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雪女、vs溶岩男
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2人っきりになってしまった寮で、ユキとモエは何時間も黙ったまま俯いていた。
モエは、体中の水分全てを出し尽くしてしまうのではないかと、そう思ってしまうほど膝を抱えてずっと泣いていた。
ユキはリンの感情の無い表情と口調を思い出しながら、泣き続けるモエをチラチラと気に掛け、傷だらけになってしまった自分の心の修復をなんとか試みていた。
ユキは諦める訳にはいかなかった。
リンがあんな風になってしまったのには、何か理由が無いと絶対におかしい。ユキは決めていた。宿舎から出て行くリンの後を尾行し、真相を探ろうと。
モエにこれ以上負担を掛ける訳にはいかない。何があっても自分は必ず無事にこの寮に戻る。心の中でそう誓った。
「ちょっと気分転換に
散歩してくるね…。
少し遅くなるかも
しれないけど…。」
「絶対帰るから
心配しないで…。」
泣いているモエにそう告げ、ユキは宿舎の前の茂みに身を隠し、リンが出て来るのをひたすら待った。
夕日がユキの頬を照らす。日が暮れそうになっていた。当然だが、リンはなかなか出て来ない。何時間でも張り込むつもりであったが、集中力が途切れ、見落としてしまわないか不安になった。その時。
(……リンちゃん!)
リンが出て来た。宿舎から出て、真っ直ぐ校門へ向かい、学校の外へ出て、ひたすらそのままどこかへ歩いていく。
こんな時間にどこに行くのか?ユキはバレないように慎重にリンの後を付けた。
リンは森の中に入り、道なき道を構わずどんどん進んでいく。視界が暗い中、ユキは木の枝や蜘蛛の巣に阻まれ、何度も何度も見失いそうになる…。だが、ユキは絶対に見失うもんかとなんとかリンの姿を視界に捉え続ける。
尾行を開始して十数分。森を抜け、さらにしばらく歩いたリンは、なんの変哲もない小さな洞窟の岩壁の前で立ち止まった。ユキにはリンが何をしているのか訳が分からなかった。すると。
「……!!」
リンがしばらく立ち続けていると、岩肌に鉄の扉が現れた。魔法で隠されていたのか?ユキには原理がよく分からなかったが、それよりもリンはあんな怪しげな扉の奥で何をやっているのか…。ユキは気が気ではなかった。
リンが扉を開け中に入った。その後にユキも続こうとしていた。その時!
『ヒュオッ!!』
辺りが赤く照らされ、何かが飛んで来る音が聞こえた。ユキは咄嗟に前へ飛んだ…!
『ボッコオオオオン!!』
今まで立っていた地面にマグマの塊が着弾していた。この魔法には見覚えがあった。
「……はぁ。」
相変わらず溜め息をついている男。渓谷で戦ったあの男だった。ユキはマグマの男の正体をリンから聞いていた。
『マグマを使う
魔法学生と戦った…?』
『それ…ウチの学校じゃ
超有名人よ…。』
『最強の魔法学生…。
マントル・デイサイト…。』
『長い間、姿を消していた
ようなんだけど…。
まさかエレナと一緒に
いたなんて…。』
最強の魔法学生…。その肩書きにユキは警戒心を高める…。
「マントル・デイサイト…。」
「ふっ…。俺の正体は
バレていたか…。
まぁ、当然だな…。」
ならばフードも意味はないと言わんばかりに顔を晒すマントル。険しい顔付きの青年。最強の名に相応しい風格を漂わせていた。
「私はリンに
会いたいだけ…。
邪魔しないで…。」
「ふっ…。そうはいかん。」
「何故なら俺の仕事は、
それを邪魔すること
なのだからな…。」
戦闘は避けられそうになかった。マントルは体から蒸気を発生させる。これが彼の戦闘開始の合図であるようだった。
『マグディバイド!!』
マグマで作られた真紅のグローブを装着する魔法だ。ユキも氷で武器を形成する。
「はぁっ!!」
氷のバズーカ砲。それを肩に担いだ。
「……?なんだ
その武器は…?」
「バズーカ砲。」
「ばずーかほう?」
この世界にバズーカ砲は存在しないようであった。このバズーカ砲も鈴子から得た知識である。ユキは鈴子の力を借りているような気分になり、少し心強かった。
「なんだか分からんが
…行くぞッ!!」
マグマの拳が高速で突っ込んでくる…!それに狙いを定め、ユキはバズーカから雪の砲弾を撃ち出す…!
『ボゴオオオオンッ!!』
「ぬおっ…!?」
真紅のグローブとぶつかった雪の砲弾が爆発し、辺り一面に雪と氷の結晶が散らばる。凄まじい破壊力にマントルは吹っ飛んでいた。
マントルが体勢を崩している隙を狙い、ユキは次々と雪の砲弾を撃ち出していく…!
「くぅっ…!!」
砲弾が着弾するたびに、雪と氷の爆風がマントルを襲う。マントルはグローブをクロスさせ、爆風の衝撃を減らすので精一杯になっている。
「ふっ…!この俺が
押されるとは…!!」
マントルは自分より強い魔法学生に出会ったことがなかった。自分を上回っているかもしれない強大なユキの能力に、高揚感のような物を感じてしまっていた。
マントルは接近戦は分が悪いと、真紅のグローブを一旦解除する。そして、手のひらをユキに向ける。
「マグナム!!」
マグマの砲弾がユキに向かって放たれる。ユキはバズーカの砲弾で迎え撃つ。
『ボオオオオオンッ!!』
マグマと雪の砲弾が空中でぶつかり、大爆発を起こした。お互い砲弾を撃ち合う。辺りには無数のマグマと雪が飛び散っている。
「はぁっ…はぁっ…。」
バズーカ砲を担いでいるユキの肩が凝ってきた。マントルも魔力を無駄に消耗し、息を切らしている。
「ふぅ…キリがないな…。
ならば、これはどうだッ!!」
「マグナオンッ!!」
地面が裂け、亀裂からマグマが吹き出した。これはユキが以前防ぎきれなかった魔法だ。
ユキは氷のバズーカ砲でマグマを狙う。ボンッ!と砲弾を撃ち出すが、雪の砲弾はマグマの波に飲み込まれ、爆発を起こさずに蒸発してしまった。
「嘘でしょ…!?」
やはりマグマの波にはユキの能力が通じなかった。ユキはバズーカ砲を投げ捨てると、無数の氷の壁を自分の前に並べる。しかし。
『ジュオオオオオッ!!』
次々に溶かされ蒸発していく壁。辺りに遮蔽物はない。万事休すだった。
「こうなったら
マジ超全力…!!」
大きく息を吸うユキ。そして一気に吐き出す!
『ビュオオオオオオッ!!』
ユキはマグマに凄まじい範囲と風圧の氷の息を吹き掛ける。だが、マグマはグツグツという音を立てながらユキに迫り続けた。そして、つま先に触れそうなほど近くまで流れてきてしまった…!
(わ、私は絶対に
諦める訳にいかない…!!)
(大切な友達のために…!!)
ユキは全神経を息を吐き出すことへ集中させる。氷の息は勢いを増した。なんと、マグマの波の動きが鈍っていた。
「な…なんだと…!?」
さすがに動揺を隠しきれないマントル。次第に鮮やかなオレンジ色のマグマが黒く変色していく。
一見マグマとは相性が悪いように見えた雪女の力だったが、そう。マグマは冷えると固まるのだ。
マグマすら超える氷の力。相性は完全に逆転していた。
マグマが全て固まり、放心状態のマントル。それを尻目に、ユキは靴の裏にスケートシューズの刃のような物を形成すると、凍らせたマグマの上を颯爽と滑っていく。
「は…速…ッ!!」
速いと言い終える前にユキはもうマントルの目の前にいた。ユキの両腕には氷のグローブがはめられている。マントルも慌ててマグマのグローブで応戦する。
「うおりゃあっ!!」
「ぬああああッ!!」
青と赤、それぞれのパンチを繰り出す両者。そして、2人の動きが止まる。
…真紅の拳をかわしながら、ユキの右ストレートがマントルの顔面に突き刺さっていた…。クロスカウンターが決まった…!!
「ふっ…み、見事だ…。
………はぁ。」
マントルは最後に溜め息をつき終えると、白目を剥いて地面に倒れた。ユキは拳を掲げてガッツポーズをしていた。
モエは、体中の水分全てを出し尽くしてしまうのではないかと、そう思ってしまうほど膝を抱えてずっと泣いていた。
ユキはリンの感情の無い表情と口調を思い出しながら、泣き続けるモエをチラチラと気に掛け、傷だらけになってしまった自分の心の修復をなんとか試みていた。
ユキは諦める訳にはいかなかった。
リンがあんな風になってしまったのには、何か理由が無いと絶対におかしい。ユキは決めていた。宿舎から出て行くリンの後を尾行し、真相を探ろうと。
モエにこれ以上負担を掛ける訳にはいかない。何があっても自分は必ず無事にこの寮に戻る。心の中でそう誓った。
「ちょっと気分転換に
散歩してくるね…。
少し遅くなるかも
しれないけど…。」
「絶対帰るから
心配しないで…。」
泣いているモエにそう告げ、ユキは宿舎の前の茂みに身を隠し、リンが出て来るのをひたすら待った。
夕日がユキの頬を照らす。日が暮れそうになっていた。当然だが、リンはなかなか出て来ない。何時間でも張り込むつもりであったが、集中力が途切れ、見落としてしまわないか不安になった。その時。
(……リンちゃん!)
リンが出て来た。宿舎から出て、真っ直ぐ校門へ向かい、学校の外へ出て、ひたすらそのままどこかへ歩いていく。
こんな時間にどこに行くのか?ユキはバレないように慎重にリンの後を付けた。
リンは森の中に入り、道なき道を構わずどんどん進んでいく。視界が暗い中、ユキは木の枝や蜘蛛の巣に阻まれ、何度も何度も見失いそうになる…。だが、ユキは絶対に見失うもんかとなんとかリンの姿を視界に捉え続ける。
尾行を開始して十数分。森を抜け、さらにしばらく歩いたリンは、なんの変哲もない小さな洞窟の岩壁の前で立ち止まった。ユキにはリンが何をしているのか訳が分からなかった。すると。
「……!!」
リンがしばらく立ち続けていると、岩肌に鉄の扉が現れた。魔法で隠されていたのか?ユキには原理がよく分からなかったが、それよりもリンはあんな怪しげな扉の奥で何をやっているのか…。ユキは気が気ではなかった。
リンが扉を開け中に入った。その後にユキも続こうとしていた。その時!
『ヒュオッ!!』
辺りが赤く照らされ、何かが飛んで来る音が聞こえた。ユキは咄嗟に前へ飛んだ…!
『ボッコオオオオン!!』
今まで立っていた地面にマグマの塊が着弾していた。この魔法には見覚えがあった。
「……はぁ。」
相変わらず溜め息をついている男。渓谷で戦ったあの男だった。ユキはマグマの男の正体をリンから聞いていた。
『マグマを使う
魔法学生と戦った…?』
『それ…ウチの学校じゃ
超有名人よ…。』
『最強の魔法学生…。
マントル・デイサイト…。』
『長い間、姿を消していた
ようなんだけど…。
まさかエレナと一緒に
いたなんて…。』
最強の魔法学生…。その肩書きにユキは警戒心を高める…。
「マントル・デイサイト…。」
「ふっ…。俺の正体は
バレていたか…。
まぁ、当然だな…。」
ならばフードも意味はないと言わんばかりに顔を晒すマントル。険しい顔付きの青年。最強の名に相応しい風格を漂わせていた。
「私はリンに
会いたいだけ…。
邪魔しないで…。」
「ふっ…。そうはいかん。」
「何故なら俺の仕事は、
それを邪魔すること
なのだからな…。」
戦闘は避けられそうになかった。マントルは体から蒸気を発生させる。これが彼の戦闘開始の合図であるようだった。
『マグディバイド!!』
マグマで作られた真紅のグローブを装着する魔法だ。ユキも氷で武器を形成する。
「はぁっ!!」
氷のバズーカ砲。それを肩に担いだ。
「……?なんだ
その武器は…?」
「バズーカ砲。」
「ばずーかほう?」
この世界にバズーカ砲は存在しないようであった。このバズーカ砲も鈴子から得た知識である。ユキは鈴子の力を借りているような気分になり、少し心強かった。
「なんだか分からんが
…行くぞッ!!」
マグマの拳が高速で突っ込んでくる…!それに狙いを定め、ユキはバズーカから雪の砲弾を撃ち出す…!
『ボゴオオオオンッ!!』
「ぬおっ…!?」
真紅のグローブとぶつかった雪の砲弾が爆発し、辺り一面に雪と氷の結晶が散らばる。凄まじい破壊力にマントルは吹っ飛んでいた。
マントルが体勢を崩している隙を狙い、ユキは次々と雪の砲弾を撃ち出していく…!
「くぅっ…!!」
砲弾が着弾するたびに、雪と氷の爆風がマントルを襲う。マントルはグローブをクロスさせ、爆風の衝撃を減らすので精一杯になっている。
「ふっ…!この俺が
押されるとは…!!」
マントルは自分より強い魔法学生に出会ったことがなかった。自分を上回っているかもしれない強大なユキの能力に、高揚感のような物を感じてしまっていた。
マントルは接近戦は分が悪いと、真紅のグローブを一旦解除する。そして、手のひらをユキに向ける。
「マグナム!!」
マグマの砲弾がユキに向かって放たれる。ユキはバズーカの砲弾で迎え撃つ。
『ボオオオオオンッ!!』
マグマと雪の砲弾が空中でぶつかり、大爆発を起こした。お互い砲弾を撃ち合う。辺りには無数のマグマと雪が飛び散っている。
「はぁっ…はぁっ…。」
バズーカ砲を担いでいるユキの肩が凝ってきた。マントルも魔力を無駄に消耗し、息を切らしている。
「ふぅ…キリがないな…。
ならば、これはどうだッ!!」
「マグナオンッ!!」
地面が裂け、亀裂からマグマが吹き出した。これはユキが以前防ぎきれなかった魔法だ。
ユキは氷のバズーカ砲でマグマを狙う。ボンッ!と砲弾を撃ち出すが、雪の砲弾はマグマの波に飲み込まれ、爆発を起こさずに蒸発してしまった。
「嘘でしょ…!?」
やはりマグマの波にはユキの能力が通じなかった。ユキはバズーカ砲を投げ捨てると、無数の氷の壁を自分の前に並べる。しかし。
『ジュオオオオオッ!!』
次々に溶かされ蒸発していく壁。辺りに遮蔽物はない。万事休すだった。
「こうなったら
マジ超全力…!!」
大きく息を吸うユキ。そして一気に吐き出す!
『ビュオオオオオオッ!!』
ユキはマグマに凄まじい範囲と風圧の氷の息を吹き掛ける。だが、マグマはグツグツという音を立てながらユキに迫り続けた。そして、つま先に触れそうなほど近くまで流れてきてしまった…!
(わ、私は絶対に
諦める訳にいかない…!!)
(大切な友達のために…!!)
ユキは全神経を息を吐き出すことへ集中させる。氷の息は勢いを増した。なんと、マグマの波の動きが鈍っていた。
「な…なんだと…!?」
さすがに動揺を隠しきれないマントル。次第に鮮やかなオレンジ色のマグマが黒く変色していく。
一見マグマとは相性が悪いように見えた雪女の力だったが、そう。マグマは冷えると固まるのだ。
マグマすら超える氷の力。相性は完全に逆転していた。
マグマが全て固まり、放心状態のマントル。それを尻目に、ユキは靴の裏にスケートシューズの刃のような物を形成すると、凍らせたマグマの上を颯爽と滑っていく。
「は…速…ッ!!」
速いと言い終える前にユキはもうマントルの目の前にいた。ユキの両腕には氷のグローブがはめられている。マントルも慌ててマグマのグローブで応戦する。
「うおりゃあっ!!」
「ぬああああッ!!」
青と赤、それぞれのパンチを繰り出す両者。そして、2人の動きが止まる。
…真紅の拳をかわしながら、ユキの右ストレートがマントルの顔面に突き刺さっていた…。クロスカウンターが決まった…!!
「ふっ…み、見事だ…。
………はぁ。」
マントルは最後に溜め息をつき終えると、白目を剥いて地面に倒れた。ユキは拳を掲げてガッツポーズをしていた。
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