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第一章

⑤ 目覚めると、最推し公爵のベッドのなかでした

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 目覚めると、そこは温かくて、ふかふかとやわらかなベッドの上だった。

「ほぁ……」

 もしかして、夢から醒めてしまったのだろうか。

 大好きなBLゲームのモブキャラになって、最推しラスボス公爵といっしょに暮らす夢。

「うぅ、ツァイトガイスト公爵とレオンのえっちシーンを見るまで、絶対に醒めたくなかったのに!」

 思わず叫んだそのとき、ふわりと鼻先を、男らしい匂いがかすめた。

 男らしいけれど、すっごくいい匂いで、きゅんって身体の奥が熱くなるような、セクシーな匂いだ。

 どこからしてるんだろう。

 くん、と匂いを嗅ぐと、その匂いのもとが近づいてきた。

「わっ、ツァイトガイスト公爵!?」

 人間のものとは思えないくらい整った、冷たい顔だち。

 ツァイトガイスト公爵の翡翠色の瞳に射抜かれ、ぼくは「ひぃっ」と小さく悲鳴をあげた。

「私とレオンのえっちがなんだって? というか、えっちってなんだ。どういう意味の言葉だ?」

 真顔で問われ、ぼくはあわあわとシーツのなかに隠れる。

「な、なんでもありませんっ……!」

 性行為をのぞき見したいなんて。そんなとんでもない願望を口にしたのがバレたら、それこそ打ち首にされちゃうと思う。

 シーツに包まってガタガタと震えるぼくから、ツァイトガイスト公爵は容赦なくシーツをはぎ取ろうとした。

「こっちを見ろ」

「む、無理。無理ですっ……」

 ぎゅっと目を閉じて顔を背けたぼくの顎を掴み、ツァイトガイスト公爵は、くいっと持ち上げる。

 あ、顎クイ!? ツァイトガイスト公爵の顎クイ!?

 ふぁああ……。またもや意識を失いそうになったぼくに、ツァイトガイスト公爵は冷ややかな声音で告げた。

「目を開けろ」

「む、無理ですっ」

「なぜだ」

 なぜって……そんなの、あなたの顔が整いすぎているからに決まってるじゃないですか。

 そんなお顔で見つめられたら、ぼくみたいなモブ、心臓が止まっちゃいます……。

 ぷるぷると震え続けるぼくを、ツァイトガイスト公爵は仰向けにベッドに押し倒す。

 い、いったいなにを……。

 この世界のぼくは、悪役令息のルディ。しかも、まだ十歳くらいの幼い子どもだ。

 まさか、そんな子どもを犯すの!? ありえないよね!? レオンっていう恋人がいるのに。なんでそんな……。

 期待と不安がない交ぜになりながら、うっすらと目を開いて公爵のようすを確認する。

 すると、公爵は真剣な眼差しで、じっとぼくを見つめていた。

 目が合うと、「じっとしていろ」と恐ろしいまでに冷たい声で命じる。

「ひぁっ……は、はい……」

 声が震えた。どうしよう。ぼく、いまから公爵に抱かれるんだ。

 公爵のモノは、とてつもない巨根だ。成人済みの主人公でさえ、始めて挿入されたときはあまりの大きさに、泣きじゃくっていた。

 こんなちっちゃな身体に、公爵のモノが本当に入るのだろうか。

 不安になったぼくに、公爵はぐっと顔を近づけてきた。そして、ぴたり、とぼくの額に、公爵の額を押し当てる。

「ほぁ……?」

 あれ、もしかして……。

 乱暴に半ズボンをはぎ取られるんじゃないかって警戒したのに。

 公爵はちっとも、ぼくの身体に触れようとしない。しばらく額をくっつけ続けた後、ホッとしたようにため息を吐いた。

「よかった。熱はないようだな」

 公爵はやさしい声でそういうと、ぼくの髪を、くしゃりと撫でた。

「長旅で疲れたのだろう。今夜はゆっくり休め」

「ぇ、あ、あのっ……」

 ベッドから飛び起きようとして、やんわりと押し戻された。

「いいから、休め、といってるだろう。ほら、寝ろ。寂しくて眠れないのなら、お前が寝るまで、私がそばについていてやる」

 ぼくの身体にタオルケットをかけ、公爵はふたたびぼくの髪を撫でた。

 とても大きな手のひら。やわやわと撫でられると、なんだかまぶたが重たくなってくる。

 寝ちゃダメ。寝たら、せっかくの夢が終わっちゃうかもしれない。

 ツァイトガイスト公爵とレオンのえっちを見るまで、絶対に目覚めないって決めたんだ。

 眠気に抗いたいのに、ぼくの髪を撫でる公爵の手のひらはとてもやさしくて、おまけに、彼の身体からはすっごくいい匂いがして、その匂いに包まれると、ぽーっとしてなにも考えられなくなってしまう。

「はぅ……」

 吸い寄せられるように、公爵の広くたくましい胸に頬をすり寄せる。

 嫌がられるかと思ったのに。公爵はぎゅっとぼくの身体を抱きしめ、ちゅ、と髪の毛ごしにキスをしてくれた。

「愛しい従甥よ。ゆっくりと休め」

 低くて甘い声で囁かれ、とろりと意識が溶けてゆく。

 まだ、えっち、見れてないのに。

 ぼくはツァイトガイスト公爵の腕に抱かれながら、ふたたび意識を手放してしまった。


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