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第十六話 偵察作戦
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結局、ほぼアイリス少尉の案のまま、エルフ少女が単独で敵要塞内に潜入し、支援AIでスキャンすることで作戦が固まった。
B小隊のサポーター、カメリア・フランの責任は重大となった。
我がE小隊は、彼女の退却支援としてB小隊、人間の第三及び第十二小隊らとともに要塞近くの森に陣取って、竜族が出てきたら、B小隊のアタッカ―たちと連携して、それを薙ぎ払うのが役割となった。今回は、昼間の作戦で、後方は第二中隊が壁になって守ってくれるはずなので、後ろから襲われる心配はない。
天候の具合や飛行機の準備などもあり、作戦決行日は三日後と決まった。
「いいんよ。私はもともと目立たないから、こうした役割はぴったりだわ」
自分を鼓舞するかのように、カメリア・フランは大きな声で言った。
「でもカメさんは、攻撃もできるんだろ。アイリスさんにかなり鍛えられたって……」
沙羅、人の名前をはしょるな……
カメリアのプレッシャーを少しでも軽く出来ればとのエルの発案で、B小隊と共同で、こじんまりとしているが激励会を企画した。
「うん。自慢じゃないけど、それなりには自信あるよ。でも、やっぱり人間相手だと通用しないと思うから、みんなが脱出のタイミングを作ってくれるまで、ステルス全開かね」
「言い出しっぺの私が言うのもなんだけど、それでいいのよ、カメリア。絶対無理はしないで、無事で帰って来てね」
「小隊長、お母さんみたいやね。大丈夫。私はそれほどヤワじゃないから」
しゃべり方は田舎者っぽいが、このカメリア、カレンにも負けないくらいの美少女だ。
親衛隊内の同志間協定で、基地内では余り近づくことは禁止されているらしいが、彼女の推し兵たちも、ちょっと離れたとところで垂れ幕を持って応援している。
「カメさん。何かあったら俺、要塞内に突っ込むから!」
あっ、やっぱりカメさんなんだ。
「そんなことやめてよね。私のせいで人柱が立ったら、たとえ生還しても、すごく後味悪いだよ」
「そうよ、あなた達は、自分の役割に専念しなさい。もし竜族が来たら、私たちが即座に叩っ切ってあげるから!」
B小隊の、メグとリサのアタッカーコンビが、仁王立ちしてすごむ。
うん、雰囲気は悪くない。
あとは、作戦がシナリオ通りに進むのを祈るしかない。
◇◇◇
「ポコ、状況を最終確認」
「了解。
飛行機ハ予定通リ、1425ニ要塞上空ニ到着予定。現時点デ敵ノ対空火器ハ認メラレテいなイ。1430ニ第三・第十二小隊ハ、八百m離レタ林ノ中カラ要塞への砲撃ヲ開始シマス」
「あと三十分か。よし、沙羅、フォーメーション組むぞ」
トラックの荷台の幌の中で、服を脱いで準備を始める。
俺から振り落とされない様、沙羅は足首で固定されるが、エルが二人分の穴があいた、長い貫頭衣みたいなものをこしらえてくれたおかげで、俺も沙羅も、外部からあまり肌は見えない。まあ、一目みて異形ではあるのだが……
「カレンさん。私、なんだか緊張してきました」
「大丈夫よエルちゃん。
エルちゃんは私の生贄になってくれるだけでいいんだから?。
そもそも竜族なんて、A小隊が全部やっつけちゃって、ほとんど出てこないかもよ~」
「そうだといいんですが……」
「おい、準備はできたか?」
二人の会話に割り込むのはちょっと気が引けたが、もう時間もない。
準備が出来たら速やかに十二小隊と合流したい……というか、この姿であまり平地にいたくない。早く林に隠れたい。
事前に情報は伝えてあるはずだが、十二小隊の連中も、俺たちの姿を実際にみて、かなり驚いた様子であった。
「え―、ローアイ少尉。その布の中で沙羅ちゃんと密着してるんですか~?
うらやましい――。一度俺もやりたい――。もし出来たら死んでもいい――」
こいつは、沙羅推しの、ネルソンとかいったか。
「死ぬとか、縁起でもないこと言うな。
あと五分で作戦開始だぞ。気を引き締めろ!」
「アイアイサ―。沙羅ちゃんは俺が絶対守ります!
少尉のことは知りませんが……はははっ」
「うん、それでいい。万一の時は頼んだぞ」
「こら―、小隊長も、縁起でもないこと言うな―
……で、あのね小隊長」
なんだか沙羅がしおらしい。
「どうした。お前でもやっぱりプレッシャーか?」
「うん、多分そのせいなんだけど。
……トイレ行きたい……」
「!」
まさにその時、飛行機のエンジン音が高速で近づきながら上空に響き渡った。
飛行機は、幸運にも敵からの対空砲火をほとんど受けず、機体を一度、直角に傾けながら、要塞上空を一周してから離脱していった。カメリアは、マナをコントロールしながら支援AIを抱いて、ステルスモードでゆっくり降下していると思われるが、当然肉眼では見えない。それを信じてこちらは予定通り行動開始するのみ!
しばらくして、ポコの眼が激しく点滅した。
「攻撃開始時刻デス!」
「打ち―方、始めっ!」
第三小隊の小隊長の号令で一斉に砲撃が開始された。
こんな昼間から正面攻撃があるはと思っていなかったのか、敵さん結構慌てているようにも見え、反撃も結構的外れな方向を狙っているような気がする。これはいけるのでは、と思った瞬間、敵の反撃は止み、われらの位置を特定したと言わんばかりに、要塞内から竜族が二十体ほど飛び出してきた。そのかなり後方に人間が、おそらく一個中隊ほど続いている。数的には圧倒的にこちらが不利なので、後方の第二中隊と合流するのがセオリーなのだが、まずは、先鋒の竜族を無力化するのと、カメリアが脱出できるまで、敵兵を引き付け、できるだけ時間を稼いで踏みとどまる必要がある。
カメリアが脱出に成功したら、支援AIが戦術ネットにアクセスするか、彼女自身が持っているはずの信号弾を打ち上げる手はずだ。
「こっちは先に行くわよ。ローアイ少尉!
リサ・メグ、先鋒の竜族を薙ぎ払いなさい!」
アイリス少尉の檄にこちらも答える。
「いくぞ沙羅! 食らわせろっ!
カレンとエルは、人間たちのフォローを頼む!」
「了解!」
エルフたちが一斉に自分の仕事を開始する。
リサが杖などを使わず、開いた手指の先から小粒の魔法弾を大量に発射して弾幕を形成し、前方三十mくらいで竜族を足止めしたところに、メグが片刃のかなり長身な刃物を振ると、半円形の刃の形をした魔法弾が飛び出し、鋭く敵に命中していく。その間隙をついて前に出てきたやつを、沙羅と俺で薙ぎ払う。
アイリス少尉の立てた戦術はうまくいっている。
沙羅へのマナ供給も大丈夫そうだ。
「よっしゃ―。もう一匹倒した―」
沙羅はそれほど緊張した様子もないようだが、沙羅と密着している部分の皮膚がしっとり汗ばんできて、むせかえるような少女のにおいが鼻を刺激する。しかも、沙羅が思い切りロッドを前に振る度、彼女の柔らかいお腹が、ぽにょんっと後頭部にまとわりついてきて、一瞬、今が戦闘中なのを忘れそうになる。
(くそ、しっかりしろ。おれは変態じゃない。ロリコンじゃない……)
気を引き締めてまわりを見渡すと、竜族の数はかなり減っていて、これなら、ここのエルフたちで何とかなりそうだが、人間の小隊のほうが心配だ。人間の敵が迫って来ていて数で圧倒されかねない。おびただしい弾が十二小隊に降り注いではいるが、カレンのシールドがなんとか防いでいるようだ。しかし、いつまで持ちこたえられるか……
カメリア、早く脱出しろっ!
B小隊のサポーター、カメリア・フランの責任は重大となった。
我がE小隊は、彼女の退却支援としてB小隊、人間の第三及び第十二小隊らとともに要塞近くの森に陣取って、竜族が出てきたら、B小隊のアタッカ―たちと連携して、それを薙ぎ払うのが役割となった。今回は、昼間の作戦で、後方は第二中隊が壁になって守ってくれるはずなので、後ろから襲われる心配はない。
天候の具合や飛行機の準備などもあり、作戦決行日は三日後と決まった。
「いいんよ。私はもともと目立たないから、こうした役割はぴったりだわ」
自分を鼓舞するかのように、カメリア・フランは大きな声で言った。
「でもカメさんは、攻撃もできるんだろ。アイリスさんにかなり鍛えられたって……」
沙羅、人の名前をはしょるな……
カメリアのプレッシャーを少しでも軽く出来ればとのエルの発案で、B小隊と共同で、こじんまりとしているが激励会を企画した。
「うん。自慢じゃないけど、それなりには自信あるよ。でも、やっぱり人間相手だと通用しないと思うから、みんなが脱出のタイミングを作ってくれるまで、ステルス全開かね」
「言い出しっぺの私が言うのもなんだけど、それでいいのよ、カメリア。絶対無理はしないで、無事で帰って来てね」
「小隊長、お母さんみたいやね。大丈夫。私はそれほどヤワじゃないから」
しゃべり方は田舎者っぽいが、このカメリア、カレンにも負けないくらいの美少女だ。
親衛隊内の同志間協定で、基地内では余り近づくことは禁止されているらしいが、彼女の推し兵たちも、ちょっと離れたとところで垂れ幕を持って応援している。
「カメさん。何かあったら俺、要塞内に突っ込むから!」
あっ、やっぱりカメさんなんだ。
「そんなことやめてよね。私のせいで人柱が立ったら、たとえ生還しても、すごく後味悪いだよ」
「そうよ、あなた達は、自分の役割に専念しなさい。もし竜族が来たら、私たちが即座に叩っ切ってあげるから!」
B小隊の、メグとリサのアタッカーコンビが、仁王立ちしてすごむ。
うん、雰囲気は悪くない。
あとは、作戦がシナリオ通りに進むのを祈るしかない。
◇◇◇
「ポコ、状況を最終確認」
「了解。
飛行機ハ予定通リ、1425ニ要塞上空ニ到着予定。現時点デ敵ノ対空火器ハ認メラレテいなイ。1430ニ第三・第十二小隊ハ、八百m離レタ林ノ中カラ要塞への砲撃ヲ開始シマス」
「あと三十分か。よし、沙羅、フォーメーション組むぞ」
トラックの荷台の幌の中で、服を脱いで準備を始める。
俺から振り落とされない様、沙羅は足首で固定されるが、エルが二人分の穴があいた、長い貫頭衣みたいなものをこしらえてくれたおかげで、俺も沙羅も、外部からあまり肌は見えない。まあ、一目みて異形ではあるのだが……
「カレンさん。私、なんだか緊張してきました」
「大丈夫よエルちゃん。
エルちゃんは私の生贄になってくれるだけでいいんだから?。
そもそも竜族なんて、A小隊が全部やっつけちゃって、ほとんど出てこないかもよ~」
「そうだといいんですが……」
「おい、準備はできたか?」
二人の会話に割り込むのはちょっと気が引けたが、もう時間もない。
準備が出来たら速やかに十二小隊と合流したい……というか、この姿であまり平地にいたくない。早く林に隠れたい。
事前に情報は伝えてあるはずだが、十二小隊の連中も、俺たちの姿を実際にみて、かなり驚いた様子であった。
「え―、ローアイ少尉。その布の中で沙羅ちゃんと密着してるんですか~?
うらやましい――。一度俺もやりたい――。もし出来たら死んでもいい――」
こいつは、沙羅推しの、ネルソンとかいったか。
「死ぬとか、縁起でもないこと言うな。
あと五分で作戦開始だぞ。気を引き締めろ!」
「アイアイサ―。沙羅ちゃんは俺が絶対守ります!
少尉のことは知りませんが……はははっ」
「うん、それでいい。万一の時は頼んだぞ」
「こら―、小隊長も、縁起でもないこと言うな―
……で、あのね小隊長」
なんだか沙羅がしおらしい。
「どうした。お前でもやっぱりプレッシャーか?」
「うん、多分そのせいなんだけど。
……トイレ行きたい……」
「!」
まさにその時、飛行機のエンジン音が高速で近づきながら上空に響き渡った。
飛行機は、幸運にも敵からの対空砲火をほとんど受けず、機体を一度、直角に傾けながら、要塞上空を一周してから離脱していった。カメリアは、マナをコントロールしながら支援AIを抱いて、ステルスモードでゆっくり降下していると思われるが、当然肉眼では見えない。それを信じてこちらは予定通り行動開始するのみ!
しばらくして、ポコの眼が激しく点滅した。
「攻撃開始時刻デス!」
「打ち―方、始めっ!」
第三小隊の小隊長の号令で一斉に砲撃が開始された。
こんな昼間から正面攻撃があるはと思っていなかったのか、敵さん結構慌てているようにも見え、反撃も結構的外れな方向を狙っているような気がする。これはいけるのでは、と思った瞬間、敵の反撃は止み、われらの位置を特定したと言わんばかりに、要塞内から竜族が二十体ほど飛び出してきた。そのかなり後方に人間が、おそらく一個中隊ほど続いている。数的には圧倒的にこちらが不利なので、後方の第二中隊と合流するのがセオリーなのだが、まずは、先鋒の竜族を無力化するのと、カメリアが脱出できるまで、敵兵を引き付け、できるだけ時間を稼いで踏みとどまる必要がある。
カメリアが脱出に成功したら、支援AIが戦術ネットにアクセスするか、彼女自身が持っているはずの信号弾を打ち上げる手はずだ。
「こっちは先に行くわよ。ローアイ少尉!
リサ・メグ、先鋒の竜族を薙ぎ払いなさい!」
アイリス少尉の檄にこちらも答える。
「いくぞ沙羅! 食らわせろっ!
カレンとエルは、人間たちのフォローを頼む!」
「了解!」
エルフたちが一斉に自分の仕事を開始する。
リサが杖などを使わず、開いた手指の先から小粒の魔法弾を大量に発射して弾幕を形成し、前方三十mくらいで竜族を足止めしたところに、メグが片刃のかなり長身な刃物を振ると、半円形の刃の形をした魔法弾が飛び出し、鋭く敵に命中していく。その間隙をついて前に出てきたやつを、沙羅と俺で薙ぎ払う。
アイリス少尉の立てた戦術はうまくいっている。
沙羅へのマナ供給も大丈夫そうだ。
「よっしゃ―。もう一匹倒した―」
沙羅はそれほど緊張した様子もないようだが、沙羅と密着している部分の皮膚がしっとり汗ばんできて、むせかえるような少女のにおいが鼻を刺激する。しかも、沙羅が思い切りロッドを前に振る度、彼女の柔らかいお腹が、ぽにょんっと後頭部にまとわりついてきて、一瞬、今が戦闘中なのを忘れそうになる。
(くそ、しっかりしろ。おれは変態じゃない。ロリコンじゃない……)
気を引き締めてまわりを見渡すと、竜族の数はかなり減っていて、これなら、ここのエルフたちで何とかなりそうだが、人間の小隊のほうが心配だ。人間の敵が迫って来ていて数で圧倒されかねない。おびただしい弾が十二小隊に降り注いではいるが、カレンのシールドがなんとか防いでいるようだ。しかし、いつまで持ちこたえられるか……
カメリア、早く脱出しろっ!
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