異世界もふもふ食堂〜僕と爺ちゃんと魔法使い仔カピバラの味噌スローライフ〜

山いい奈

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#101 鰹節を作ろう。その3

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 さて、出来たなまり節を鰹節かつおぶしにするには、いぶし熱さねばならない。

 この村ではベーコンを作っていて、燻製くんせいが出来る施設はある。食堂では燻製が出来る器具が無いので、借りなければならない訳だが。

「牧場に燻製小屋があるカピよ。牧場にも調理師免許を持ってる村人がいるカピ。そこで屠殺とさつしてさばいて、燻製にしたり干し肉にしたりしているカピ。その燻製小屋を借りるカピ」

「なるほどなー。そっか、外だったら人の眼もあるだろうし、サユリの時間魔法は使って貰えないな。10日ぐらい、まめに燻製小屋に通わなきゃ」

「10日……そんなに掛かるカピか」

「うん。10日程、3時間ぐらい燻して、1日外に置いて、を繰り返すんだ」

 サユリは考える様に眸を閉じる。数秒後眼を開き、頷く。

「壱、卵を持って来るカピ。そうカピな、4つもあれば良いカピか」

「え、卵?」

 脈絡の無い話をされ、壱は間抜けな返しをしてしまう。

「良いから持って来るカピ」

「う、うん」

 問答無用に言われ、壱は厨房に降りて冷蔵庫から卵を4個出し、首を傾げながら2階に戻る。

「持って来たけど」

「では、それを茹で卵にするカピ。茹で加減はやはりやや半熟が好ましいカピ」

「わ、解った」

 壱は鍋に水を張ると卵を入れ、火に掛けた。

「何分茹でるカピ?」

「沸騰してから5分ぐらいってとこかな」

「ふむ」

 サユリが右前足を上げ、動かす。

「出来たカピ」

「ありがとう。これはからいちゃって良いの?」

「良いカピ」

 湯を零し、幾度か水を入れ替えて冷ますと、殻を剥いて行く。新鮮な卵なのでなかなか剥きにくい。殻に穴が開けられれば良かったのだが、器具も無かったので仕方が無い。

「出来たよ、茹で卵」

「うむ。ではその卵と鰹を持って、燻製小屋に行くカピよ」

「え、卵どうするの? 一緒に燻製にするの? 食べたいの?」

「良いから行くカピよ」

 茹で卵の意味が判らずやや狼狽うろたえる壱を余所よそに、サユリは下に降りようとする。壱はそれぞれのトレイに乗せたなまり節と茹で卵を手に、後を追った。



 さて、牧場に到着。敷地に入り、サユリが進む方に壱は大人しく付いて行く。

 奥の小屋の近くにいた村人に、サユリが声を掛ける。

「マゼラ、少し良いカピか?」

 女性だった。明るいブラウンのロングヘアを、耳の下から緩い三つ編みにしている。やや目尻が下がった温和そうな表情。声を掛けられ、柔らかな笑顔を浮かべた。

「あら、サユリさん。どうしました?」

「燻製小屋を借りたいのだカピ。この時間なら動いていると思ったのだカピが。30分もあれば良いのだカピ」

「ええ。動いてますよ。使ってください。何を作られるんですか?」

「茹で卵カピ。急に食べたくなったカピ」

「ああ! 茹で卵の燻製美味しいですよねぇ!」

 マゼラは嬉しそうに両手を叩いて鳴らす。しかしすぐに真剣な表情になると。

「あ、ご承知でしょうが、ドアの開閉にはご注意くださいね」

「大丈夫だカピ。心配無いカピ」

 サユリが言うと、マゼラは小さく笑って言った。

「はい。実は全然心配してません」

 そう笑って言い残すと、マゼラはふわりと去って行った。

 しかし、マゼラ、マゼラ。どこかで聞き覚えのある名前なのだが。

 壱が首を傾げていると、サユリが口を開く。

「以前、シェムスとボニーのごたごたがあったのを覚えているカピか? マゼラはシェムスにちょっかいを掛けられて、ボニーに浮気相手と勘違いされた子カピ」

「あ、ああ!」

 そうだ。あの修羅場の時に、ボニーが口走っていた女性の名前である。もうひとりいたが、今は思い出せない。また会う機会もあるだろう。

 確かにマゼラのあのふんわりとした雰囲気は、男性に人気が出そうだ。

「では、行くカピよ」

 サユリが小屋の前で鼻を鳴らす。壱がそっとドアを開けると、熱気が顔にぶつかり、良い香りが鼻を突いた。

「早く入って早く閉めるカピ」

 サユリに言われ、壱は素早く中に入り、慌ててドアを閉める。

 咳き込みそうな煙と香りの中で、壱は涙が出そうになる。

「卵は適当に置きっ放しにするカピ。鰹に時間魔法を掛けるカピ。うむ、終わったカピ」

「もう!?」

「早く外に出るカピ」

 あまりにも一瞬にも近い事で、壱は慌てる。ドアを小さく開け、鰹のトレイを手に外に転がり出る。卵は手近な棚に置いて来た。

 外は澄んだ空気。壱は大きく深呼吸をする。

「で、鰹は1日普通の空気に置けば良いカピな?」

「う、うん、そう」

 サユリが右前足を上げる。

「終わったカピ。また中に入るカピよ」

「う、うん!」

 これを10日分繰り返す。時折咳き込みながら、だが燻製小屋内では我慢して、やっと終わった時には、壱は大きく深呼吸した。

「はー! 空気が綺麗だー!」

 目的は鰹節作成だったのだが、なかなかに過酷な環境に置かれて忘れそうになっていた。

 しかし一緒に動いていたサユリは平気な顔。

「サユリはあの煙の中にいて大丈夫だったの?」

「我には魔法があるカピ。煙たくならないし、匂いも付かないカピ」

「なら俺も守ってよ~」

 壱は肩を落とす。しかし手元の鰹を見ると、濃く色付き、そして指で弾くとしっかりと固く乾いた音がする。これは鰹節の完成なのでは無いか。

 ちゃんと中心まで乾燥していると良いのだが。それは外から見ても判らない。

「サユリ、これ中まで乾燥してるかどうかって判る?」

 一か八かで訊いてみる。するとサユリは眼を細め、頷いた。

「大丈夫カピ。しっかり中まで堅いカピよ」

 そんな事まで判るのか。本当にサユリの魔法は凄い。

「じゃあ、鰹節の完成だ! やった!」

 壱は嬉しくなって声を上げた。これで昆布と鰹の出汁で味噌汁が飲める。和食ももっと作れるだろう。
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