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第六章
②にゃんこ変身大作戦
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夜明け前だと言うのに。そっと窓の外を覗き見ると、館の出入り口は甲冑をまとった衛兵たちに警護されていた。
「どうしよう。これ、どうやって抜け出すの?」
勝手に外に出たら、掴まってしまうのではないだろうか。
不安になったぼくに、レオンはにっこりと笑顔を向ける。
「問題ありません。獣になればいいんですよ」
レオンの頭の上にある獣耳が、ピクピクと揺れている。もしかしたら、レオンは獣に変身できるのだろうか。
「レオンはそれでいいかもしれないけど。ぼくは……ひぁっ!」
ひゅるん、と高い場所から一気に突き落とされた感覚がした。びたん、と床にほっぺたをぶつけ、火花が散ったような衝撃が走る。
「あぅ、痛いっ……」
ほっぺたを押さえると、もふっと謎の感触がした。
「もふ……? なんで?」
こんな場所に毛が生えているわけがないのに。何度触っても、ぼくのほっぺたはもふもふしている。
「え、ちょっと待って。なに、これ!?」
不思議に思い、手のひらを見下ろすと、そこには、かわいらしい薄ピンク色の、ぷにっぷにの肉球つきのちっちゃな手のひらが見えた。
「しー、静かに。説明は後です。とりあえず、行きますよ、ルディ」
声のするほうを見ると、毛足の短い、凜とした印象の純白のにゃんこが立っていた。
「もしかして、レオン?」
レオンの獣耳は薄茶色。それなのに、目の前のにゃんこは、真っ白くてふわふわの毛に覆われている。
「ええ、そうですよ」
「レオンって、にゃんこだったの? もっとおっきな獣かと思ってた」
「獣なら、どんな獣にもなれるのです。ほら、行きますよ!」
ぴしっとレオンの白いしっぽで叩かれ、ぼくは彼の後を追いかける。
四つ足で走るのは初めてだから、ちょっと変な感じだ。
しばらく廊下を駆けていくと、屈強そうな衛兵が立つ、エントランスホールに辿り着いた。
「見つかったら、まずいよね?」
「あの窓から逃げましょう。少し高いですけど。ジャンプすれば、飛び乗れるはずです」
レオンはエントランスから少し離れた場所にある窓を、あごで差し示す。
かなり高さがある。人間の姿でも、10歳児だと届かなさそうな高さだ。
「手本を見せます」
すたたっとダッシュして、レオンは窓枠に飛び乗る。ふわりと舞い上がるみたいに飛んで、音もなく着地した。美しいその姿に見蕩れていると、「早く」と急かされた。
「うぅ、行きますっ!」
怖い。だけど、怯んでいる場合じゃない。助走をつけて、えいっと飛び上がる。
あとちょっと。ほんの少しだけ、高さが足りなかった。前足で踏ん張ろうとしたけれど、窓枠に届かない。
床に落ちそうになったぼくの首根っこを、ムートが素早く咥えてくれた。
「危なっかしくて、見ておれぬわ」
「行きますよ、ルディ殿」
換気のために細く開いた窓の隙間に身体を滑り込ませ、レオンは、ぴょんっと華麗に飛び降りて地面に着地する。真似をしようとして、ぼくは、どすんと尻餅をついた。
「にゃんこになったからって、自動的に運動神経がよくなるわけじゃないんだね……」
痛む尻をさすり、先を行くレオンを追いかける。
館の外にも衛兵がいたけれど、誰もぼくらを不審な目で見ることはなかった。
「ぼくらは猫だから、ただの野良猫に見えるのかもしれないけど。ムートは赤ちゃんドラゴンなんだし、見かけたらみんな、大騒ぎしそうなものだけどね」
不思議に思い首をかしげたぼくに、ムートが答える。
「魔法で姿を消しておるから、周りの人間には、我の姿が見えぬのだ」
ふん、と偉そうにムートは胸を張った。
「ムート、そろそろお願いできませんか。あの東屋の陰で、ねずみになります」
レオンに請われ、ムートは「任せておけ」と頷く。
いったい、なにをするつもりなのだろう。
不安になりながらレオンについていくと、またもやしゅるんと身体が小さくなった。
「ほぁ、今度は、ねずみ……!?」
目の前には、レオンと思しき、まっしろなねずみがいる。おそらくぼくも、同じような姿をしているのだろう。
ねずみレオンは機敏な動きでムートに飛び乗ると、「早く、ルディ殿も乗ってください!」と前足を差し出してくる。
ぼくはレオンみたいにかっこよくジャンプできなくて、情けなくよじよじとムートの身体によじ登る羽目になった。
「どうしよう。これ、どうやって抜け出すの?」
勝手に外に出たら、掴まってしまうのではないだろうか。
不安になったぼくに、レオンはにっこりと笑顔を向ける。
「問題ありません。獣になればいいんですよ」
レオンの頭の上にある獣耳が、ピクピクと揺れている。もしかしたら、レオンは獣に変身できるのだろうか。
「レオンはそれでいいかもしれないけど。ぼくは……ひぁっ!」
ひゅるん、と高い場所から一気に突き落とされた感覚がした。びたん、と床にほっぺたをぶつけ、火花が散ったような衝撃が走る。
「あぅ、痛いっ……」
ほっぺたを押さえると、もふっと謎の感触がした。
「もふ……? なんで?」
こんな場所に毛が生えているわけがないのに。何度触っても、ぼくのほっぺたはもふもふしている。
「え、ちょっと待って。なに、これ!?」
不思議に思い、手のひらを見下ろすと、そこには、かわいらしい薄ピンク色の、ぷにっぷにの肉球つきのちっちゃな手のひらが見えた。
「しー、静かに。説明は後です。とりあえず、行きますよ、ルディ」
声のするほうを見ると、毛足の短い、凜とした印象の純白のにゃんこが立っていた。
「もしかして、レオン?」
レオンの獣耳は薄茶色。それなのに、目の前のにゃんこは、真っ白くてふわふわの毛に覆われている。
「ええ、そうですよ」
「レオンって、にゃんこだったの? もっとおっきな獣かと思ってた」
「獣なら、どんな獣にもなれるのです。ほら、行きますよ!」
ぴしっとレオンの白いしっぽで叩かれ、ぼくは彼の後を追いかける。
四つ足で走るのは初めてだから、ちょっと変な感じだ。
しばらく廊下を駆けていくと、屈強そうな衛兵が立つ、エントランスホールに辿り着いた。
「見つかったら、まずいよね?」
「あの窓から逃げましょう。少し高いですけど。ジャンプすれば、飛び乗れるはずです」
レオンはエントランスから少し離れた場所にある窓を、あごで差し示す。
かなり高さがある。人間の姿でも、10歳児だと届かなさそうな高さだ。
「手本を見せます」
すたたっとダッシュして、レオンは窓枠に飛び乗る。ふわりと舞い上がるみたいに飛んで、音もなく着地した。美しいその姿に見蕩れていると、「早く」と急かされた。
「うぅ、行きますっ!」
怖い。だけど、怯んでいる場合じゃない。助走をつけて、えいっと飛び上がる。
あとちょっと。ほんの少しだけ、高さが足りなかった。前足で踏ん張ろうとしたけれど、窓枠に届かない。
床に落ちそうになったぼくの首根っこを、ムートが素早く咥えてくれた。
「危なっかしくて、見ておれぬわ」
「行きますよ、ルディ殿」
換気のために細く開いた窓の隙間に身体を滑り込ませ、レオンは、ぴょんっと華麗に飛び降りて地面に着地する。真似をしようとして、ぼくは、どすんと尻餅をついた。
「にゃんこになったからって、自動的に運動神経がよくなるわけじゃないんだね……」
痛む尻をさすり、先を行くレオンを追いかける。
館の外にも衛兵がいたけれど、誰もぼくらを不審な目で見ることはなかった。
「ぼくらは猫だから、ただの野良猫に見えるのかもしれないけど。ムートは赤ちゃんドラゴンなんだし、見かけたらみんな、大騒ぎしそうなものだけどね」
不思議に思い首をかしげたぼくに、ムートが答える。
「魔法で姿を消しておるから、周りの人間には、我の姿が見えぬのだ」
ふん、と偉そうにムートは胸を張った。
「ムート、そろそろお願いできませんか。あの東屋の陰で、ねずみになります」
レオンに請われ、ムートは「任せておけ」と頷く。
いったい、なにをするつもりなのだろう。
不安になりながらレオンについていくと、またもやしゅるんと身体が小さくなった。
「ほぁ、今度は、ねずみ……!?」
目の前には、レオンと思しき、まっしろなねずみがいる。おそらくぼくも、同じような姿をしているのだろう。
ねずみレオンは機敏な動きでムートに飛び乗ると、「早く、ルディ殿も乗ってください!」と前足を差し出してくる。
ぼくはレオンみたいにかっこよくジャンプできなくて、情けなくよじよじとムートの身体によじ登る羽目になった。
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