琥珀色の秘密〜ウィスキーとお惣菜の癒し時間〜

山いい奈

文字の大きさ
12 / 38
2章 それは、あなたなんです

第7話 歓迎したいから

しおりを挟む
「4等分?」

 お兄ちゃんがきょとんとする。たもつさんも首を傾げ、出口でぐちさんはおろおろしている。

「そう。ここにいる4人で4等分。もちろんお兄ちゃんとわたしからはポケットマネーで。私ら3人は出口さんを歓迎したい、でも出口さんは支払わせるんが心苦しい。それやったら、みんなで払ったらええんよ」

 出口さんに好感を抱いているのは、那津なつもなのだ。出口さんは不器用な人なのかも知れない。それでもなんだか放っておけない雰囲気を持っている。出口さん自身は誰かに頼ろうだとかそんなことはきっと考えていない。ただ少し引っ込み思案で、真面目な人なのだ。

「せやな!」

 お兄ちゃんがにかっと笑う。

「みんなで払お! なっちゃんさすが、おれの妹」

「へへ」

 那津は嬉しくなってはにかんでしまう。お兄ちゃんに認められることが嬉しいのだ。

「でも、それも申し訳ないよ。あたし、自分で」

 出口さんは言うが、保さんが「せやな」と頷く。

「4等分ええな。そうしようや、出口さん。それでおれらの気も済むんやから」

「えええ……」

 出口さんは戸惑いながら、それでもうんうんと考えて。

「じゃ、じゃあ、この1本だけ、お願いして、ええかな」

「うん」

 保さんが柔らかく微笑むと、出口さんはほっとしたように口元をほころばせた。

松比良まつひらくんて、思ってた以上に話しやすいんやね」

「そう? 嬉しいわ。それやったらたまに話し相手になってくれたら助かる。ほたるもなっちゃんも、ぼくにばっかり構ってられへんから」

「うん。こちらこそよろしくね」

 ふたりの間にほのぼのとした空気が流れる。穏やかな人同士、気が合うのだろうなと思う。お兄ちゃんさえよければ、このふたりのお友だちとしての関係はありなのかも知れない。

「蛍、「バランタイン」で出口さんになんか飲みやすいん作ったげてや。やっぱりハイボールやろか?」

「それよかコークハイかな。出口、コーラは飲めるか?」

「うん、結構好き」

 那津は、出口さんを強い人だな、と思っていた。のんびりしているようで、実際もそうなのかも知れないが、先週のことがあって、それでもこうして来てくれているのだから。例えファンクラブのことがあったとしても。

「コークハイは、ウィスキーをコーラで割るねん。せやからめっちゃ飲みやすくなるんやわ。飲んでみるか?」

「うん」

「よっしゃ」

 お兄ちゃんはタンブラーを出すと、用意しておいたアイスペールから氷を入れ、「バランタイン」を注ぎ、冷蔵庫から出したコーラで満たしてマドラーで混ぜる。それをコースターを添えて出口さんの前に置いた。

「はい、どうぞ」

「ありがとう」

 出口さんはコークハイを両手で持ち、ゆっくりと口を付けて傾ける。そして「ん」と目を丸くした。

「めっちゃ美味しい。飲みやすいね、これ」

 驚いたように言って、顔を上げた。お兄ちゃんがにやりと口角を上げる。

「せやろ。ジンジャーエールで割るレシピもあるわ、ジンジャーハイっちゅうねん。それもまたな。ま、酒は無理に飲むもんちゃうわ。美味く楽しく。それが鉄則やて、おれは思ってるから」

「うん。あたし、ウィスキーって嫌いやもちろんないんよ。でもちょっと大人な味で、あたしには早いんかなぁって思ってたけど、割るもんでこんなに変わるんやね。ジンジャーハイも今度飲んでみたいわぁ」

 出口さんの顔が嬉しそうに輝いている。ああ、楽しそうだ。そう、お酒は楽しく飲んで欲しい。この「ウィスキーバー TOMOトモ」ではよい時間を過ごして欲しいのだ。

「おれももっと早よぅ気付けばよかったわ。出口、ソフトドリンク以外はずっとハイボールやったから、好きなんかと思ってた」

「ぼくも。ソフトドリンク挟むんは、長時間に耐えるためやって思ってたし」

「あんまウィスキーの飲み方を知らんくて。ハイボールやったら大丈夫かと思ったんやけど、やっぱりウィスキーの味がしっかりするから」

「飲み慣れん人にとってはそうやろな。うちはソフトドリンクもいろいろあるし、ウィスキーで作れるカクテルも何個かあるから、いつでも言うてくれ」

「ありがとう」

 出口さんと保さんとお兄ちゃん、同級生3人の間に流れる、気安くて和やかな空気感。羨ましいな、なんて、那津は思う。お兄ちゃんたちと同じ高校に行っておけばよかったな、なんて思ってしまう。学年は違うけれども。

 同じ高校だったら、お兄ちゃんが保さんと部活に励んでいた姿とか、保さんがファンクラブに応援されたり囲まれたりしているのを見れたのかな、と思うと、惜しかったような、そうでもないような。

 お兄ちゃんたちは楽しそうに笑いあっている。那津は微笑ましい気持ちになる。

 ふと奥のスイを見ると、片目を出してこっそりとこちらを伺っている。

「にゃあ」『これでよかったんか?』

 もちろん。那津は小さく頷いたのだった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

とくら食堂、朝とお昼のおもてなし

山いい奈
キャラ文芸
25歳の都倉碧は、両親と一緒に朝昼ごはんのお店「とくら食堂」を営んでいる。 やがては跡を継ぐつもりで励んでいた。 そんな碧は将来、一緒に「とくら食堂」を動かしてくれるパートナーを探していた。 結婚相談所に登録したり、紹介してもらったりしながら、様々な男性と会うのだが? 前職でのトラブルや、おかしなお見合い相手も乗り越えて。 25歳がターニングポイントになるのか。碧の奮闘記です。

冷たい舌

菱沼あゆ
キャラ文芸
 青龍神社の娘、透子は、生まれ落ちたその瞬間から、『龍神の巫女』と定められた娘。  だが、龍神など信じない母、潤子の陰謀で見合いをする羽目になる。  潤子が、働きもせず、愛車のランボルギーニ カウンタックを乗り回す娘に不安を覚えていたからだ。  その見合いを、透子の幼なじみの龍造寺の双子、和尚と忠尚が妨害しようとするが。  透子には見合いよりも気にかかっていることがあった。  それは、何処までも自分を追いかけてくる、あの紅い月――。

あやかし警察おとり捜査課

紫音みけ🐾新刊2月中旬発売!
キャラ文芸
※第7回キャラ文芸大賞にて奨励賞を受賞しました。応援してくださった皆様、ありがとうございました。 【あらすじ】  二十三歳にして童顔・低身長で小中学生に見間違われる青年・栗丘みつきは、出世の見込みのない落ちこぼれ警察官。  しかしその小さな身に秘められた身体能力と、この世ならざるもの(=あやかし)を認知する霊視能力を買われた彼は、あやかし退治を主とする部署・特例災害対策室に任命され、あやかしを誘き寄せるための囮捜査に挑む。  反りが合わない年下エリートの相棒と、狐面を被った怪しい上司と共に繰り広げる退魔ファンタジー。  

烏の王と宵の花嫁

水川サキ
キャラ文芸
吸血鬼の末裔として生まれた華族の娘、月夜は家族から虐げられ孤独に生きていた。 唯一の慰めは、年に一度届く〈からす〉からの手紙。 その送り主は太陽の化身と称される上級華族、縁樹だった。 ある日、姉の縁談相手を誤って傷つけた月夜は、父に遊郭へ売られそうになり屋敷を脱出するが、陽の下で倒れてしまう。 死を覚悟した瞬間〈からす〉の正体である縁樹が現れ、互いの思惑から契約結婚を結ぶことになる。 ※初出2024年7月

黄泉津役所

浅井 ことは
キャラ文芸
高校入学を機にアルバイトを始めようと面接に行った井筒丈史。 だが行った先は普通の役所のようで普通ではない役所。 一度はアルバイトを断るものの、結局働くことに。 ただの役所でそうではなさそうなお役所バイト。 一体何をさせられるのか……

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか? そのほかに外伝も綴りました。

あまりさんののっぴきならない事情

菱沼あゆ
キャラ文芸
 強引に見合い結婚させられそうになって家出し、憧れのカフェでバイトを始めた、あまり。  充実した日々を送っていた彼女の前に、驚くような美形の客、犬塚海里《いぬづか かいり》が現れた。 「何故、こんなところに居る? 南条あまり」 「……嫌な人と結婚させられそうになって、家を出たからです」 「それ、俺だろ」  そーですね……。  カフェ店員となったお嬢様、あまりと常連客となった元見合い相手、海里の日常。

神木さんちのお兄ちゃん!

雪桜 あやめ
キャラ文芸
✨ キャラ文芸ランキング週間・月間1位&累計250万pt突破、ありがとうございます! 神木家の双子の妹弟・華と蓮には"絶世の美男子"と言われるほどの金髪碧眼な『兄』がいる。 美人でカッコよくて、その上優しいお兄ちゃんは、常にみんなの人気者! だけど、そんな兄には、何故か彼女がいなかった。 幼い頃に母を亡くし、いつも母親代わりだったお兄ちゃん。もしかして、お兄ちゃんが彼女が作らないのは自分達のせい?! そう思った華と蓮は、兄のためにも自立することを決意する。 だけど、このお兄ちゃん。実は、家族しか愛せない超拗らせた兄だった! これは、モテまくってるくせに家族しか愛せない美人すぎるお兄ちゃんと、兄離れしたいけど、なかなか出来ない双子の妹弟が繰り広げる、甘くて優しくて、ちょっぴり切ない愛と絆のハートフルラブ(家族愛)コメディ。 果たして、家族しか愛せないお兄ちゃんに、恋人ができる日はくるのか? これは、美人すぎるお兄ちゃんがいる神木一家の、波乱万丈な日々を綴った物語である。 *** イラストは、全て自作です。 カクヨムにて、先行連載中。

処理中です...