異世界もふもふ食堂〜僕と爺ちゃんと魔法使い仔カピバラの味噌スローライフ〜

山いい奈

文字の大きさ
61 / 190

#61 味噌にぎり串と手作りマヨネーズ。その1

しおりを挟む
 翌朝、また壱は茂造より早く起きる。サユリに増やしてもらい、また米が豊富になっていた。前日の晩から水に浸けておいた分を炊く。

 次に鍋に湯を沸かして塩を入れ、ブロッコリを茹でる。

 卵焼きを焼く。今日も塩味である。焼きあがったらまな板に上げて、切りやすくなる様に寝かせて置く。

 ブロッコリが茹で上がったので、ザルで丘上げにしておく。余熱で火を通すのである。

 米が炊き上がったら蒸らし、解したら、擂り粉木すりこぎを手にする。普段食堂でバジルソースを作る時に使っているものである。

 それで米を潰して行く。全てでは無く、半分程が潰れた、粒が残る状態を目指す。その状態を半殺しと言うらしい。なかなか物騒な呼び方である。

 なかなか時間が掛かるものである。力も要る。壱はやや呼吸を荒くしながら、擂り粉木を押し付けて行った。

「こんなもんかな?」

 初めて作るものなので加減が判らないが、多分大丈夫だろう。

 次に木製のマドラーを取り出し、2本束ねて、潰した米を握りながら付けて行く。割りばしを使いたいところだが無いので、代わりである。

 半殺しにしている内に冷めているので、充分手で触れる温度になっている。

 米が小判形になる様に形造り、まな板の空いている部分に置いて少し乾かす。

 その間にタレ作りである。と言っても簡単なものだ。味噌に砂糖を練り込み、水少々で軽く伸ばすだけである。

 味噌はサユリの魔法で発酵を止めて貰える事になったので、2階のキッチンで保存する事にした。

 さて、作っているのは、味噌にぎりの様な、五平餅ごへいもちの様な。

 味噌握りにするには焼くときに必要な網が無い。五平餅にするには胡桃が無い。なので、それぞれの出来る部分を取ったのだ。

 米の表面が乾いて来たので、裏返してまた乾かす。その間に卵焼きを切り、皿に盛る。

 鍋などの洗い物も手際良く済ませ。

 米が両面乾いたので、左手にひとつ、右手にふたつ持って、コンロの直火で焼いて行く。

 火に当たる箇所かしょを変えながら、両面に軽く焼き目を付けて行く。それが終わると、片面に味噌ダレをたっぷりと塗り、また直火に掛けて行く。今度はしっかりと焦げ目を付ける。

 焼けたら、もう片面にも味噌ダレを塗り、また炙って行く。

 そろそろ茂造が起きて来てくれないだろうかと思う。時計を見ると、起床予定時間まで後5分程。温かい状態で食べて欲しいので、後で温めるとするか。

 一旦いったん上げて、皿に置いて置く。

 その時に、カルパッチョのソースに使っているレモンが厨房にある事を思い出した。壱は慌てて取りに行き、横に半分に切っておく。

 ボウルに卵を割り、泡立て器でしっかりと解す。そこにオリーブオイルを少しずつ加えながら撹拌かくはんして行く。

 卵の鮮やかな黄色がカスタードクリームの様な色になったらレモンを絞って入れ、更に混ぜる。

 作っているのはマヨネーズである。本来なら卵は黄身だけを使うのだが、白身の使い所が今は無い。処分してしまうなんてとんでも無いし、併せて使うのは当たり前の事である。

 卵焼きを作る前に思い付いていれば、そちらに加える事も出来たのだが。

 少し味見をしてみる。うん、少しあっさりはしているが、ちゃんとマヨネーズだ。

 そこに黒粒胡椒を多めに混ぜ込み、塩茹でしたブロッコリを和えた。

 そうして、茂造が起きて来た。今朝はサユリも一緒である。

「おはようカピ」

「おはようのう。今朝もありがとうのう」

「いや、料理結構楽しいからさ」

「では儂は支度したくをして来ようかの」

「もう出来るから」

 茂造が洗面所に向かうと、サユリがテーブルに上がって来た。

「今日の朝ご飯は何カピ?」

「味噌握りの五平餅バージョン? 何て言ったらいいのかな」

 壱が応えに困っていると、サユリは小さく鼻を鳴らす。

「ま、壱の作るご飯はどれも美味しかったカピ。今朝も期待しているカピ」

「期待に添えられると良いけど」

 壱は嬉しくなって穏やかに笑うと、五平餅もどきを弱い直火で温め直す。もう何と呼んだら良いのか判らない。味噌握り串? あ、これが1番しっくり来るかも。米は半殺し状態だが。

 支度を終えた茂造が戻って来た。

「待たせたのう。今朝は何を作ってくれたのかのう」

「味噌握り串、って言い張る」

「それはまたどう言う事じゃ」

 茂造が首を傾げる。壱はこの料理が出来た経緯を話す。

「成る程の。じゃが良い匂いじゃ。早速いただくとするかの」

 茂造は良い、ほっほっほっと笑った。
しおりを挟む
感想 10

あなたにおすすめの小説

目立ちたくない召喚勇者の、スローライフな(こっそり)恩返し

gari@七柚カリン
ファンタジー
 突然、異世界の村に転移したカズキは、村長父娘に保護された。  知らない間に脳内に寄生していた自称大魔法使いから、自分が召喚勇者であることを知るが、庶民の彼は勇者として生きるつもりはない。  正体がバレないようギルドには登録せず一般人としてひっそり生活を始めたら、固有スキル『蚊奪取』で得た規格外の能力と(この世界の)常識に疎い行動で逆に目立ったり、村長の娘と徐々に親しくなったり。  過疎化に悩む村の窮状を知り、恩返しのために温泉を開発すると見事大当たり! でも、その弊害で恩人父娘が窮地に陥ってしまう。  一方、とある国では、召喚した勇者(カズキ)の捜索が密かに行われていた。  父娘と村を守るため、武闘大会に出場しよう!  地域限定土産の開発や冒険者ギルドの誘致等々、召喚勇者の村おこしは、従魔や息子(?)や役人や騎士や冒険者も加わり順調に進んでいたが……  ついに、居場所が特定されて大ピンチ!!  どうする? どうなる? 召喚勇者。  ※ 基本は主人公視点。時折、第三者視点が入ります。  

異世界に転移したら、孤児院でごはん係になりました

雪月夜狐
ファンタジー
ある日突然、異世界に転移してしまったユウ。 気がつけば、そこは辺境にある小さな孤児院だった。 剣も魔法も使えないユウにできるのは、 子供たちのごはんを作り、洗濯をして、寝かしつけをすることだけ。 ……のはずが、なぜか料理や家事といった 日常のことだけが、やたらとうまくいく。 無口な男の子、甘えん坊の女の子、元気いっぱいな年長組。 個性豊かな子供たちに囲まれて、 ユウは孤児院の「ごはん係」として、毎日を過ごしていく。 やがて、かつてこの孤児院で育った冒険者や商人たちも顔を出し、 孤児院は少しずつ、人が集まる場所になっていく。 戦わない、争わない。 ただ、ごはんを作って、今日をちゃんと暮らすだけ。 ほんわか天然な世話係と子供たちの日常を描く、 やさしい異世界孤児院ファンタジー。

「キヅイセ。」 ~気づいたら異世界にいた。おまけに目の前にはATMがあった。異世界転移、通算一万人目の冒険者~

あめの みかな
ファンタジー
秋月レンジ。高校2年生。 彼は気づいたら異世界にいた。 その世界は、彼が元いた世界とのゲート開通から100周年を迎え、彼は通算一万人目の冒険者だった。 科学ではなく魔法が発達した、もうひとつの地球を舞台に、秋月レンジとふたりの巫女ステラ・リヴァイアサンとピノア・カーバンクルの冒険が今始まる。

キャンピングカーで走ってるだけで異世界が平和になるそうです~万物生成系チートスキルを添えて~

サメのおでこ
ファンタジー
手違いだったのだ。もしくは事故。 ヒトと魔族が今日もドンパチやっている世界。行方不明の勇者を捜す使命を帯びて……訂正、押しつけられて召喚された俺は、スキル≪物質変換≫の使い手だ。 木を鉄に、紙を鋼に、雪をオムライスに――あらゆる物質を望むがままに変換してのけるこのスキルは、しかし何故か召喚師から「役立たずのド三流」と罵られる。その挙げ句、人界の果てへと魔法で追放される有り様。 そんな俺は、≪物質変換≫でもって生き延びるための武器を生み出そうとして――キャンピングカーを創ってしまう。 もう一度言う。 手違いだったのだ。もしくは事故。 出来てしまったキャンピングカーで、渋々出発する俺。だが、実はこの平和なクルマには俺自身も知らない途方もない力が隠されていた! そんな俺とキャンピングカーに、ある願いを託す人々が現れて―― ※本作は他サイトでも掲載しています

異世界転生~チート魔法でスローライフ

玲央
ファンタジー
【あらすじ⠀】都会で産まれ育ち、学生時代を過ごし 社会人になって早20年。 43歳になった主人公。趣味はアニメや漫画、スポーツ等 多岐に渡る。 その中でも最近嵌ってるのは「ソロキャンプ」 大型連休を利用して、 穴場スポットへやってきた! テントを建て、BBQコンロに テーブル等用意して……。 近くの川まで散歩しに来たら、 何やら動物か?の気配が…… 木の影からこっそり覗くとそこには…… キラキラと光注ぐように発光した 「え!オオカミ!」 3メートルはありそうな巨大なオオカミが!! 急いでテントまで戻ってくると 「え!ここどこだ??」 都会の生活に疲れた主人公が、 異世界へ転生して 冒険者になって 魔物を倒したり、現代知識で商売したり…… 。 恋愛は多分ありません。 基本スローライフを目指してます(笑) ※挿絵有りますが、自作です。 無断転載はしてません。 イラストは、あくまで私のイメージです ※当初恋愛無しで進めようと書いていましたが 少し趣向を変えて、 若干ですが恋愛有りになります。 ※カクヨム、なろうでも公開しています

異世界転生したので森の中で静かに暮らしたい

ボナペティ鈴木
ファンタジー
異世界に転生することになったが勇者や賢者、チート能力なんて必要ない。 強靭な肉体さえあれば生きていくことができるはず。 ただただ森の中で静かに暮らしていきたい。

神様転生~うどんを食べてスローライフをしつつ、領地を豊かにしようとする話、の筈だったのですけれど~

於田縫紀
ファンタジー
大西彩花(香川県出身、享年29歳、独身)は転生直後、維持神を名乗る存在から、いきなり土地神を命じられた。目の前は砂浜と海。反対側は枯れたような色の草原と、所々にぽつんと高い山、そしてずっと向こうにも山。神の権能『全知』によると、この地を豊かにして人や動物を呼び込まなければ、私という土地神は消えてしまうらしい。  現状は乾燥の為、樹木も生えない状態で、あるのは草原と小動物位。私の土地神としての挑戦が、今始まる!  の前に、まずは衣食住を何とかしないと。衣はどうにでもなるらしいから、まずは食、次に住を。食べ物と言うと、やっぱり元うどん県人としては…… (カクヨムと小説家になろうにも、投稿しています) (イラストにあるピンクの化物? が何かは、お話が進めば、そのうち……)

猫好きのぼっちおじさん、招かれた異世界で気ままに【亜空間倉庫】で移動販売を始める

遥風 かずら
ファンタジー
【HOTランキング1位作品(9月2週目)】 猫好きを公言する独身おじさん麦山湯治(49)は商売で使っているキッチンカーを車検に出し、常連カードの更新も兼ねていつもの猫カフェに来ていた。猫カフェの一番人気かつ美人トラ猫のコムギに特に好かれており、湯治が声をかけなくても、自発的に膝に乗ってきては抱っこを要求されるほどの猫好き上級者でもあった。 そんないつものもふもふタイム中、スタッフに信頼されている湯治は他の客がいないこともあって、数分ほど猫たちの見守りを頼まれる。二つ返事で猫たちに温かい眼差しを向ける湯治。そんな時、コムギに手招きをされた湯治は細長い廊下をついて歩く。おかしいと感じながら延々と続く長い廊下を進んだ湯治だったが、コムギが突然湯治の顔をめがけて引き返してくる。怒ることのない湯治がコムギを顔から離して目を開けると、そこは猫カフェではなくのどかな厩舎の中。 まるで招かれるように異世界に降り立った湯治は、好きな猫と一緒に生きることを目指して外に向かうのだった。

処理中です...