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九.懺悔
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恵比寿からタクシーで渋谷の円山町まで来てしまった……。
そしてそのまま一番豪華そうなホテルの中にタクシーが入っていく。
ああ、俺……ここで童貞卒業か? でも、マジノ・アルデンヌがお相手なら本望か? だけどこれ不倫だよな。元とは言え魔法少女が不倫していいのかよ。
酔いがまだ醒めず、頭の中と地面が結構回っている中、俺はそんな事を考えていた。
そして部屋に入ると……わっひゃー。部屋の中もめちゃくちゃ豪華だ。
ベルサイユ宮殿とかこんな感じだよな。行った事ないけど。
アルデンヌがベッドの縁に腰かけ、俺を隣に座らせた。
さっき店を出た時に嗅いだ時より、香水の香りに女の体臭が混じった感じの強い匂いがして、俺の本能が最大限刺激される。
そして、俺の太腿に手を置きながらアルデンヌが耳元でささやく。
「田中君……脱がせてくれないかな……」
だめだ俺。もう理性ふっとんだ事にしよ。
そして、アルデンヌのブラウスに手をかけボタンを外すと、デガラシよりは大きく、吉崎よりは小さいと思われる胸がボンと目の前に現れた。
するとアルデンヌが、俺に向き合いで立ち上がってから、クルンと後ろを向いた。
スカートを脱がせやすい様にという事か。
俺がスカートのファスナーに手をかけそれを降ろすと、ストンとスカートが下に落ちた。そしてパンスト越しではあるが、履いているパンティーが露わになった。
あ……本当に、黒い半透けレースのパンティーだ。デガラシが言ってた事は本当だったんだ……と、突然デガラシの顔が思い出された。
(あー!! だめだよ俺! こんなことしてちゃ、デガラシに会わせる顔ないじゃん!!)
そして「あの、だめですよ! アルデンヌがこんな事しちゃ!!」と思わず俺は大声を出してしまい、それにびっくりしてアルデンヌがこちらを振り返った。
ああ、なんだ。アルデンヌも怖かったんだ……両の頬が涙で濡れている。
「あの。聞くだけならナンボでも聞きますので、話せる範囲で想いをぶちまけてみませんか?」
◇◇◇
「夫とうまく行かなくなった様に感じた始めのは、結婚して三年位してからです。
私の態度が硬いとか冷たい感じに思えるらしく、だんだん夜や休日も家にいない事が多くなって……」と、ラブホテルの一室でアルデンヌが坂出一輝との関係を語りだした。
「はあ。聞くだけって言っておきながら何なんですが、そんなに冷えちゃった? 状態なら別れるとかやり直すとか……ちゃんと話し合った方が良くはないですか?」
「普通ならそうでしょうね。でも、坂出は何があっても私を手放さないと思います。ですから夫婦の関係もないのに、これからもずっと飼い殺し。でも私だって一人の女です。たまにはエッチな事もしたくなります……でも、さっきはごめんなさい。勝手に暴走しちゃって」
「あ、いや。それは構わないというか、惜しかったというか……はは。でも、そんな飼い殺しだなんてひどい……弁護士とか通して話し合われては?」
「ふふ、田中さん。あなたやっぱりいい人ね。ダンケが気にいるのも分かるわ。
でもそう。あの人も昔はいい人だった……」
あー。昔の旦那さんを思い出しているのかな。そう思っていたら、アルデが背筋をピッっと伸ばして顔を上げ俺に向かって言った。
「あの、田中さん。私、懺悔させていただいてよろしいですか?」
「懺悔ですか? まあ、私は牧師じゃないですが、話は聞くだけ聞きますって事でしたから……どうぞ」
「坂出一輝は、元々、ダンケ……五十嵐かえでの彼氏だったんです!
それを……私が寝取りました!!」
「……はいぃ!!!?」
いやはや、どんな懺悔かと思ったら、大スクープじゃん。
いやいや俺、ゴシップ記者じゃねえし……。
「あの……話せる範囲でいいので、詳しく教えていただけますか?」
「田中さんはダンケとお付きあいしてるという事で、私達リアルの魔法少女の事も多少は御存じなんですよね?」
「はい。まあ多少は……デガラシやノルマンディに聞いた範囲で、ですが」
「私達は、大体中学生位で魔法少女になって、魔王と戦うのですが、如何せん中学生。何かとサポートを受けないと生活しながら戦う事もままなりません」
「そりゃそうですよね。そんで……ハンザキでしたっけ? 妖精っぽい奴。そいつがサポートしてくれるのでは?」
「ハンザキがサポートしてくれるのは、主に魔法少女に変身した後の事です。戦技の事とかアイテムの事とか敵の弱点とか。それで変身していない時のサポートは……詳しくは国家機密レベルのお話なので申せませんが、人間の男の子がしてくれるのです。それこそ衣食住からアレまで……」
「アレって……はは。聞かないでおきます。でもそうか。マジノ・リベルタのサポート役が、坂出一輝だったという事ですか?」
「そうです。そしてみんな年頃の女の子。親身になって世話を焼いてくれるお兄さんに、心惹かれないはずはありません。まあ、ノルマは別でしたが……そして私も例外に漏れず一輝さんを好きになりました」
「えっ、『いっき』じゃなくて『かずき』だったんですか?」
「『いっき』はメジャーになってからの芸名みたいなものです。本名は『かずき』です」
そっか。前にデガラシが寝言で言ってたカズくんって、坂出さんの事だったんだ。
「そして私の想いとは裏腹に、ダンケとかずきさんはどんどん距離を縮めていきました。まああの子はそう言うところ天然ですから、かずきさんの方が想いを募らせたというのが本当の所だとは思います。そして魔王との最終決戦の前後でちょっと事件があって、ダンケとかずきさんは仲違いをしたんです。そこで私がなりふり構わず彼にアタックして……」
「なるほどなー。それじゃお互いに会いづらいですよね。
でもそうすると、坂出社長もあなたが魔法少女だって知ってて結婚されたんだ」
「そうです。元であっても魔法少女を手元に置いておく事には、大きな意味があるんです」
「それは?」
「田中さんは、アゲマンって言葉ご存じですか?」
「あ、はい。昔映画とかにもあった様な……それって、関係した男性に幸運を呼び込む女性の事ですよね」
「はい。魔法少女の資質を持つ女の子は、みんなそのアゲマンなんです。ですから田中さん。あなたもダンケと暮らす様になって、自分が幸運だと感じた事はありませんか?」
「確かにそれは感じていますが……アゲマンってエッチしないとダメなのでは?」
「もちろん、直接交わった方が効果はあると思いますが、そばにいるだけでもそれなりに効果はあるんですよ。ダンケは特にラッキー効果の強いたちでしたし」
「そうなんだ……あっ、それじゃ坂出さんが成功したのって、もしかしてアルデンヌさんと結婚したから?」
「本人の才能ももちろんあったとは思いますが、それも否定しません」
「それで離婚もしてくれないか。そばに置くだけで効果があるんじゃ、そうなりますよね」
「ですので正直、いまさらダンケに坂出の眼の前に現れてほしくはないのです。
身勝手な事を言っているとは思いますが……」
「いや。全然ありじゃないですか。そんなあなたの気持ちを察したから、デガラシも会わないと言ったんだと思います。ですからこの話はここまでにしましょう。デガラシにもちゃんと伝えますよ」
「ああ、ありがとう田中さん。懺悔したら何か心が軽くなった様な気がします。
でも身体の火照りはまだ収まらないかなー。さっきの続き……します?」
緊張が解けたのか、アルデンヌが人をからかう様な顔でそう言った。
「いや、それはご勘弁を。ご主人とうまくいくといいですね」
そう言って別れたものの、マジノ・アルデンヌに童貞捧げていたら、俺もIT長者になれたかな、などと一瞬考えてしまった。
◇◇◇
マジノ・アルデンヌと別れ、大分遅くなって自分のアパートに帰ったら、デガラシがまだ起きていて俺の帰りを待っていた。
「めすらしいな。寝ないで待っててくれたんだ」
「アルデに会ってって頼んだの私だし……あいつに喰われちゃったんじゃないかって心配してた」
「喰われたって……」くそ。こういう時、女の勘って鋭いよな。
だが、俺がアルデとした会話をそのままデガラシに伝えた所、最後までその話を聞いてからデガラシが嬉しそうに言った。
「やっぱ。会わなくてよかった」
「そうだな。いまさら坂出さんに会ってもお前も困るよな」
「うん。だけど、ちょっと気にはなるかも。カズくん。どんなイケオジになってんだろ。でも田中―。私とカズくんがどんな関係だったか気になる?」
「なんねーよ。だいたいお前処女なんだろ? せいぜいチュッって位だろうが……」
「……そうだね」デガラシがちょっと悔しそうにそう言った。
◇◇◇
「社長。ご依頼の調査報告が上がって来ました」
そう言いながら秘書風の美女が、分厚いA4封筒をデスクの上に置いた。
田中がアルデンヌとラブホテルで密会して二週間位した頃、坂出一輝の所に、興信所から、田中良男の報告書が届いたのだ。そして、スーツ姿のこざっぱりした男が部屋に呼ばれた。
「坂出さん。なんでまたこんな男を? 別に裏も表もないそこいらのサラリーマンでしたよ。まあ、奥さんの火遊びの相手としては安全かつ手頃だとは思いますが……」
「松ちゃん。余計な詮索はいいから……それで、住まいは大田区七郷。独身……って、何だよ。こいつ女と同棲してるのか?」
「ええ、近所に探り入れたところ、今年の三月位からいっしょに暮している様です。女が務めているのがこのコンビニ」松ちゃんと呼ばれた探偵と思われる人物が、次々と大きく引き伸ばした写真をテーブルに並べていく。
それを見て坂出一輝は息を呑んだ。そして思わず声が出た。
「これって……かえでか?」
「ありゃ。お知り合いで? 店のチェーン統括にコネがあったんで、その女の事も調べました。五十嵐かえで。二十八歳。こっちに来る前は沖縄にいた様で、住民票も沖縄でした」
しかしそんな松ちゃんの声は、もう坂出の耳に入っていない。
かえでが……かえでが戻ってきた!? しかし、なんであの田中と同棲している?
もしかして田中も、魔法少女繋がりでうちの月代に接近したのか?
いったい奴はどこまで知っているんだ……いや、それもそうだが……ここに来て、かえでの消息が分かるとは、僕もまだまだ上を目指せるという事か。
アルデンヌとダンケルクの二人が我がモノになれば……あとはノルマンディは男嫌いだから処女のはずだし……三人集めれば僕は世界を変えられる……かも知れん。
だが、いきなり僕が会いにいっても、かえでは警戒してしまうだろう。
それなら……当面は田中君と仲良くしておいたほうがよさそうかな。
そんな事を考えながら、坂出一輝は心の中でほくそ笑んだ。
そしてそのまま一番豪華そうなホテルの中にタクシーが入っていく。
ああ、俺……ここで童貞卒業か? でも、マジノ・アルデンヌがお相手なら本望か? だけどこれ不倫だよな。元とは言え魔法少女が不倫していいのかよ。
酔いがまだ醒めず、頭の中と地面が結構回っている中、俺はそんな事を考えていた。
そして部屋に入ると……わっひゃー。部屋の中もめちゃくちゃ豪華だ。
ベルサイユ宮殿とかこんな感じだよな。行った事ないけど。
アルデンヌがベッドの縁に腰かけ、俺を隣に座らせた。
さっき店を出た時に嗅いだ時より、香水の香りに女の体臭が混じった感じの強い匂いがして、俺の本能が最大限刺激される。
そして、俺の太腿に手を置きながらアルデンヌが耳元でささやく。
「田中君……脱がせてくれないかな……」
だめだ俺。もう理性ふっとんだ事にしよ。
そして、アルデンヌのブラウスに手をかけボタンを外すと、デガラシよりは大きく、吉崎よりは小さいと思われる胸がボンと目の前に現れた。
するとアルデンヌが、俺に向き合いで立ち上がってから、クルンと後ろを向いた。
スカートを脱がせやすい様にという事か。
俺がスカートのファスナーに手をかけそれを降ろすと、ストンとスカートが下に落ちた。そしてパンスト越しではあるが、履いているパンティーが露わになった。
あ……本当に、黒い半透けレースのパンティーだ。デガラシが言ってた事は本当だったんだ……と、突然デガラシの顔が思い出された。
(あー!! だめだよ俺! こんなことしてちゃ、デガラシに会わせる顔ないじゃん!!)
そして「あの、だめですよ! アルデンヌがこんな事しちゃ!!」と思わず俺は大声を出してしまい、それにびっくりしてアルデンヌがこちらを振り返った。
ああ、なんだ。アルデンヌも怖かったんだ……両の頬が涙で濡れている。
「あの。聞くだけならナンボでも聞きますので、話せる範囲で想いをぶちまけてみませんか?」
◇◇◇
「夫とうまく行かなくなった様に感じた始めのは、結婚して三年位してからです。
私の態度が硬いとか冷たい感じに思えるらしく、だんだん夜や休日も家にいない事が多くなって……」と、ラブホテルの一室でアルデンヌが坂出一輝との関係を語りだした。
「はあ。聞くだけって言っておきながら何なんですが、そんなに冷えちゃった? 状態なら別れるとかやり直すとか……ちゃんと話し合った方が良くはないですか?」
「普通ならそうでしょうね。でも、坂出は何があっても私を手放さないと思います。ですから夫婦の関係もないのに、これからもずっと飼い殺し。でも私だって一人の女です。たまにはエッチな事もしたくなります……でも、さっきはごめんなさい。勝手に暴走しちゃって」
「あ、いや。それは構わないというか、惜しかったというか……はは。でも、そんな飼い殺しだなんてひどい……弁護士とか通して話し合われては?」
「ふふ、田中さん。あなたやっぱりいい人ね。ダンケが気にいるのも分かるわ。
でもそう。あの人も昔はいい人だった……」
あー。昔の旦那さんを思い出しているのかな。そう思っていたら、アルデが背筋をピッっと伸ばして顔を上げ俺に向かって言った。
「あの、田中さん。私、懺悔させていただいてよろしいですか?」
「懺悔ですか? まあ、私は牧師じゃないですが、話は聞くだけ聞きますって事でしたから……どうぞ」
「坂出一輝は、元々、ダンケ……五十嵐かえでの彼氏だったんです!
それを……私が寝取りました!!」
「……はいぃ!!!?」
いやはや、どんな懺悔かと思ったら、大スクープじゃん。
いやいや俺、ゴシップ記者じゃねえし……。
「あの……話せる範囲でいいので、詳しく教えていただけますか?」
「田中さんはダンケとお付きあいしてるという事で、私達リアルの魔法少女の事も多少は御存じなんですよね?」
「はい。まあ多少は……デガラシやノルマンディに聞いた範囲で、ですが」
「私達は、大体中学生位で魔法少女になって、魔王と戦うのですが、如何せん中学生。何かとサポートを受けないと生活しながら戦う事もままなりません」
「そりゃそうですよね。そんで……ハンザキでしたっけ? 妖精っぽい奴。そいつがサポートしてくれるのでは?」
「ハンザキがサポートしてくれるのは、主に魔法少女に変身した後の事です。戦技の事とかアイテムの事とか敵の弱点とか。それで変身していない時のサポートは……詳しくは国家機密レベルのお話なので申せませんが、人間の男の子がしてくれるのです。それこそ衣食住からアレまで……」
「アレって……はは。聞かないでおきます。でもそうか。マジノ・リベルタのサポート役が、坂出一輝だったという事ですか?」
「そうです。そしてみんな年頃の女の子。親身になって世話を焼いてくれるお兄さんに、心惹かれないはずはありません。まあ、ノルマは別でしたが……そして私も例外に漏れず一輝さんを好きになりました」
「えっ、『いっき』じゃなくて『かずき』だったんですか?」
「『いっき』はメジャーになってからの芸名みたいなものです。本名は『かずき』です」
そっか。前にデガラシが寝言で言ってたカズくんって、坂出さんの事だったんだ。
「そして私の想いとは裏腹に、ダンケとかずきさんはどんどん距離を縮めていきました。まああの子はそう言うところ天然ですから、かずきさんの方が想いを募らせたというのが本当の所だとは思います。そして魔王との最終決戦の前後でちょっと事件があって、ダンケとかずきさんは仲違いをしたんです。そこで私がなりふり構わず彼にアタックして……」
「なるほどなー。それじゃお互いに会いづらいですよね。
でもそうすると、坂出社長もあなたが魔法少女だって知ってて結婚されたんだ」
「そうです。元であっても魔法少女を手元に置いておく事には、大きな意味があるんです」
「それは?」
「田中さんは、アゲマンって言葉ご存じですか?」
「あ、はい。昔映画とかにもあった様な……それって、関係した男性に幸運を呼び込む女性の事ですよね」
「はい。魔法少女の資質を持つ女の子は、みんなそのアゲマンなんです。ですから田中さん。あなたもダンケと暮らす様になって、自分が幸運だと感じた事はありませんか?」
「確かにそれは感じていますが……アゲマンってエッチしないとダメなのでは?」
「もちろん、直接交わった方が効果はあると思いますが、そばにいるだけでもそれなりに効果はあるんですよ。ダンケは特にラッキー効果の強いたちでしたし」
「そうなんだ……あっ、それじゃ坂出さんが成功したのって、もしかしてアルデンヌさんと結婚したから?」
「本人の才能ももちろんあったとは思いますが、それも否定しません」
「それで離婚もしてくれないか。そばに置くだけで効果があるんじゃ、そうなりますよね」
「ですので正直、いまさらダンケに坂出の眼の前に現れてほしくはないのです。
身勝手な事を言っているとは思いますが……」
「いや。全然ありじゃないですか。そんなあなたの気持ちを察したから、デガラシも会わないと言ったんだと思います。ですからこの話はここまでにしましょう。デガラシにもちゃんと伝えますよ」
「ああ、ありがとう田中さん。懺悔したら何か心が軽くなった様な気がします。
でも身体の火照りはまだ収まらないかなー。さっきの続き……します?」
緊張が解けたのか、アルデンヌが人をからかう様な顔でそう言った。
「いや、それはご勘弁を。ご主人とうまくいくといいですね」
そう言って別れたものの、マジノ・アルデンヌに童貞捧げていたら、俺もIT長者になれたかな、などと一瞬考えてしまった。
◇◇◇
マジノ・アルデンヌと別れ、大分遅くなって自分のアパートに帰ったら、デガラシがまだ起きていて俺の帰りを待っていた。
「めすらしいな。寝ないで待っててくれたんだ」
「アルデに会ってって頼んだの私だし……あいつに喰われちゃったんじゃないかって心配してた」
「喰われたって……」くそ。こういう時、女の勘って鋭いよな。
だが、俺がアルデとした会話をそのままデガラシに伝えた所、最後までその話を聞いてからデガラシが嬉しそうに言った。
「やっぱ。会わなくてよかった」
「そうだな。いまさら坂出さんに会ってもお前も困るよな」
「うん。だけど、ちょっと気にはなるかも。カズくん。どんなイケオジになってんだろ。でも田中―。私とカズくんがどんな関係だったか気になる?」
「なんねーよ。だいたいお前処女なんだろ? せいぜいチュッって位だろうが……」
「……そうだね」デガラシがちょっと悔しそうにそう言った。
◇◇◇
「社長。ご依頼の調査報告が上がって来ました」
そう言いながら秘書風の美女が、分厚いA4封筒をデスクの上に置いた。
田中がアルデンヌとラブホテルで密会して二週間位した頃、坂出一輝の所に、興信所から、田中良男の報告書が届いたのだ。そして、スーツ姿のこざっぱりした男が部屋に呼ばれた。
「坂出さん。なんでまたこんな男を? 別に裏も表もないそこいらのサラリーマンでしたよ。まあ、奥さんの火遊びの相手としては安全かつ手頃だとは思いますが……」
「松ちゃん。余計な詮索はいいから……それで、住まいは大田区七郷。独身……って、何だよ。こいつ女と同棲してるのか?」
「ええ、近所に探り入れたところ、今年の三月位からいっしょに暮している様です。女が務めているのがこのコンビニ」松ちゃんと呼ばれた探偵と思われる人物が、次々と大きく引き伸ばした写真をテーブルに並べていく。
それを見て坂出一輝は息を呑んだ。そして思わず声が出た。
「これって……かえでか?」
「ありゃ。お知り合いで? 店のチェーン統括にコネがあったんで、その女の事も調べました。五十嵐かえで。二十八歳。こっちに来る前は沖縄にいた様で、住民票も沖縄でした」
しかしそんな松ちゃんの声は、もう坂出の耳に入っていない。
かえでが……かえでが戻ってきた!? しかし、なんであの田中と同棲している?
もしかして田中も、魔法少女繋がりでうちの月代に接近したのか?
いったい奴はどこまで知っているんだ……いや、それもそうだが……ここに来て、かえでの消息が分かるとは、僕もまだまだ上を目指せるという事か。
アルデンヌとダンケルクの二人が我がモノになれば……あとはノルマンディは男嫌いだから処女のはずだし……三人集めれば僕は世界を変えられる……かも知れん。
だが、いきなり僕が会いにいっても、かえでは警戒してしまうだろう。
それなら……当面は田中君と仲良くしておいたほうがよさそうかな。
そんな事を考えながら、坂出一輝は心の中でほくそ笑んだ。
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