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第1章

第47話 コンゴトモヨロシク

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 某日の昼下がり。15階の某所にて勉強会が催された。
 講師役は、ユアとユナである。
 生徒は、シュン1人だ。

・パーティ間の郵便について
・掲示板でのやり取りについて
・パーティ情報の公開方法について

 主に、この3点を中心にして行われ、神様が設置したというパーティの順位が記された石碑前に移動して実地に解説、さらにレベル15以上の全パーティが表示された石板前で"ネームド"を探し、隣に置かれた石板で依頼内容と報酬を確認する。

「郵便はどう使う?」

「たぶん、登録制」

「リーダー同士で登録し合う」

「ふうん・・?」

 よく分からないが、双子は確信がありそうな表情をしている。今2人は手作りの手帳を開いて、掲示された依頼内容をせっせと書き写していた。

「依頼を記録しているのか?」

「依頼の相場を把握する」

「騙されにくくなる」

「・・なるほど」

 何だか、妙に双子が頼もしい。不老長寿の一件では、ずいぶんと泣いていたようだったが・・。1日経って、多少は持ち直しただろうか。

(依頼をこなす必要も無いくらいに大金を持っているんだが・・)

 ただ、迷宮外の世界との繋がりを感じられるのは、どこかホッとする。

「お金を持って行けるとは限らない」

「取り上げられるかもしれない」

 双子が言った。

「そうか・・そういう可能性もあるのか」

 シュンは頷いた。
 確かに、迷宮内で稼いだ金品をそのまま持ち出せると盲信するのは危ない。迷宮を出る時に、総てを取り上げられる可能性を考えておくべきか。

「外からの依頼をこなす」

「"ネームド"の名前を売る」

「・・そうだな。そうしようか」

 シュンが素直に頷くと、ユアとユナが互いに顔を見合わせた。

「どうした?」

「迷宮から出ても一緒?」

「"ネームド"解散しない?」

 双子が心配そうに訊いて来る。

「ああ・・まだ考えていなかった。でも、そうだな・・迷宮を出たら少し旅をしようと思っている。2人共一緒に来てくれると有り難い」

 シュンは素直な気持ちを口にした。
 途端、ユアとユナが大きな眼をさらに大きく見開いて動かなくなった。

「・・どうした?」

「号泣を我慢」

「感涙を我慢」

「・・もしかして、心配していたのか?」

 シュンにもやっと双子が不安に思っていた事が理解できた。迷宮を出た途端、パーティを解散するんじゃ無いか・・そのまま置き去りにされるんじゃ無いかと心配していたらしい。

「酷いな・・俺はそんなに信用無いのか?」

 シュンは苦笑した。出会った最初の頃はともかく、今は大事なメンバーとして気にかけているのだが・・。

「ちょっと不安だっただけ」

「実は信じてた」

「ふうん・・?」

 シュンは双子の顔を疑わしげに見た。2人とも、綺麗に整った顔に照れたような笑みを浮かべている。

「どこまでもボスと一緒」

「いつまでも親分と一緒」

 双子が片手を挙げて宣誓をした。

「一つ約束して欲しい。もしも、この先・・別のパーティに行きたくなったり、探索を止めたくなった時には、面倒でも先に相談して欲しい。いきなり抜けるのは止めてくれ。俺にお前達を説得する機会を与えて欲しい。正直なところ、ユアとユナが一緒だからこそ、こうした生活を続けて居られるんだ。お前達が抜けるというのなら、俺も他の生き方を考えないといけない。よろしく頼む」

 シュンは双子を交互に見ながら頭を下げた。
 途端、

「・・イエッサー」

「・・アイアイサー」

 ユアとユナがポロポロと大粒の泪を流し始めた。そのまま、堰を切ったように号泣を始める。

(これは・・どうなった? なんで泣いてる?)

 シュンは泣きじゃくる双子を前に狼狽えるばかりだった。どうして、こうなったのか。いったい、何が悲しくて泣いているのか。

(・・女の子は難しい)

 シュンは立ち尽くしたまま、双子が泣き止むのをただ待っていた。

 5分ほど後、

「失礼した」

「すっきりした」

 双子がさっぱりと晴れやかな顔で復活した。わんわん泣いていたくせに、すっかりと晴れ渡った表情である。

「・・もう良いのか?」

 シュンは得体の知れない生き物を見る目で、ユアとユナを眺めた。少し目元を腫らしているのは手で擦ったからだろう。

「大丈夫!」

「復活宣言!」

「そうか・・なら良いが」

 またいつ泣き出すか分かったものじゃない。

(もしかして、何か変なキノコでも食べたか?)

 真面目な顔で、周囲へ視線を巡らせる。

「ボス?」

「親分?」

「ん?・・ああ、いや・・特に何も無いな」

 ざらりとした岩床に、岩壁・・頭上は3メートル足らずの高さしか無い。図体の大きな魔物には窮屈な階層だった。

(・・虫か?)

 前方から小さな物が飛来した。

「とうっ!」

「たあっ!」

 ユアとユナが出刃包丁と柳刃包丁を一閃して斬り捨てた。床に落ちたのは、蛍のような虫だった。

「虫だな」

「きっと害虫」

「爆発する」

「・・そうか?」

 シュンは斬り割られて体液を撒いた小虫を見つめた。どう見ても実質無害な甲虫のようだったが・・。

「しかし、ずいぶんと動きが良くなったな」

「技能も覚えた」

「もう能無しとは言わせない」

 双子が包丁を手に薄っすらと微笑む。

「そうか。まあ、短刀を持ち出すような事態に陥らないようにしよう」

 ダーク・グリフォンのような魔物を相手に、短刀を握って突貫とか自殺行為である。例え、どんな武技があろうと、300万のダメージを浴びせても生きている魔物が居るのだから。

「近接はやむを得ない時、相手に張り付かれた時の緊急手段だ」

「了解した」

「承知した」

 双子が包丁を収納した。代わりに、MP5SDを取り出して、ベルトで肩に吊って構え持つ。

「そう言えば、15階は魔物が少ないな」

 まだ、小鬼の亜種にしか遭遇していない。

「初心に返った」

「回帰した」

「狭所ばかりだから、あまり大型の魔物は居ないのかもな」

 歩きながら、双子が地図を描きあげていく。不気味なくらいに魔物が少ない階層だった。

(潜んでいる様子は無いし・・)

 壁や床に擬態しているわけでも無い。
 今のところ、隠し部屋も見つかっていない。

「20匹くらいか」

 15階に入ってから狩った小鬼の亜種は21体だった。14階の賑やかさを思えば、どうにも物足りない。

「右前方2時だ」

 シュンの指示を聞くなり、双子の手元でMP5SDが、トトトトトッ・・と小気味よい音を鳴らす。

 右前方に枝道があり、小鬼が待ち伏せをしていたのだ。通路を覗こうとしていた小鬼が顔を撃たれて仰け反る。そこへ、テンタクル・ウィップが襲った。床を這うように生え伸びるなり、枝道へ曲がって入り込んで襲う。

 小鬼達が驚きと恐怖に声をあげる中へ、今度は双子のXMとMKが放り込まれた。

「・・弱い魔物ばかりだ。こうなると不気味だな」

 シュンは小鬼達の死骸を検分しつつ首を傾げた。

「特別な小鬼?」

「スペシャル小鬼?」

「亜種だと思うが・・HPは5000程度だぞ?」

「微妙」

「雑魚」

 双子の顔から興味が消え失せる。
 首飾りや指輪、護符らしい物だけを拾い、他は練習を兼ねて双子の炎魔法で焼却した。

「今度は、上方・・岩に擬態中の虫だ」

 シュンが指さし、双子が撃つ。そして、テンタクル・ウィップで殴り潰した。

「蟋蟀?」

「蠍?」

「ゴキブリじゃないか?」

「触手を洗うべき」

「洗浄すべき」

「ん?・・ああ、そんな事をしなくても収納すれば・・」

「洗うべき!」

「洗浄必須!」

 双子の圧が凄い。

「・・そうか。まあ・・」

 シュンは水魔法の清浄化でテンタクル・ウィップを洗ってから収納した。

 シュンは左手の甲に浮かんだステータスを見た。


<1> Shun (633,980/1,950,000exp)
 Lv:17
 HP:59,250
 MP:52,286
 SP:680,000
 EX:1/1(30min)

<2> Yua
 Lv:17
 HP:27,880

<3> Yuna
 Lv:17
 HP:27,880


「レベルアップ以外でも、HPやMPが増えているよな?」

「体の基礎値が影響」

「打たれ強くなった」

「・・やっぱりか。神様が身体の能力値が上がったような事を言っていたけど・・」

 何となくだが、レベル以上の力を得ているような気がする。

「それでも、オグノーズホーンには勝てないな」

「あのお爺ちゃんは、無理」

「絶望しか無い」

 双子が首を振る。

「まったく、どんな化物だったんだ・・あの老人は」

 シュンは苦く笑った。

「700階がどうとか~」

「意味がワカリマセ~ン」

 ユアとユナが両手を拡げて肩を竦めた。

「あれに比べれば、黒いグリフォンは可愛いものだったな」

「異議あり!」

「2ヶ月かかった!」

 ユアとユナにとって、ポップしまくるバジリスク、コカトリスを相手にしながら、ダーク・グリフォンと死闘を繰り広げた2ヶ月間は暗黒の記憶となっていた。あの時は、エルダー・グリフォンの乱入まであったのだ。

「・・だったな。だがまあ、それでも斃したからな」

 シュンは圧され気味に後退って、詰め寄る双子を宥めつつ、ちょうど良い具合にポップした小鬼の群れを見て、ホッと安堵の息をついた。

「小鬼だ。数は・・」

 シュンが何か言う前に、双子の手榴弾が放物線を描いて投げ込まれ、MP5SDの密やかな連射音が聞こえ始めた。

「数が多いかな」

「セイクリッドォーーー」

「ハウッリングゥーーー」

 双子が白銀の光を吐き散らした。
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