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第二幕
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港へと帰ってきた艦隊に大きな声援が送られた。その中には二郎の姿もあった。しかし、二郎は何か些細な恐怖心を覚えていた。ここまで日本の勝利を疑うことのなかった二郎の心にうっすらと霧がかかったような不透明感があった。だが、二郎はただの杞憂だよと思った。自分も疲れていて、この不安感もそこからくるものだと思い込んだ。
それから、二ヶ月後のことである。この時になると、大和はトラック諸島に停泊していた。そんな時に、ソロモン沖海戦が勃発した。敵国がソロモン諸島のガダルカナル島に海兵隊を上陸させたのが始まりだと二郎は風の噂で耳にした。二郎は一気に不安になった。何か妙な胸騒ぎがした。その正体は二郎本人はおろか、誰も気付くことができなかった。
大和はトラックに向かっていた。日本本土に残る重油が不足気味となったからである。もちろんこの事は、国民の知る由ではない。もしもこの事が公になれば、パニックが起こり、停戦の声が大きくなることは容易に想像できるからである。しかし、戦艦が3隻も待機という不可解な状況に秘かに噂になった。そんな時、大和はトラック諸島に到着した。しかし、大量に重油を消費する大和は泊地に投錨したまま、9ヶ月間全く動くこともなく将兵達から「大和ホテル」と呼ばれるようになってしまったのである。それでも、大和乗組員達はなにもしなかったわけではない。第三戦隊におけるヘンダーソン飛行場砲撃および、第三次ソロモン沖海戦において砲台長自ら観測班としてガダルカナル島に上陸している。決して自分達が乗る艦が動かないからといって、何もしていないわけではない。皆が自分に出来ることを探して挑んだ海戦だった。だが、事態は好転しなかった。ここで日本は2度目の敗戦を決した。
その後、大和は1回、二郎の待つ港へと帰港した。二郎はその姿に懐かしさを覚えた。9ヶ月の別れがあったのだ。無理もない。そして、二郎はあの頃と変わらぬ夢を持ち続けていた。そして二郎と大和は、激動の昭和19年を迎えることになる。
翌年、二郎は学校の最高学年になった。その時の二郎は、確実に自分の夢への道を歩んでいた。勉学、運動共に人一倍努力し、先生からの信頼も厚かった。もちろん、そんな二郎のことが、母親も自慢だった。何もかもが上手くいっているように思えた。しかし、亀裂は確実に入り始めていた。二郎に対する称賛の声とは裏腹に、妬みや嫉妬の声が混じり始めたのである。最初は気にする必要もなかったのだが、徐々に今まで近くにいた友人までもが
「あいつには才能があるから。」
「努力しても天才には勝てない。」
等の陰口や小言を漏らすようになった。そして二郎は、孤立していった。まるで、自分がなんの努力もしていない様な口ぶり虚しくなった。自分が何の為に頑張ってきたのか分からなくなり、今まで嬉々として取り組んできた物事が、手につかなくなってしまった。そんな二郎の姿を見かねた母親が二郎に向かって
「あんたにとって、あの夢はそんなことで崩れるものだったのか!!そんなことで、崩れる夢なら捨ててしまえ!!」
と怒鳴られた。普段、声を荒げることのない母親の豹変ぶりに二郎は、目を点にした。そして、今まで自分がしてきたことを振り返ってみた。何一つとして、手を抜いたことはなかった。もしもここで夢を諦めることがあれば、それは今までの努力してきた自分を裏切ることに他ならない。そして何より一生後悔することを、二郎は悟った。
「それだけは嫌だ。」
二郎は自らを律するように答えた。そして、二郎は何があっても夢を諦めないことを自分の心に誓った。
それから、二ヶ月後のことである。この時になると、大和はトラック諸島に停泊していた。そんな時に、ソロモン沖海戦が勃発した。敵国がソロモン諸島のガダルカナル島に海兵隊を上陸させたのが始まりだと二郎は風の噂で耳にした。二郎は一気に不安になった。何か妙な胸騒ぎがした。その正体は二郎本人はおろか、誰も気付くことができなかった。
大和はトラックに向かっていた。日本本土に残る重油が不足気味となったからである。もちろんこの事は、国民の知る由ではない。もしもこの事が公になれば、パニックが起こり、停戦の声が大きくなることは容易に想像できるからである。しかし、戦艦が3隻も待機という不可解な状況に秘かに噂になった。そんな時、大和はトラック諸島に到着した。しかし、大量に重油を消費する大和は泊地に投錨したまま、9ヶ月間全く動くこともなく将兵達から「大和ホテル」と呼ばれるようになってしまったのである。それでも、大和乗組員達はなにもしなかったわけではない。第三戦隊におけるヘンダーソン飛行場砲撃および、第三次ソロモン沖海戦において砲台長自ら観測班としてガダルカナル島に上陸している。決して自分達が乗る艦が動かないからといって、何もしていないわけではない。皆が自分に出来ることを探して挑んだ海戦だった。だが、事態は好転しなかった。ここで日本は2度目の敗戦を決した。
その後、大和は1回、二郎の待つ港へと帰港した。二郎はその姿に懐かしさを覚えた。9ヶ月の別れがあったのだ。無理もない。そして、二郎はあの頃と変わらぬ夢を持ち続けていた。そして二郎と大和は、激動の昭和19年を迎えることになる。
翌年、二郎は学校の最高学年になった。その時の二郎は、確実に自分の夢への道を歩んでいた。勉学、運動共に人一倍努力し、先生からの信頼も厚かった。もちろん、そんな二郎のことが、母親も自慢だった。何もかもが上手くいっているように思えた。しかし、亀裂は確実に入り始めていた。二郎に対する称賛の声とは裏腹に、妬みや嫉妬の声が混じり始めたのである。最初は気にする必要もなかったのだが、徐々に今まで近くにいた友人までもが
「あいつには才能があるから。」
「努力しても天才には勝てない。」
等の陰口や小言を漏らすようになった。そして二郎は、孤立していった。まるで、自分がなんの努力もしていない様な口ぶり虚しくなった。自分が何の為に頑張ってきたのか分からなくなり、今まで嬉々として取り組んできた物事が、手につかなくなってしまった。そんな二郎の姿を見かねた母親が二郎に向かって
「あんたにとって、あの夢はそんなことで崩れるものだったのか!!そんなことで、崩れる夢なら捨ててしまえ!!」
と怒鳴られた。普段、声を荒げることのない母親の豹変ぶりに二郎は、目を点にした。そして、今まで自分がしてきたことを振り返ってみた。何一つとして、手を抜いたことはなかった。もしもここで夢を諦めることがあれば、それは今までの努力してきた自分を裏切ることに他ならない。そして何より一生後悔することを、二郎は悟った。
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