【R18】特攻E小隊

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第十七話 予期せぬ来訪者

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 自力でも多少は空中に浮けるが、こんなに上空をこんなに高速で飛んだことはない。飛行機とは気持ちの良いものだと、カメリア・フランは思った。

「要塞上空まで、あと五分です」
 パイロットに促されて、一緒に降下する支援AIのセンサーを起動させたが、いくら自分のステルス能力でも、パラシュート全部を覆うことはできないため、軽装で、素で飛び降りるのはちょっと怖い。
(まあ、気張らんとね)

 やがて目標上空に到達し、カメリアが離脱しやすいよう、飛行機が機体を左に九十度傾けてくれたので、カメリアは後部座席からするりと空中に身を投げ出した。すでにマナの流れはコントロール出来ているので、ほぼ空中に停止しながら、ゆっくり降下を試みる。
 しかし、ステルスを効かせながらの空中浮遊は、思ったより大変だ。
 離脱していく飛行機の無事を祈りつつ、気を張りながら降下すること約五分。ようやく要塞裏手の地面に着地した。目の前で、敵兵がドタバタと要塞の内外を行き来している。
(うん、大丈夫。みんなには全く見えてない……)
 自分のステルスが有効なことを確認し、支援AIを抱え、隙を見て要塞内に潜入した。支援AIがすぐに要塞内のスキャンを開始する。五分もあれば欲しい情報は揃うだろう。後は、入った時の逆で、隙を見て要塞を出ればいい。

 カメリアのステルス能力は、身体の廻りにある大気中のマナを、細かく結晶化させ、光学迷彩の様に使うことで発動する。空中浮遊も原理は似ているが、結晶化したマナを自分の体の上から下へ連続的に放射して、その流れに乗るものだ。

 しばらくして、懐に抱いていた支援AIが、プルプル振動した。
 これは、音や光が使えないため、予め決めておいた合図だ。
(ミッション完了! 離脱開始!)
 侵入時に入ってきた扉を、敵兵が開けっ放しのまま外に出て行った。

(チャンス!)
 カメリアは思いっきり外に向かって駆けだした。そして出会いがしらに、外にいた敵兵にぶつかった。

(しまったっ!)
 しかし敵兵は、突然なにかに突き飛ばされたが、何が当たったのかわからず、キョトンとしている。

(しめた、ステルスが効いている!)
 そして、体を起こして、その敵兵から離れようとしたその瞬間、突然、後ろから羽交い絞めにされた。ものすごい力で首を締め上げられ、後ろを振り返ることができない。しかし、自分を締め上げているものの腕が見えた。

(竜族? しまった! これだけ近いと、奴らには、マナの流れで自分の存在がわかってしまう! ……苦しい。息が……出来な……)

 意識が遠ざかる中、支援AIが近くの林の中に飛び込んでいくのが見えた。

 ◇◇◇

 陣地に向かってくる竜族は、ほぼ制圧できたようだが、早く退却しないと敵の歩兵中隊が迫ってきている。
 カメリア脱出の報が待たれる中、突然、陣地後方で怒声が上がった。
「うわ―、竜族だ―!」

 しまった! 一体、死角からすり抜けられたか! 竜族と一対一だと、人間は一たまりもないぞ。急いで駆け寄るが、まだ距離がある。
「沙羅! 行けるか?」
「う―ん、もう少し近づかないと……」
「くそっ、間に合わんか」
 竜族がブレスの体制に入った。ダメだ。間に合わん!

 ぽんっ!
 その瞬間、気の抜けたシャンパンの栓がようやく抜けたような、間抜けな音がした。

 みると攻撃体制にあった竜族が後ろに吹っ飛んで動けなくなっていて、その手前にエルが立っていた。
「??? 今の、もしかして……エルか?」
「お―、すいか姉ちゃん、やったな」

 とりあえず前から来る竜族は、B小隊が全て決着をつけたようなので、周辺のサーチを厳にするようポコに命じて、エルのそばに駆け寄った。
「エル、お前……」

「えっ、ははっ、私は何もしてませんよ~。
 ただちょっと、カレンさんに、私を生贄にする際は、私も気持ちよくなるようにしてっとお願いしちゃいました! てへっ!」
「てへっじゃね―。 ……でもまあ、彼らが助かったんでよかった。とにかく礼を言う」
「そうですよ、こんなところで出し惜しみして、仲間が死んじゃうのはとっても悲しいですから! それに、カレンさんは、ちゃんと他の人にわからない様なテクニックで、私を導いてくれましたよっ」
「……まあいい。細かい説教はあとだ。とにかくそろそろ第二中隊と合流しないと、みんな敵に飲み込まれるぞ。カメリアからの連絡はまだないのか?」
「支援AIノ離脱は確認デキましタガ、かめりあサンカラノ連絡ハマダ有リマセン」

 ポコの説明を脇で聞いていた推し兵たちがいきり立つ。
「行かせて下さい、ローアイ少尉! 俺たちが要塞に殴り込みます!」
「バカを言うな。無駄死にしたいのか!」
 とにかく、このバカ共を抑えなくては。
 それに引き際の判断を間違えてはいけない。
 アイリス少尉と話そうと思って後ろを振り返ったその瞬間……

「小隊長! あれ……」
 エルがおびえて座り込んでしまった。
「何? あれ、でっかい……」
 沙羅も放心している。
 ……
 ドラゴン?
 ……
 なんであんなやつが……

 次の瞬間、俺は本能的に叫んだ。
「いかん、総員、即時撤退っ! ポコ、全部隊及び第二中隊にも通信連絡。
『ドラゴン出現。至急総員撤退の要を認む』だ」
「ぴっ! 通信完了!」
「それで、小隊長。カメさんは……」
 沙羅が半泣きだ。
「残念だがここは引かざるを得ない。みんな揃って丸焼きになりかねんぞ」
 すでにアイリス少尉たちは第三小隊と撤退を開始したようだ。
 我々も急ごう。

 泣きじゃくる十二小隊の推し兵連中のケツを蹴りつつ、どうやって逃げたか細かいところは記憶にないが、気が付けば、なんとか自国領土内で後続の第二中隊と合流できていた。ドラゴンも敵兵も、あまり深追いしてこなかったようで助かったが、エルもカレンも放心状態だ。いくらエルフの魔法弾が有効だとは言っても、あんなやつに勝てる気がしない。リサとメグもアイリス少尉にしがみ着いて泣きじゃくっている。
 幸い、友軍には大した負傷者も無く、カレンのシールドとヒールが、ちゃんと効果を発揮したのだろうが、カメリアのことは痛恨の極みだ。あの状態では助かっているとは考えにくいが……

「小隊長、そろそろ降りていい?」
 普段は元気な沙羅も、かなり気落ちしているようだ。
 自分では留め具を外せないので、エルを呼んで手伝ってもらった。

「うわ、すごい汗。びしゃびしゃですね。ご苦労様でした」
と言われてはじめて気づいたが、確かに体中びしゃびしゃだ。
 冷や汗もアブラ汗も、確かにたくさんかいたが、ここまでとは…………
 あっ、そういえば……ドラゴンの顔見たとき、首筋がすっごくほっかほかになったような気が……と、沙羅の方を見ると、耳まで真っ赤にしながら、俺と目線を合わせないようにしている。
 
「……ああ、本当に冷や汗の連続だったよ」

 今日の頑張りに免じて、汗ということでいいかと思った。
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