が聞きたい。
普段何をしているのかとか、何が好きかとか……婚約者がいるのか、とか。
あんなに素敵だから婚約してるよね。
そう考えたらさっきまでの幸せな気持ちがシュンとしぼんだ。
帰ろう。
周りをそっと伺い、お花摘みに行くふりをしてそのまま玄関へと向かう。
合流したうちの侍女が馬車の手配で離れた隙に、私は声をかけられた。
「ちょっと、待ちなさい!」
聞き覚えのある声に、私は振り返る。
前回のお茶会で私が転んだのを笑った子達のうち、三人が私を囲むようにやってきた。
うーん、何だか面倒くさそう。
「……なんですか?」
「あなたね、殿下にお声をかけていただいて、あんな態度とるなんてどういうつもり?」
そんなに殿下に失礼な態度とってた?
「ほんっとに、礼儀がなってないわね! 殿下に気に入られているからって調子に乗るんじゃないわよ!」
あれ、気に入られているの?
よくわからないけど、次から気をつけなくちゃ。
それに、アーサー様にお菓子を食べさせたのは、調子に乗ったかもしれない。
嫌われたらどうしよう!
「それは、反省します」
「っ、わかればよろしいのよっ! 金輪際、殿下に近づかないことね‼︎」
「そのつもりでいます」
殿下に興味はないので。
アーサー様には近づきたいけど。
「そう、では断るのね、次の茶会は」
「いえ、断りません。大丈夫です、私は殿下に興味ないですから」
安心してもらえるようにっこり笑って言ったのに。
「あなたねぇ‼︎」
なんで怒るの?
彼女達につめよられ、勢いよく肩を押されてバランスを崩した。
「っ……!」
倒れる‼︎
彼女達が恐ろしい顔で睨んでいて、このままだと私は床に頭を打っちゃう!
一瞬のことなのに、全てがゆっくりに感じて、顔が歪んだ。
彼女達はそんな私を見て笑い声をあげる。
「……⁉︎」
ぎゅっと目を瞑り衝撃に備えたけど、その前に私の体はふんわりと何かに包まれた。
心臓が激しく打つから何度か浅く息を吐き、そうっと目を開けると――。
「……アーサー、さま……」
焦茶色の瞳が私を心配そうに見つめる。
一度だけぎゅっと抱きしめた後、ゆっくり立たせてくれた。
私の足はがくがくしていて、眉をしかめたアーサー様がそのまま抱いて支えてくれる。
嬉しい。でも心臓がもたないかも!
「貴女がたは何をしている? 私が間に合わなければ、彼女は大怪我をしたかもしれない。とんだ淑女達だな……それに。彼女が侯爵令嬢と知っていてそのような態度を?」
彼女達を脅すような低い声が耳元で聞こえる。
あ、ちょっとお耳がくすぐったい。
そんなこと考えてる場合じゃないのに。
「え? 嘘でしょ⁉︎ でも!」
「まさか、だって……」
私、殿下にちゃんと挨拶したよね?
私みたいな侯爵令嬢っていないの?
私、レディ失格なんだ……シュン。
「エヴァ、青い顔をして、可哀想に。怖かっただろう?」
青ざめる彼女達と私達の間にフィンレー殿下が姿を現した。
私にうさん臭い笑顔で笑いかけ、その後で彼女達に向き直る。
「君達は人の命について考えたほうがいいね。それぞれの家に通達しておこう」
近くにいた衛兵が彼女達を連れて行く。
なんだか大事になってしまった。
「エヴァ、怪我はないかい?」
殿下が私に笑いかけ、アーサー様がそっと離れる。
あ、ぬくもりが……さみしい。
「はい、アーサー様のおかげで大丈夫でした。殿下もありがとうございます!」
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