お嫁さんを探しに来たぼくは、シロクマ獣人の隊長さんと暮らすことになりました!

能登原あめ

文字の大きさ
16 / 29

16 大丈夫?

しおりを挟む
  

 今朝は目覚めたらロイクさんが隣にいなくて、家の中をぐるっと回ったけど気配がなくて悲しくなった。
 休みだって言っていたから、予定のない日はいつもより寝坊するのに……。

 急に仕事になっちゃったのかな。
 でも書き置きもない。

 じいちゃんが、番と離れることを考えたら胸が痛くて悲しくてつらくてご飯が食べられなくなって生きていられないって言ってたのをふと思い出す。

 このままロイクさんがいなくなったらぼくは――。
 
 想像しただけで胸が痛くて嫌な気持ちになった。
 きっとぼくもご飯が食べられなくなる……。
 ロイクさんのいない毎日なんて考えたくない。

「……あれ? 起きたのか?」

 扉が開いてロイクさんが何かを抱えてやって来た。

「ロイクさんがいないから、目が覚めました」

 ちょっと泣きそうになって、何度も瞬きしてごまかす。
 すると、ロイクさんが荷物を置いてぼくを抱っこしてくれた。
 赤ちゃんじゃないんだけど、今はロイクさんに甘えたくて胸に顔をうずめる。

「怖い夢でも見たのか? すまない、よく寝ていたからすぐ戻ってくるつもりでパン屋に行ってきたんだ」
「……パン屋?」
「ああ。今、街で評判の焼きたてのパンだ」
「ぼくが食べたいって言ったから?」

 ぼくの背中をぽんぽんたたきながらロイクさんがベッドに向かう。

「そうだ。まだ眠いならもう少し寝るか?」

 首を横に振って、ぼくは床に下ろしてもらった。

「焼きたて、食べたいです……ロイクさん、次は起こして僕も連れて行ってくださいね」
「わかった」
「目が覚めて一人で寂しかったんですよ」

 真剣なロイクさんがぼくの顔を探るようにみつめる。
 じいちゃんやばあちゃんも大好きだけど、好きの種類が違うみたい。
 ロイクさんのこと、ぼくは特別に大好きなんだ。
 
「ジョゼ、好きだよ」
「ぼくもロイクさんが好きです」
「俺の番になってくれるくらい?」

 そう聞かれて、僕は嬉しくなって何度も頷いた。

「はい、ロイクさんの番になりたいです」

 ロイクさんの大きな体にぎゅっと抱きしめられて、心臓がトクトクいうのを聞く。
 いつもよりちょっと早いけど、その音に安心した。

「結婚してくれるか?」
「はい、ぼくもロイクさんと結婚したいです」
「……夢じゃないんだよな?」
「……? はい。ぼく達しっかり起きてますよ」
「……現実なんだな」
「そうですね?」

 なんだかかみ合っていない気もしたけれど、ぼくもロイクさんの背中に手を回してさらにきつく抱きしめ合った。
 背中でぼくの手が回らないくらい大きい。

「ロイクさんに触れてると、ぼくって男じゃなかったんだなぁって感じます」
「…………」
「ロイクさんって大きいし、体温も高いし、柔らかさがないですし包まれている安心感があります」
「…………」

 今なら性別の差がよくわかる。
 ぼくみたいな少年は見かけたけど、大人の男の人はいなかった。
 ロイクさんが黙ったままだから、はぁ、と大きく息を吐いた。

「ぼく小さいなぁ……うーん、なんだろう、この気持ち……もやもや、違う。ムラムラ? 違う。ぽかぽかかな?」
「…………」
「ぼく、女に生まれてよかった。だって、ロイクさんとの子ども、産めるってことだもん。……どっちに似るかなぁ。男の子も、女の子もどっちもほしいな。どうせなら大家族に」
「……ジョゼ……少し黙って」

 ぼく、独り言が大きすぎたみたい。
 顔を上げるとロイクさんは困った顔をして、それから口を開いた。

「可愛すぎて困る」
「…………」

 もう一度その胸に顔をうずめて、さっきより早い心音をじーっと聞いた。


 それからすぐにでも結婚することになるかとぼくは思ったのだけど、ロイクさんが結婚休暇を取ることになり、一月後に式をあげることになった。
 どうやら一週間も休めるらしい。
 どこに行こうか、どこに行きたいか話し合ってぼく達は幸せだった。

 だから気が緩んだのかもしれない。







「大丈夫ですか?」

 買い物へ行った先で、足を怪我したのか具合が悪いのか物陰にしゃがみ込んでいた女性に声をかけた。
 こんなところにいたら誰も気がつかない。

「少し、胸が痛くて……」
 
 ぼくがのぞきこんでアベラさんだと気づいた次の瞬間、ぼくは後ろから何かを嗅がされて袋のようなものに入れられた。

「……!」

 困っている人に対して当たり前の行動と思ったけれど、そうではなかったらしい。
 薄れゆく意識の中で女の声が聞こえる。
 手足を動かして逃げたいのに、袋の上から押さえられてそれもできない。

「馬鹿な子。でもよかった、アンタを売ってしまえば彼を手に入れられる」

 なんで?
 ぼくって売られちゃうの?
 人間を売るなんてだめだよ……。
 それにロイクさんって、ぼく以外には本当に怖いんだ。
 
 体がふわりと浮かび、かつがれたのかお腹を圧迫されてとうとう意識を手放した。





しおりを挟む
感想 70

あなたにおすすめの小説

私、異世界で獣人になりました!

星宮歌
恋愛
 昔から、人とは違うことを自覚していた。  人としておかしいと思えるほどの身体能力。  視力も聴力も嗅覚も、人間とは思えないほどのもの。  早く、早くといつだって体を動かしたくて仕方のない日々。  ただ、だからこそ、私は異端として、家族からも、他の人達からも嫌われていた。  『化け物』という言葉だけが、私を指す呼び名。本当の名前なんて、一度だって呼ばれた記憶はない。  妹が居て、弟が居て……しかし、彼らと私が、まともに話したことは一度もない。  父親や母親という存在は、衣食住さえ与えておけば、後は何もしないで無視すれば良いとでも思ったのか、昔、罵られた記憶以外で話した記憶はない。  どこに行っても、異端を見る目、目、目。孤独で、安らぎなどどこにもないその世界で、私は、ある日、原因不明の病に陥った。 『動きたい、走りたい』  それなのに、皆、安静にするようにとしか言わない。それが、私を拘束する口実でもあったから。 『外に、出たい……』  病院という名の牢獄。どんなにもがいても、そこから抜け出すことは許されない。  私が苦しんでいても、誰も手を差し伸べてはくれない。 『助、けて……』  救いを求めながら、病に侵された体は衰弱して、そのまま……………。 「ほぎゃあ、おぎゃあっ」  目が覚めると、私は、赤子になっていた。しかも……。 「まぁ、可愛らしい豹の獣人ですわねぇ」  聞いたことのないはずの言葉で告げられた内容。  どうやら私は、異世界に転生したらしかった。 以前、片翼シリーズとして書いていたその設定を、ある程度取り入れながら、ちょっと違う世界を書いております。 言うなれば、『新片翼シリーズ』です。 それでは、どうぞ!

番が逃げました、ただ今修羅場中〜羊獣人リノの執着と婚約破壊劇〜

く〜いっ
恋愛
「私の本当の番は、 君だ!」 今まさに、 結婚式が始まろうとしていた 静まり返った会場に響くフォン・ガラッド・ミナ公爵令息の宣言。 壇上から真っ直ぐ指差す先にいたのは、わたくしの義弟リノ。 「わたくし、結婚式の直前で振られたの?」 番の勘違いから始まった甘く狂気が混じる物語り。でもギャグ強め。 狼獣人の令嬢クラリーチェは、幼い頃に家族から捨てられた羊獣人の 少年リノを弟として家に連れ帰る。 天然でツンデレなクラリーチェと、こじらせヤンデレなリノ。 夢見がち勘違い男のガラッド(当て馬)が主な登場人物。

獣人の世界に落ちたら最底辺の弱者で、生きるの大変だけど保護者がイケオジで最強っぽい。

真麻一花
恋愛
私は十歳の時、獣が支配する世界へと落ちてきた。 狼の群れに襲われたところに現れたのは、一頭の巨大な狼。そのとき私は、殺されるのを覚悟した。 私を拾ったのは、獣人らしくないのに町を支配する最強の獣人だった。 なんとか生きてる。 でも、この世界で、私は最低辺の弱者。

婚約破棄された夜、最強魔導師に「番」だと告げられました

有賀冬馬
恋愛
学院の祝宴で告げられた、無慈悲な婚約破棄。 魔力が弱い私には、価値がないという現実。 泣きながら逃げた先で、私は古代の遺跡に迷い込む。 そこで目覚めた彼は、私を見て言った。 「やっと見つけた。私の番よ」 彼の前でだけ、私の魔力は輝く。 奪われた尊厳、歪められた運命。 すべてを取り戻した先にあるのは……

ただの新米騎士なのに、竜王陛下から妃として所望されています

柳葉うら
恋愛
北の砦で新米騎士をしているウェンディの相棒は美しい雄の黒竜のオブシディアン。 領主のアデルバートから譲り受けたその竜はウェンディを主人として認めておらず、背中に乗せてくれない。 しかしある日、砦に現れた刺客からオブシディアンを守ったウェンディは、武器に使われていた毒で生死を彷徨う。 幸にも目覚めたウェンディの前に現れたのは――竜王を名乗る美丈夫だった。 「命をかけ、勇気を振り絞って助けてくれたあなたを妃として迎える」 「お、畏れ多いので結構です!」 「それではあなたの忠実なしもべとして仕えよう」 「もっと重い提案がきた?!」 果たしてウェンディは竜王の求婚を断れるだろうか(※断れません。溺愛されて押されます)。 さくっとお読みいただけますと嬉しいです。

こわいかおの獣人騎士が、仕事大好きトリマーに秒で堕とされた結果

てへぺろ
恋愛
仕事大好きトリマーである黒木優子(クロキ)が召喚されたのは、毛並みの手入れが行き届いていない、犬系獣人たちの国だった。 とりあえず、護衛兼監視役として来たのは、ハスキー系獣人であるルーサー。不機嫌そうににらんでくるものの、ハスキー大好きなクロキにはそんなの関係なかった。 「とりあえずブラッシングさせてくれません?」 毎日、獣人たちのお手入れに精を出しては、ルーサーを(犬的に)愛でる日々。 そのうち、ルーサーはクロキを女性として意識するようになるものの、クロキは彼を犬としかみていなくて……。 ※獣人のケモ度が高い世界での恋愛話ですが、ケモナー向けではないです。ズーフィリア向けでもないです。

ハイスぺ幼馴染の執着過剰愛~30までに相手がいなかったら、結婚しようと言ったから~

cheeery
恋愛
パイロットのエリート幼馴染とワケあって同棲することになった私。 同棲はかれこれもう7年目。 お互いにいい人がいたら解消しようと約束しているのだけど……。 合コンは撃沈。連絡さえ来ない始末。 焦るものの、幼なじみ隼人との生活は、なんの不満もなく……っというよりも、至極の生活だった。 何かあったら話も聞いてくれるし、なぐさめてくれる。 美味しい料理に、髪を乾かしてくれたり、買い物に連れ出してくれたり……しかも家賃はいらないと受け取ってもくれない。 私……こんなに甘えっぱなしでいいのかな? そしてわたしの30歳の誕生日。 「美羽、お誕生日おめでとう。結婚しようか」 「なに言ってるの?」 優しかったはずの隼人が豹変。 「30になってお互いに相手がいなかったら、結婚しようって美羽が言ったんだよね?」 彼の秘密を知ったら、もう逃げることは出来ない。 「絶対に逃がさないよ?」

【完結】2番目の番とどうぞお幸せに〜聖女は竜人に溺愛される〜

雨香
恋愛
美しく優しい狼獣人の彼に自分とは違うもう一人の番が現れる。 彼と同じ獣人である彼女は、自ら身を引くと言う。 自ら身を引くと言ってくれた2番目の番に心を砕く狼の彼。 「辛い選択をさせてしまった彼女の最後の願いを叶えてやりたい。彼女は、私との思い出が欲しいそうだ」 異世界に召喚されて狼獣人の番になった主人公の溺愛逆ハーレム風話です。 異世界激甘溺愛ばなしをお楽しみいただければ。

処理中です...