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2章 碧、あやかしと触れ合う
第6話 宴の準備
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お祖母ちゃんの筑前煮は、結局お祖母ちゃんの味のまま、食卓に出されることになった。
「料理なんて、同じレシピで作っても、まったく同じ味にはならんもんや。調味料かて加減かてちゃうんやから。それにぼく、母さんの筑前煮好きやで」
お父さんは穏やかな笑顔でそう言いながら、できあがった筑前煮を大皿に盛り付け、残った煮汁はタッパーに注いだ。
「義姉さん、これ、粗熱取れたら冷凍庫に入れますね。次、根菜煮るときに使ってくれたら」
「ありがとう、泰三くん。ほらほら、お義母さんもいつまでも拗ねてんと」
お祖母ちゃんはすっかりとへそを曲げてしまったが、ダイニングキッチンの入り口に立つ碧を見ると、「碧ちゃん!」と顔を輝かせた。
「ようきたなぁ! お祖母ちゃん、お見合い写真、いーっぱい用意したからな!」
お祖母ちゃんはミーハーで負けず嫌いで、お世話焼きなのである。
碧が前にここにきた半年前は、「さつき亭」勤めだった。まだ退職は決めていないときだったが、「とくら食堂」に入って落ち着いたら、本格的に婚活を始めることを伝えていたのだ。
4月に「とくら食堂」に入ったことは、SNSを通じて都倉本家にお知らせしていたので、お祖母ちゃんは碧のために嬉々としてお見合い写真を集めたのだろう。
「ばあちゃん、そん中におれの写真は?」
黒助くんが言うと、お祖母ちゃんはきっと目をつり上げて。
「あんたみたいにうちの脛かじっとる穀潰しに、碧ちゃんの旦那さまになる資格は無いわ! それやったら陽ちゃんの方がなんぼかましや」
すると、黒助くんはかっと激昂して。
「何でや! 碧はおれと結婚するんや! おれが碧と店やるんや! おれは看板猫になるんや!」
猫の手も借りたい、なんてことわざがあるが、実際の猫は戦力にはならないのだが、それで良いのだろうか。お客さまの癒しや招き猫にはなるかも知れないが。
そして陽くんは嫌そうに顔をしかめて。
「ちょ、祖母ちゃん、おれを巻き込むなや」
ああ、ええなぁ。碧の心の中に暖かなものが満ちていく。この賑やかさが、碧の心を和ませてくれる。
碧のお家は、お父さんもお母さんも穏やかな方だ。普段はそれが心地良いのだが、たまにはこの空気感が楽しいなと思うのだ。
毎日だと胸焼けしそうではあるけれど。
収集付きそうも無くがやがやしていると、伯父ちゃんがリビングに顔を覗かせた。薄手の黄色いトレーナーにブルージーンズと、若々しい格好だ。
「あ、泰三、凪さん、碧ちゃん、いらっしゃい。何でこんな騒がしいん。まぁいつものこっちゃか」
今の騒動の一端を碧が担っているとは言いづらく、碧は思わず「はは……」とまた苦笑いを浮かべてしまった。
伯父ちゃんは税理士である。都倉本家の資産を守るための必須資格といえる。
そう思うと、将来を自由に決められない環境の窮屈さに、碧は切なくなる。最近は税理士資格を取って都倉本家の資産管理さえちゃんとすれば、他のお仕事に就いても良いと緩和されているらしい。伯父ちゃんは税理士が性に合った様で、代々経営している都倉税理士事務所を継いでいるのだが。
お父さんは次男だし、税理士適正は無かったそうで、自由にさせてもらえたそうだ。確かにお父さんは完全に文系で、「とくら食堂」のお金事情はお母さんが一手に引き受けている。
陽くんも大学は経営学部を履修して、税理士資格を取得し、修行のために外の税理士事務所に2年勤め、今や立派な都倉税理士事務所の戦力である。
「さぁさ、みんなで準備するで! 笠野さんご夫妻ももうすぐ来はるやろうからね」
伯母ちゃんが言って、威勢良くぱんぱんと手を叩く。みんな揃って「はーい!」と元気良く返事をして、それぞれやることに掛かり始めた。ざしきちゃんと黒助くんは心得ていて、邪魔にならない様に、隅っこでおとなしくしている。
碧が保温バッグを手にキッチンに行くと、ダイニングテーブルには久慈さんが作ってくれたご馳走がならべられている。スクランブルエッグ入りのポテトサラダは久慈さんのお得意料理で、都倉本家も碧たちも大好きな一品だ。大鉢にたっぷりこんもりと盛られていて、碧はついにんまりとしてしまう。
伯母ちゃんもキッチンに入ってきた。
「久慈さん、テーブルにあるもん、もう運んで大丈夫? どれもめっちゃおいしそう」
「大丈夫ですよ~、ありがとうございます~」
久慈さんのお返事に、伯母ちゃんは「ありがと~」と言いながら、両手でてきぱきとリビングに運んでいく。
「久慈さん、電子レンジ、お借りしてええですか?」
碧が聞くと、久慈さんは「ええですよ~」とにこやかに応えてくれた。
「ありがとうございます」
碧は椅子に置いた保温バッグから、中華オードブルのタッパーを出す。このタッパー、ガラス素材でできている。そのまま食卓に出せる様にだ。わざわざお皿などに移して洗い物を増やすことは無い。
このタッパーは蓋もレンジ対応である。甘酢団子を詰めたタッパーの蓋をずらして蒸気が逃げる隙間を作り、レンジに掛ける。
保温バッグに入れていたので、冷たくはなっていない。それでもできれば熱々を食べて欲しい。なのでレンジを借りるのだ。
甘酢団子を温めている間に、鉄板に持参してきたクッキングシートを敷き、唐揚げと春巻きを敷き詰める。お団子が温まったら取り出して、鉄板を入れてグリルに設定した。
その間にも伯母ちゃんとお母さんが、入れ替わり立ち替わりで入ってきて、お料理や小皿などを運んでいった。
「料理なんて、同じレシピで作っても、まったく同じ味にはならんもんや。調味料かて加減かてちゃうんやから。それにぼく、母さんの筑前煮好きやで」
お父さんは穏やかな笑顔でそう言いながら、できあがった筑前煮を大皿に盛り付け、残った煮汁はタッパーに注いだ。
「義姉さん、これ、粗熱取れたら冷凍庫に入れますね。次、根菜煮るときに使ってくれたら」
「ありがとう、泰三くん。ほらほら、お義母さんもいつまでも拗ねてんと」
お祖母ちゃんはすっかりとへそを曲げてしまったが、ダイニングキッチンの入り口に立つ碧を見ると、「碧ちゃん!」と顔を輝かせた。
「ようきたなぁ! お祖母ちゃん、お見合い写真、いーっぱい用意したからな!」
お祖母ちゃんはミーハーで負けず嫌いで、お世話焼きなのである。
碧が前にここにきた半年前は、「さつき亭」勤めだった。まだ退職は決めていないときだったが、「とくら食堂」に入って落ち着いたら、本格的に婚活を始めることを伝えていたのだ。
4月に「とくら食堂」に入ったことは、SNSを通じて都倉本家にお知らせしていたので、お祖母ちゃんは碧のために嬉々としてお見合い写真を集めたのだろう。
「ばあちゃん、そん中におれの写真は?」
黒助くんが言うと、お祖母ちゃんはきっと目をつり上げて。
「あんたみたいにうちの脛かじっとる穀潰しに、碧ちゃんの旦那さまになる資格は無いわ! それやったら陽ちゃんの方がなんぼかましや」
すると、黒助くんはかっと激昂して。
「何でや! 碧はおれと結婚するんや! おれが碧と店やるんや! おれは看板猫になるんや!」
猫の手も借りたい、なんてことわざがあるが、実際の猫は戦力にはならないのだが、それで良いのだろうか。お客さまの癒しや招き猫にはなるかも知れないが。
そして陽くんは嫌そうに顔をしかめて。
「ちょ、祖母ちゃん、おれを巻き込むなや」
ああ、ええなぁ。碧の心の中に暖かなものが満ちていく。この賑やかさが、碧の心を和ませてくれる。
碧のお家は、お父さんもお母さんも穏やかな方だ。普段はそれが心地良いのだが、たまにはこの空気感が楽しいなと思うのだ。
毎日だと胸焼けしそうではあるけれど。
収集付きそうも無くがやがやしていると、伯父ちゃんがリビングに顔を覗かせた。薄手の黄色いトレーナーにブルージーンズと、若々しい格好だ。
「あ、泰三、凪さん、碧ちゃん、いらっしゃい。何でこんな騒がしいん。まぁいつものこっちゃか」
今の騒動の一端を碧が担っているとは言いづらく、碧は思わず「はは……」とまた苦笑いを浮かべてしまった。
伯父ちゃんは税理士である。都倉本家の資産を守るための必須資格といえる。
そう思うと、将来を自由に決められない環境の窮屈さに、碧は切なくなる。最近は税理士資格を取って都倉本家の資産管理さえちゃんとすれば、他のお仕事に就いても良いと緩和されているらしい。伯父ちゃんは税理士が性に合った様で、代々経営している都倉税理士事務所を継いでいるのだが。
お父さんは次男だし、税理士適正は無かったそうで、自由にさせてもらえたそうだ。確かにお父さんは完全に文系で、「とくら食堂」のお金事情はお母さんが一手に引き受けている。
陽くんも大学は経営学部を履修して、税理士資格を取得し、修行のために外の税理士事務所に2年勤め、今や立派な都倉税理士事務所の戦力である。
「さぁさ、みんなで準備するで! 笠野さんご夫妻ももうすぐ来はるやろうからね」
伯母ちゃんが言って、威勢良くぱんぱんと手を叩く。みんな揃って「はーい!」と元気良く返事をして、それぞれやることに掛かり始めた。ざしきちゃんと黒助くんは心得ていて、邪魔にならない様に、隅っこでおとなしくしている。
碧が保温バッグを手にキッチンに行くと、ダイニングテーブルには久慈さんが作ってくれたご馳走がならべられている。スクランブルエッグ入りのポテトサラダは久慈さんのお得意料理で、都倉本家も碧たちも大好きな一品だ。大鉢にたっぷりこんもりと盛られていて、碧はついにんまりとしてしまう。
伯母ちゃんもキッチンに入ってきた。
「久慈さん、テーブルにあるもん、もう運んで大丈夫? どれもめっちゃおいしそう」
「大丈夫ですよ~、ありがとうございます~」
久慈さんのお返事に、伯母ちゃんは「ありがと~」と言いながら、両手でてきぱきとリビングに運んでいく。
「久慈さん、電子レンジ、お借りしてええですか?」
碧が聞くと、久慈さんは「ええですよ~」とにこやかに応えてくれた。
「ありがとうございます」
碧は椅子に置いた保温バッグから、中華オードブルのタッパーを出す。このタッパー、ガラス素材でできている。そのまま食卓に出せる様にだ。わざわざお皿などに移して洗い物を増やすことは無い。
このタッパーは蓋もレンジ対応である。甘酢団子を詰めたタッパーの蓋をずらして蒸気が逃げる隙間を作り、レンジに掛ける。
保温バッグに入れていたので、冷たくはなっていない。それでもできれば熱々を食べて欲しい。なのでレンジを借りるのだ。
甘酢団子を温めている間に、鉄板に持参してきたクッキングシートを敷き、唐揚げと春巻きを敷き詰める。お団子が温まったら取り出して、鉄板を入れてグリルに設定した。
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