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第五章

④ドキドキ湯浴みタイム

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 そのお屋敷の浴場は、公爵が言うとおり、とても大きく立派だった。

「ほぁ、すごい!」

『浴場』というより、『スパ』と呼びたくなるような、上品で洗練された雰囲気だ。

 鮮やかな花が咲き乱れる、緑溢れる中庭を見下ろせる開放的な空間に、プールみたいに大きな石造りの湯船が設えられている。

 マーライオンや神社の手水舎の竜のようなものだろうか。湯船の中央にはドラゴンの石像が立っており、口からどぽどぽと湯が溢れ出している。

 湯桶がないから、湯船の湯を手ですくって身体を流す。きれいに清めてから湯に入ろうとして、ぼくは、視界に入れないように必死で頑張ってきたものを、うっかり見てしまった。

 がっちりとした肩。広い背中。とても手足が長く、バランスよく鍛えられた逞しい身体。しなやかな筋肉に覆われた、ツァイトガイスト公爵の裸体だ。

「ほぁああああっ! だめ。見ちゃダメ!」

 慌てて両目を手のひらで押さえ、公爵から目をそらす。

 うぅ、背中でよかった。よかった……けど――。

 うっかり見ちゃったよ! かっこよく盛り上がった肩や背中の筋肉。無駄な肉のまったくない腰と、キュッと上向きの筋肉質な形のよいお尻。

 あわわ、推しの、おしり!

 破壊力抜群のそれは、どんなに顔を背けても、目をつぶっても、脳裏に焼きついたまま離れない。

「どうしたんですか。ルディ殿。そんな大きな声を出して」

 レオンにやさしく声をかけられ、うっかり目を開いてしまう。すると目の前には、純白の陶器みたいな、なめらかな肌をした裸体があった。

 レオンの裸体だ。

「うわぁあああっ!」

 おまけに彼のすぐ後ろには、褐色肌で長身、ムキムキマッチョなブラッツの姿。

 うぅ、見ちゃダメ。絶対に見ちゃダメって思ったのに。

 うっかり見てしまった。レオンの分身。たぶん彼が受だし。もっとささやかなものかと思ったのに。彼の股間にぶら下がったものは、驚くほど大きかった。おまけに体毛が薄いのか、くっきりとすべてが丸見えだ。

 そんなレオンのすぐそばに立つブラッツの分身は、レオンの裸体を間近にしているせいか、すっかり天を仰いでいる。

 レオンのものと、負けず劣らず大きく雄々しいモノ。猛々しいそれを、レオンが上品な口をめいっぱい開いて喉奥まで頬張る姿を想像して、ぼくは萌え死にそうになった。

「ほぁああ……」

 ふらり、と倒れそうになったぼくを、公爵が素早く抱き留める。

 ふぁっ! 推しに、全裸で抱き留められちゃった。

 うぅ、公爵の肌、つめたくて気持ちいい。溶けちゃいそう。

 だめだ。そんなの、味わってる場合じゃない。

 股間。そう、股間の、恥ずかしくなるくらいちっちゃくて、イモムシみたいなそれを、隠さなくちゃいけない。

 慌てて股間を隠そうとした瞬間、ひょいっと両脇に手を入れるようにして、抱き上げられた。

「うわぁあああ!」

 いったい、なにをされるのだろう。身構えたぼくを、くるっと反対向きにして、公爵は自分のほうに背中を向けさせる。

「ほら、ここ。やはり、星の印がある」

 王家の血を濃く引く者には必ずあるという、肩甲骨付近の、星の印。どう頑張っても、ぼくには見えないけれど。公爵だけでなく、レオンやブラッツ、アディも、ぼくの背中を見るために集まってきたみたいだ。

 この星の印に関して、公爵が皆にどこまで話したのかわからないけれど。隠しておくよりも、明かしたほうがよいと考えたのだろう。

「本当ですね。このことを、国王陛下はご存じなのですか?」

 レオンは、この星の印が王族の血を濃く引く証だということを知っているかのような口ぶりで、公爵に尋ねた。

「いや。あの男のことだ。知っていたら、とっくにルディを自分のものにしていただろう」

 ぼくを湯船に降ろすと、公爵は、ぼくの肩甲骨に指先で触れる。

「ぁっ……!」

 くすぐったくて、思わず変な声が出ちゃった。ぼくは慌てて、両手で口を押さえた。

「レオン。一時的でいい。お前の魔法で、この印を消せるか?」

 魔法? レオンは魔法を使えるの!?

 そんなの、全然ゲームには出てこなかった設定だ。

「やってみますが、難しいと思います。仮にこれがドラゴンに由来するものだとすれば、人や獣に、どうこうできるものではないでしょう」

 レオンが呪文を唱える声が聞こえる。

 肩甲骨のあたりが、じんわり熱くなった。

「やはり無理そうです。可能なかぎり、ルディ殿の身体を誰にも見せないようにする。それ以外、ないかもしれません」

 レオンの言葉を聞き、公爵が、「うむ」とちいさく唸る。

 次の瞬間、ちゅ、とやわらかな唇の感触が、ぼくの素肌に触れた。

「ほぁっ!」

「こ、公爵、いったいなにをしているのですか。ルディ殿は、まだ十歳なのですよ!?」

 びっくりして叫び声を上げたぼく以上に、レオンの声のほうが大きかった。

「別に、いやらしい意味でしたわけじゃない。――ルディの生い立ちを思うと胸が傷んで、こうせずにはいられなかったんだ」

 ふわりと、背中から抱きしめられる。

 もしかしたら、公爵がぼくを引き取り、やさしくしてくれたのは、生い立ちに対する、哀れみのせい……?

 そんなふうに思うと、なんだかちょっと悲しい気持ちになってくる。

 ぼくを抱く公爵の腕が、心なしか、かすかに震えているように感じられた。
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