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“彩”会 -saikai-
しおりを挟む街中心部の広場。設営されたブースには、美しくディスプレイされたお菓子たちが我こそ一番だと言わんばかりに輝いていた。それらを求めて早朝から老若男女問わず長蛇の列を作ってブースに並んでいた。
「そろそろだ」
ブースの奥の控え室。配られた資料には公平性を保つためパティシエの名は伏せられているが、数十個の菓子の名前だけがあった。
ようやく試食会場へ案内されると代わる代わる菓子が目の前に運ばれてきた。
(甘い…甘い、甘い)
甘いものが克服できたのは気のせいだったのだとグウェナエルは驚いた。ただ思い浮かぶのはあの店の香り。城で近づいてくる貴婦人の纏うそれでも、今目の前にする芸術品のようなスイーツでもない。唯一心から美味しいと思えたあの──
「次はこちらです」
「っ!」
すっと差し出された皿に衝撃を覚えた。あの時と同じようにラスクがそっと並んでいる。滑らかなブラウンのチョコで光沢を帯びた表面に白く雪のような塩が塗してある。
見覚えのあるそれをゆっくりと手にとり口に運んだ。程よい硬さと、甘さを抑えたビターチョコが舌の上に下りてくると、塩味がふわっと雪解ける。途端に目頭が熱くなる。
もうダメだと思ったどん底から、あの笑顔が、この味が、もう一度生きる気力を与えてくれた。
「この菓子がなければっ……俺は、ここには、いなかった」
寡黙なグウェナエルが突然泣き出したことに周りは騒然としていたが、ジョスだけは隣で弟を静かに優しく見守った。
自分の想いに気づいたグウェナエルは、この品評会でたった一人の愛しい名前を挙げた。他の審査員もその菓子を評価するものが多く、遂にその菓子は賞の一つ、王室賞を授与された。
品評会で彼の麗しき殿下が推したと話題になったビターチョコラスクはすぐに街の一番人気となった。受賞してからというもの、店に長蛇の列ができ、バレンタイン当日も飛ぶように売れていた。最後のお客を見送る頃には、とっくに営業時間を超えていた。今日もラスクはすべて完売した。
ふぅっと一つ息を吐いて椅子に座った。思い出すのは今より少し静かで、穏やかな時間。毎日思い出すほど自分にとって大きな存在だった彼。もう手の届かない人だと知ってしまってからも、その想いは強まる一方だった。
「はぁー…諦め悪いなぁ私」
立ち上がったその時、ドアベルがカランと音を立てて誰かを招き入れた。
「すみません、もう閉店して…………っ!」
振り返った先には、恋い焦がれた金髪翠眼の男性の蕩けるほど甘い微笑みがあった。
「もうないの?俺のチョコ…」
「グウェンっ!」
「うわっ」
「会いたかった……」
コレットは感動のあまり、泣いて飛びついた。もう二度と会えないと思っていた愛しい人にこうして触れられることに幸せを感じずにはいられなかった。ただただ嬉しくて広い背中を思い切り抱きしめた。
こうして二人は再会を果たし恋人となった。その翌年には晴れて契りを交わした。周囲もそれを喜んで、バレンタインデーの奇跡だと後世に語り継がれている。
Fin.
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