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12 再会
しおりを挟む今日は頑張って肉屋のヤンさんのところまで一人で出かけた。
じいちゃんの話とすれ違っていたことを謝られたけど、僕はロイクさんのおかげで無事に暮らしているから大丈夫って言った。
移民の子供たちが三人もいるから、これでよかったんだと思う。
「ロイクさんなら真面目だし安心だよ。ただあの人は本気で怒らせると大変だからね。でもその様子ならジョゼフは問題なさそうだ」
ヤンさん夫婦がそう言って笑う。
それに困ったら頼ってって言ってくれたから、せっかくなのでおいしいお肉の料理方法を訊いた。
「そうそう、さっきヨアンさんが来たよ。今、八百屋にいるんじゃないかな?」
「じいちゃんが? じゃあ、ぼくあとでまた買いに来ます!」
「待ってるよ!」
肉屋を飛び出すと、八百屋の店先からひょこっとじいちゃんが顔を出した。
「ジョゼフ! 無事だったか。困っていることはないか?」
久しぶりに会えて思わず抱きつく。
ぼくと同じくらいの背丈のじいちゃんがぽんぽん背中を叩いてくれた。
「大丈夫だよ! みんなが助けてくれたから。じいちゃんともまた会えて嬉しい」
「……せっかくだからちょっとお茶でも飲んで行くか?」
「うん!」
じいちゃんと二人で店に入り、飲み物を頼む。
じいちゃんはばあちゃんより十歳くらい若いのだけど、それよりもっともっと若く見えてもしかしたら親子くらいに見えるかもしれない。
以前若く見えるのはタヌキだからの、って笑っていたけどどういうことかわからないまま。
じいちゃんに、孫娘の結婚式の日とぼくが来る日が逆に伝わったのしまったのかもしれないと、何度も謝られた。
気にしなくていいのに、好きなものをなんでも食べるように言う。
メニューを眺めてもよくわからなくて、一番人気だというプラムとクレープ生地を型に流して一気に焼き込んだお菓子を選んだ。
弾力のある生地で素朴だけど、飽きのこないおやつなのかも。
「じいちゃん、おいしい! ぼくこれ、作ってみたいな!」
「うむ、うむ。ジョゼフならそう言うと思ったよ。その時の果物を入れて焼くといいようじゃの」
とりあえずロイクさんのところで楽しく暮らしている話と、ぼくが女の子だって知った時の驚きを伝えた。
「……ばあちゃんも本当は伝えるつもりじゃったよ。ただ、山奥で何かあったら困るから、わしもばあちゃんも言えなかったんじゃ。すまなかったの」
「ううん! 今までありがとう。最近も街のことをよく分からなくて騙されそうになったことがあったから……もうしばらくこのままでいることにしたんだ」
「そうかい、そうかい。それがいい」
「でもね、じいちゃん。そろそろぼくって言うの、やめた方がいいかな?」
「そうじゃなぁ……、おなごの姿に戻った時に『わたし』と言えたほうがいいからそろそろ直したほうがいいかもしれないなぁ」
じいちゃんが丸いあごに手を当てて考える。
「ワタシ、ジョゼフ……。ねぇ、ロイクさんに訊かれたんだけど本当のぼくの名前って知ってる? じいちゃん?」
「本当の名前? ジョゼフ以外に? ばあちゃんからも聞いたことないなぁ。ジョゼフって名前は人間はおなごにもつける地域があると聞いとるよ」
それって、一般的には男の名前ってこと?
だからロイクさんはぼくをジョゼと呼ぶことにしたのかな。
その呼び名はロイクさんだけに呼ばれたいけど。
「ジョゼフを昔から知っているのはもうわししかいないから、気になるならジョゼフィーヌとかジョセフィンと名乗ってもいいんじゃないかの?」
「じいちゃん、そんな勝手なことしてもいいの?」
「いいとも、ジョセフィン」
ジョセフィン?
「じいちゃん、まさかこれからそう呼ぶつもり?」
「んむ、悪くあるまい。……でも、次に忘れてジョゼフと呼んでしまいそうだの」
フォ、フォッ、って楽しそうに笑うから、ぼくもつられる。
「ワタシ、ジョセフィン。どう?」
「かわゆいのぅ」
「えへへっ」
「フォッ、フォッ……」
じいちゃんが手を伸ばして頭を撫でてくれる。
そんな和やかな時間を過ごしていると、テーブルに影がさして顔を上げた。
「ロイクさん……?」
ものすごく怖い顔をしたロイクさんが僕らに迫った。
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